Neetel Inside 文芸新都
表紙

断片集
復讐

見開き   最大化      

×月○日

ここ数日、ずっと同じことばかり考えている。
それが余りにも小さい出来事であることは自覚しているのだが
私は小さいことにこだわりすぎる。

それは数日前の電車での出来事だった。
その日乗った電車は座席が埋まる程度には混んでいた。
だから私は老夫婦が座っている座席の手前で
つり革を持ち、もう片方の手で持った文庫本を読んでいた。
するとすぐに、老夫婦の男性のほうがパートナーに向かい
「友達がいないから本なんか読んでるんや」と呟いた。
私はそれが聞こえないフリをしていたし、
老夫婦の方を見ることもなかったが、
本の文字を目で追いながら、もはや一つも内容は頭に入らなかった。
頭の混乱を反映するように同じ行を何度も読み直し、
私は自分が立っている感覚が次第になくなるように感じていた。

今、私はその時の出来事を何度も頭の中で再生している。
と言っても、まったく同じことを繰り返しているのではない。
老夫婦の男性が私のことをくさすまでは同じだが、
その後、私はポケットから拳銃を取り出し、
その男性に発砲したり、時には隣のパートナーに発砲したり、
ある時は包丁でメッタ刺しにしたり、あるはずもない筋力で殴打したり、
つまり、私はずっと頭の中で復讐を続けているのだ。

私は頭がおかしいのだろうか?
しかし、私は日常生活において人を不快にさせないこと、
人を傷付けないことを、絶えず意識して暮らしている。
一体、あの老夫婦や、すれ違い際に舌打ちをするような人間と私、
頭がおかしいのはどちらだろうか?

私は理性的な人間ではない。
数日前のような出来事があると、すぐに全ての老人を憎むようになってしまう。
それでは「最近の若い者は」と口にする老人と同じ程度の人間になってしまう。
私の理性はそれを自覚するのだが、私の感情はどす黒い復讐心に囚われていて、
そんな理性の戯言は何の役にも立たないのだ。
私はひたすら復讐を続ける……。

       

表紙

あdbgんsfな 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha