Neetel Inside 文芸新都
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アルバイター
11.交番から駐車場へ

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11.
 刑事の石川は近くの交番の若い巡査を連れて、暴力団事務所へガサ入れしない見返り品として用意された違法物品を、コインロッカーから交番へ運びこんでいる。
 「すまねえな、手伝わしちまってよ。」
 「いえ、とんでもありません。私もマル暴目指しています。」
「そうなの?止めとけ止めとけ。危ない事ばっかりで割に合わねえよ。…結構重いだろう?」
「はい。」
「中…気になる?」
「あっいえ。」
「気をつけて運んでくれよ。落とすと、爆発すっからよ。」
交番に到着して、押収物を休憩室に運び込むと、石川は箱を開けて中身をあらため始めた。
「ぶっそうだよな。ウージーマシンガンに…手榴弾に…リボルバー…なんだこれ?」
取りだしたのは、腕に装着するタイプの仕込み銃であった。反動をつけると、レールをつたって小型銃が掌の位置に飛び出す仕組みである。
 その時、交番の表で物音がして巡査が飛び出していった、5秒程すると「どうしたんだ落ちつきなさい!」と巡査が揉める声が聞こえてきたので、石川は休憩所から頭だけ出して覗いてみた。
杉村は茂みに捨てられたあと、一心不乱に逃げだすと、近くにあった交番に飛び込んだのであった。
「お、お巡わりさん、…事件!」
「なんだぁ?どうしたんだ、まあ座って!」
「いい!いい!殺された!人が!」
「はぁ?どこで?いつ!?」
「いまさっき、すぐそこで!」
「ま、まあ落ち着きなさい!」巡査が落ち着かせようしていると、石川がやってきて
「近いのか?」と杉村にたずねる。
黙ってうなずく杉村。
「よしじゃあ連れていけや!」
そのまま、ホテルの地下駐車場にやって来た石川と杉村。
「なんだぁ?何もねえじゃねえか。」
「う、嘘だ!さっきまで本当にここに人がいて!」
杉村が歩くと、ふき残しの血痕が杉村の靴底について、スタンプの様に血の靴型が出来上がった。それを見ると、石川は、
「おい!ちょっと静かにしろ!」と怒鳴った。
「だって確かにここで!」
「黙れっつってんだよ。」と杉村に銃を向ける石川。
「ひい!」と杉村が固まると、石川が近づいてきて血痕をチェックする。
「血だな…。」
「お前、偶然ここにいたのか?それとも何か関わりがあんのか?」
黙りこむ杉村。
「どうなんだ!!?」
「ひぃ!は、はい俺が殺りました!」
「はぁ?」
「い、いや殺ってねえ!殺ろうとしたのを手伝って!で、俺の仕事は終わって、見てたら!逆に殺されたんです!」
「誰が、誰を?」
「えと、店長が、あコンビニのオーナーがブチ切れて会長をブチ殺そうとして逆にやられたつーか。」
「はぁ?お前、じゃあ殺人ほう助未遂じゃねえかよ。」
「は、はい!いいや!違います!俺、何も関係ないんで!」
「関係あんだよ馬鹿野郎!…まあいいや!で、誰が正当防衛で店長殺しちまったんだ?」
「会長。」
「会長~?バーカ!コンビニの会長がなんで人殺しする必要があるんだよ。…まあその辺の所は署で詳しく聞くから。…お前110番してないの?」
「は、はい必死で逃げたら交番が見えて、それでつい…」
「馬鹿だな~。まあいいや。」

それから、10分後、鑑識官や所轄の刑事がやって来て、杉村は警察署へ移送された。
「そう、だから容疑者の男が言うには、逆に銃で殺したんだそうだ。」石川が事態の説明をしていると、一人の刑事がやってきて、「石川さん。長官からお電話です。」と携帯電話を渡してきた。
「長官?長官様がこの俺に何の用だっていうんだ?」
「さ、さあ私は何とも…。」
「もしもし?」石川は疑問に思いつつも電話にでた。
「ああ、石川君か。」
「はい。そうであります。」
「今、展開しちゃってるでしょ、色々。」
「ええ、まあ。」
「全部撤収しちゃっていいから。」
「ええ?」
「現場の指揮取ってる鍋島君見える?」
「ええ。」
「もう荷物まとめて撤収準備してるでしょ?」
「ああ!?なんで!?」
「まあ、そういう事なんだよ。上の意向で事件性はないってことになっているから。」
「ですが!長官!」
「首!」
「え?」
「首が飛んじゃうよ。」
「私…の?」
「なーに馬鹿なこと言ってる!私も!署長も!君の上司も!同僚も!全部!…わかるか?トップシークレット案件なんだよ…。」
「わ、わかりました。」と言って電話を切る石川。ちくしょう!と叫んで壁を蹴りつけた。
「胸くそわりー帰る。」そういうと石川は現場をあとにした。

それから2時間後、警察署の前に車をつけ石川は正面玄関を見張っていた。
すると、杉村が警察署から出てくるのが見えた。石川がクラクションを鳴らすと、杉村が石川に気付いて車に近寄って来た。
「あー、いや刑事さん。さっきは取り乱しちゃってすみませんでした。」
「ああ。」
「なんか、妄想癖つうか、統失の気でもあんでしょうかね。」
黙る石川。
「でも、良かった。何もなかった!身の潔白が証明されましたよ。まあ身の潔白も何も最初から何もありゃしなかったんですけどね!へへへ。」
「よう。」
「え?」
「何もないのに泣く奴はいねーよ。」
杉村は必死に感情を殺そうとしていたが、涙は止まらず流れ続けていた、石川にそれを指摘されると、杉村はその場に膝をついた。
数分後、泣きやまない杉村にしびれを切らして、
「馬鹿野郎、いつまでもメソメソ泣いてんじゃねーよ。」と言うと続けて、「ちょっと乗れや。家まで送ってやるわ」と石川。
杉村は車の後部座席に乗り込むと、家まで向かうことになった。
「あっでも…やっぱ俺、監視下に置かれるんですか?」
「あ~?何もなかったことになってんだからよ。お前に費用割くほど警察も暇じゃねーんだよ。」
杉村は少し落ち着きを取り戻すと、後部座席の隣にある段ボールの、中身が気になった。
「なんですかこれ?」
「ああ…銃だよ。」
「ええ!?」
「近くのヤクザの事務所で押収したブツだよ。」
「…すごいですね。」
「お前にやるよ一つ。」
「えっ?でも…」
「いいから!」
「じゃあこれ!」と言って一番上に置かれていた仕込み銃を手に取った。
「そんなのでいいのか?」
「ええ!」杉村は物騒な物を欲しいとも思えず、受け取る物はなんでも良かった。
「うまくやれよ!」
「え?」
「ほらその銃で!」
「この銃で?」
「とるんだろ敵?」
「えっ?いや!」
「何だお前?仲間殺られたのに、敵もとらねえで、自分だけ日常に帰るつもりなんか?」
「ええ…だって!」
「はぁ~。もういい。とんだクズ野郎だな!お前あれか、オーナーに対して意気に感じて参加したんでもなけりゃ、さっき流した涙もただ単に緊張がほぐれてお漏らししちまった小便の類なんだな。…なんだよ、金か?」
うなずく杉村。
「いくら?」
「1000…万。」
急停止する車。
「降りろ!」と怒鳴る石川。
「え?」
「降りろクズ野郎!さっさと降りねえか!ブチ殺すぞ!」
「ひっ!…あ、あの銃は…」
「ああん?何だ?くれちゃるくれちゃる。さっさと降りろよ豚野郎!」
命の危険を感じて飛び降りる杉村。すぐに走り去る車。
一人取り残された杉村はだんだんと怒りが込み上げて来た。
「ちくしょう!ちくしょう!やるよ!やってやんよ!ゴーグル先生俺に力を貸してくれ!」と言ってスマートフォンのナビ機能を起動させた。
「ファイブマート本社!」スマートフォンに向かって叫ぶ杉村。
ナビは数秒の処理を経て、応答する。
「案内を開始します。ここから200Mくらい直進で、目的地に到着です。」
「近けえじゃねえかよ!」と言うと、仕込み銃を握ろうとする。しかし、仕込み銃に装着された仕掛けのせいでうまく握ることができない。
「なんだよ!持ちづれえよ!」
それから、本社ビル前に到着すると、ナビが反応する。
「目的地に到着しました。案内を終了します。」
 本社ビル横の茂みに体を隠して様子を窺う杉村。ビル正面には、ガタイの良い黒人の警備員が5人ほど立っている。
 表から飛び込んで警備員につかまりボコボコに殴られて捨てられるという妄想をした杉村は、「無理、無理、絶対無理!」と言ってその場から逃げ去った。

       

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