Neetel Inside ニートノベル
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清水、歯医者行くってよ
03.紫電一閃

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「というわけなんだ紫電ちゃん、助けてくれ」
「断る」
「そんなあっさりしないで」
「この状況を見てもまだ私にすがろうと言うのか……」
 そういう紫電ちゃんは生徒会室のそばの掃除道具用ロッカーの影に隠れ、ボロきれを身にまとい、垢まみれになった顔をそっと隠して俺たちを見返していた。
 茂田がよろよろと歩き出し、叫んだ。
「紫電ちゃん! いったい何があったってんだよ! そんなホームレスみたいになって……」
「よせっ、大声で私の名を呼ぶな……」
「何に追われてるんだよ?」
 紫電ちゃんは小さな手で顔を拭いながら言った。
「生徒会だ」
「なんでまたそんなことに……」
 紫電ちゃんはしゅんとして俯く。
「文化祭であれだけの不祥事を起こしたんだ。生徒会は総辞職さ。というかお前ら、校内放送を聞いてなかったのか。選挙もやったろ」
 そういえば、体育館に集まって手を挙げたり挙げなかったりした気がする。
「紫電ちゃん、もう生徒会副会長じゃないのか……キャラ付けどうするの?」
「べつに私はキャラを立てるために生徒会に入ったんじゃない!」
 ボロきれから見えかけた柔肌を慌てて多い隠しながら、紫電ちゃんはぷうっと頬を膨らませた。ほんのり涙目。
「……生徒会としての任を解かれたのは残念だが、仕方ない……生徒たちをあの悪夢から守れなかったのは私だからな。しかし……幻狼院会長が使い込んだ生徒会予算の請求が、私にまでかかってくるのは納得がいかない!」
 俺は身長185cm、体重75kg、夢と希望に溢れた女子が求めてやまない細マッチョ体型のアルビノ先輩のことを思い出した。いつも生徒会室の冷蔵庫に牛肉が入っているのでおかしいと思ってたら、やはり横領していたのか……
 俺たちは階段の踊り場で、いたいけな紫電ちゃんを取り囲みながらしきりに同情の言葉をかけた。
「どんまい」
「いや、私のせいじゃないんだが……」
「止められなかった紫電ちゃんにも責任はあるさ。牛肉、喰ったんだろ?」
「おまえは私を凹ませに来たのか? 鍋は私には秘密裏に行われたんだ」
「ごめん」
 肉喰ってねえのに追われてんのかよ。哀れな……
 横井がポケットに入っていたアメちゃんを差し出したが、なんの慰めにもなっていない。
 紫電ちゃんは寒そうにボロきれを纏い直しながら、くしゅんとくしゃみをした。
「……生徒会を追われてから、私はこうして校内に潜伏し、彼らの追手から逃げ続ける日々……そんな私に何ができるというんだ、後藤」
 俺はしばらく考えたが、やはりこれしかないと思った。
 財布を取り出し、中から五千円札を取り出す。それを紫電ちゃんに押しつけるようにして渡した。
「ご、後藤……これは?」
「ふっ、女の子が半裸で震えてたら、渡すものは一つだろ?」
 俺は手をわきわきさせてみたが、紫電ちゃんに笑顔で人差し指をへし折られたので引っ込めた。あぶねー三秒以内にハメ直したからセーフ。
「何するんだ紫電ちゃん」
「何するんだはお前だ! わ、私は負けないぞ……かかってこい、後藤、茂田、……横溝!!」
「横井です」
 クソ帰宅部は悲しげな顔をした。
「立花さん、覚えては俺の名前を忘れていくね……」
「す、すまない……」紫電ちゃんは眉をたわませて謝罪した。
「なんだか、どこにでもいそうな顔だから……あっ、いや違う、元気を出してくれ、よこみち!」
「名字から名前になったね」横井はしゃがみこんでいる。
「どーせ俺はモブだよ……バスケ部もすぐやめたし……でも、もうそれなりに付き合いあるのに名前を忘れるのはひどいんじゃないかな……」
「わ、悪かった……」
「お詫びが欲しいな……」
「……何が欲しい?」
「そのボロきれをください」
「やっぱりそれが目的かっ!!」
 風切音が鳴って、紫電ちゃんのすくいあげるようなショベルフックが横井の鳩尾にぶっ刺さり、やつを天井近くまで跳ね上げた。蛍光灯が割れなくてよかった。
「ぐふうっ……」
「はあっ……はあっ……」
 顔を真っ赤にした紫電ちゃんは、なお一層強く自分を裸形を隠す布きれにしがみついた。
「なんなんだお前らは!! そ、そんなに私の裸が見たいのか!?」
「そりゃあね」
 当たり前じゃん。
「くっ、この変態ども……死ねっ!!」
 つやつや光る肩を見せつけるようにして身体の前を隠しながら、べーっと赤い舌を出してみせる紫電ちゃん。これ誘ってると思ったって法廷で証言したら通りそうだよね。
「まァ冗談はそのぐらいにしておいてだな」茂田が仕切った。
「男鹿のやつがひょんなことから自分の能力に自信をなくしちまったんだ」
「どうしてまたそんなことに?」と紫電ちゃんが小首を傾げる。
「清水の虫歯を抜こうとしてな」
「お前らいったい何をしてるんだ……」
 だってほっとくわけにもいかねーし……
 紫電ちゃんはハア、とため息をついてから、つるっつるの脇の下を見せつつバリバリと金色の髪をかきむしった。
「……男鹿の自信を取り戻させたい、というわけか」
「そういうことになりますね」
「佐倉はなんと言ってる?」
「俺らに丸投げして帰りました」
 冷たいやつだぜ。男鹿とは政府の手先だったころからなかよしのくせしてよォー。
 まァ、最近は超能力合戦も落ち着いてるみたいだし、昔のことなんて忘れちゃうのが平和ってやつなのかもね。
 俺たちは一緒になって、紫電ちゃんと男鹿のことについてしばらく考え合った。

       

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