Neetel Inside ニートノベル
表紙

魔術のA
始まり

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「おっし!行きますか!」

少年は自分の家から勢いをつけて飛び出す―――

今日から新生活、わくわくせざるを得ない。新しい学校初日。だがこの少年・杉崎和弥が行く学校、普通ではない。

家から出ると晴れてぽかぽかした陽気が体全体を包んだ。そんな時同時に走ってきた人影にぶつかりそうになりとっさに避けた。「きゃあっ!? …カズヤくん!」
近所に住む同い年の三浦凛は体勢を整えながら「ひっさしぶりだね!和弥くん!」と続けた。和弥のやけくそテンションが吹っ飛ぶくらいの元気さだった。
この朝からテンションageスポーティー少女・凛は小学校卒業までは一緒だったのだがここら一帯ではバレーがそこそこ強い中学に行ってしまい三年間会うことはなかった。
昔からスポーツが好きで特にバレーに主に熱中してた凛は身長はそんなにでかくはなってないか、肩辺りまでの髪を後ろで二つに結んでいた。女子高生の制服を凛が着ていることに若干の違和感を感じた。
お互い成長してるんだなと思うと感慨深い。特にスポーツに熱中するわけでもなく成績も普通だった俺はそのまま近くの中学に入った。近所ではあるが休日はゲーム、パソコン三昧で帰宅部の俺、片や毎朝ほぼ朝練で女友達も多くよく出かけるアウトドアな凛とは両極端な位置に存在していて全く逢わなかった。
「小学校以来だな…」
女子の前では見知った顔でも変に緊張してしまう。一人のときや男連中の中では普通でいられるのだが。そろそろ克服したい頃合ではある。
「今日からお互いまた同じ学校だねー! よろしくー!」「…よろしく」
そう、凛とは今日から同じ学校なのだ。たまに会う凛のおばさんからはそう聞いていたので驚くこともなかったが。
「間道学園って正直ぱっとしない学校だよな。そんなにスポーツでも学業でも特に聞いたことはないけど歴史はあるんだよな」
「私たちが産まれる前からずっとある学校なんだってお母さんが言ってたよ、楽しみー」
適当にやってたのになぜか推薦で選ばれ学年の秀才達は推薦を取りたくても取れなかったらしい。そのせいで卒業まで同じ学年の中であまり嬉しくないうわさもたっていた。
その旨を凛に話すと「私もよくわからないけど向こうの学校から来て欲しい的な連絡があったんだよー」
成績もそれなりに良くまじめでスポーツをしていた凛は俺みたいな変なうわさもたつこともなかったらしい。
それからはこれまでのお互いの中学生活やらの雑談に興じた。
間道学園は俺たちの住む町の駅から4駅離れた場所にある。だが学校から生徒は無料のバスも出ていてその辺は心配ない。間道学園行きと書かれた専用バスに乗り込んだのだが、俺ら二人以外には四人しか乗っていなかったのでガラガラという状態だった。
和弥と凛は自分たちの荷物を隣の席に置いて座った。程なくしてバスは発車した。
「寮生活だから荷物多いよね、重かったー」凛は両手をぷらぷら振っていた。「寮生活ってのがまた不安なんだがやっていけるか? 俺…」「大丈夫だよ! きっと楽しいよ、私はバレーの合宿とかで多人数生活よくしてたから慣れたもんですよ」と自信満々だった。

景色が流れていきいつの間にか俺は眠ってしまっていたらしい。「着いたよ、おきてー」と腕をぽんぽんされて薄目をあけたらきれいな校舎と大きな桜の木が―――あるわけではなく申し訳程度の桜と普通の門構えの学校だった。これは面接の時にも来たのでそんなに期待はしてなかった。
「降りよー」 凛が荷物を持ち出したので俺も急いだ。
町からは少し離れていて乗ってきたバス以外に一台も車などは通らなかった。ちょっときれいとは言えない校門から入ると校庭に新入生が集められていた。ざっと見ても500人はいた。唖然とし「多くね?」と声を漏らしてしまった。こんなにいたのか―― それにしては他の上級生などは見当たらないようだが……。校舎の方も静かだった。
「新入生ー、こちらに集合するようにー」
数人の教師の中で一人声を上げていたのは30代前半の女性だった。細く着るものを変えれば貴婦人な印象。それから程なくして女教師は「全員そろったようですね」と言った。どの教師もチェックなどはしてないようだ。和也は疑問に思い隣の凛に聞こうと思ったが「楽しみー!」と何も不思議には思ってない感じだった。
「私の名前は榊原恵子と言います、この学校の教頭をやっています。これから三年間一緒にがんばっていきましょう」そこそこに拍手が湧いた。
「ではあまり列を乱さず着いてきてください」
そう言ってゆるりと歩き出した。気品高い歩きだった。

学校自体はそんなに大きくない、普通の高校っていう感じだ。この学校のどこにこんな人数入れるのかの方が気になって仕方ない。俺の他にもこの学校の静けさ、何やら不思議な雰囲気に疑問に思ってる人もそこらにいた。
校舎をぐるりと回り裏にある体育館の中に新入生を入れる。全員の前に歩いてきた榊原と名乗った女教師は深く息を吐きみんなの目を見据えた。
「これから皆さんを魔導学園に導きます。大変な事もあるでしょう、投げ出したくなることもあるでしょう。しかし皆さん立派な『ソーサラー』なって下さい。期待しています!」
新入生の誰もが首をかしげ疑問を投げる間もなく、榊原教頭は左手を天に掲げ体育館の四隅にいた教師も俺ら新入生に波動を送るかのごとく両手を向けていた。

「テレポ!」

俺達は淡い光に包まれ―――
一瞬で消えた。


     

グッと体全体が引き込まれる感じがした。昔からバスなどで長距離移動すると酔いで吐きそうになるが、その心配をする前には意識がクリアになる。眩しい光に照らされているのが徐々にわかる。
そしてここがとてつもなく大きな会場だとわかる。野球ドーム10個分……ぐらいはあるだろうか。ばかでかい。続いて会場全体から響く拍手の音。「今年も我が魔導学園に新入生が入ってきましたぁ! もっともっと大きな拍手で迎えてあげてください!!」
どこから喋ってるのか全くわからないほど広い会場だった。ホールのような講堂で周りは黒いローブを着ているものが大半で、紙ふぶきが舞い歓迎する旨の歓声が全体で響いていた。
隣の凛も周りの新入生も俺同様戸惑っている感じだ。

一番奥の壇上から風格のあるどっしりとした体格の初老男性がマイクに向かって軽く咳払いした。
遠くて良くわからなかったが上の方に巨大画面がぐるりと張り巡らされている事に気づく。そこに初老の男性が映り、「えー、新入生の皆さん。我が学校、魔導学園へようこそ。私は間道秀吉、この学園の学園長をしております。皆さんは驚かれていると思いますがここは普通の学校ではありません」そう言うとそこら中から「恒例行事だな」「俺もただ呆然としてた記憶しかないぜ」「カッコイイのいるかしら」などの声が聞こえてくる。
「皆静かに。新入生の皆さんは驚くとは思うが徐々に慣れていってほしい。まずこの学校は皆さんが過ごしてきた世界ではありません」

「……は?」

声が漏れてしまった、当然だ。何か不思議な現象でさっきまでいた体育館ではなく気づいたらこんなばかでかいホールにいてなんか歓迎されてるが普通ではない。普通の学校ではない? 過ごしてきた世界じゃない? 一体何を言ってるんだ?
「どういう事?」凛も付いていけてなかった。「そして皆さんには魔法というものを身につけて頂きます」
矢継ぎ早に言われてもわけがわからない。ジョークで言ってる雰囲気ではなさそうだ。
「まずはこれを……」学園長と名乗るじいさんが右手を上に向けると手のひらから炎が出た。あまりにも自然にやるもんだから手品かと思っている生徒が大半だった。
「えー、これは手品ではありません」
また上級生らからクスクスと笑いが聞こえてくる。
「この世界と私たちの住む世界は異なっており……――――」
何やら古い歴史を30分は語っていたが俺らはちんぷんかんぷんだった。どこでも偉い人の話は長いのは変わらないらしい。少ししたら榊原教頭に「その辺で…」とたしなめられていた。

「えー次はー、新入生代表!杉妻賢吾!……すぎつまけんご!」
その人物は俺の後ろから悠然と歩いてきて俺の横を通り過ぎていった。横顔しか見てなかったが顔立ちは整っていてスラっとしていて事の顛末にも動じる事は無く落ち着いていた。
会場の女子達は「え、イケメン…」「モデルみたい…」と、うっとりしてる人でほとんどだった。
「これが格差か……」とおれ自身がっくりしていら隣の凛はイケメンに気にした様子もなく「どうしたの?」と笑顔で聞いてきた。そういえば凛って付き合ってる人はいるんだろうか? 凛のおばさんから近況は聞いていたがそういう話はなかったな。まー気にしてもしょうがないけど。

杉妻賢吾は壇上に上り、用意されていた紙を渡そうとした教師を手で静止した。そしてマイクの前に立ち開口一番―――


「俺は……」

杉妻と言われた人物は息を大きく吸い込んだ。


「魔神を打ち滅ぼす!!絶対にッ!!」


その発言で講堂全体がザワッとなった。榊原教頭は目を見開き、学園長は静かに発言者・杉妻賢吾を見下ろしていた。教師はぶるっとしてる人まで見えた。他の生徒は何やら難しい顔をして回りでひそひそと話をしている。
何だろう? 魔神? ゲームをやってる人ならよく見る単語だが。
榊原教頭が早々に杉妻を壇上から下ろし体格のいい男教師が後ろの方に連れて行った。その時の杉妻の顔は何か憎んでいるかのように見えたがすぐクールな感じに戻った様だ。

その後教師の紹介をされていろんな連絡事項を話した後榊原教頭は「上級生達一同はこれにて解散」と、言うと決まっているのか「了解」とそれぞれが発言し講堂から出て行った。ただその出て行き方が普通ではない。
榊原教頭がやったように「テレポ」と言い講堂から消え去る者、上の方の席から瞬間移動して入り口に何事もなく現れ出て行く者、飛んで入り口まで行くものと様々。
そしてその誰もが当然の如く、自然にやっているのだ。これだけ見せられた俺達は否が応にも信じざるを得なかった。
「それでは新入生はこちらへ」榊原教頭は講堂の奥にある薄暗い部屋で一人ずつ部屋に招きいれた。500人くらいいるので列は長蛇になっていたが他の教師も整理にまわっており混乱にはなっていない様だ。

「あの部屋で一人一人何やるんだろうね? 面談っていう感じではなさそうだけど……」と凛は少し戸惑ってはいたけどもう驚いてはいないようだ。案外物怖じしない性格なのかも知れない。「さあ? でも十秒くらいで出て来てるし何か渡してるとか?」
俺達新入生は並んでいる間雑談していた。落ち着きを取り戻そうとしているのかも知れない。
『ソーサラー』とはなんだろうか? この世界の職業の一種か? 魔神って単語はゲームをよくやってる杉崎和弥も知ってる。なんか強いボスキャラだったイメージがある。ただそれだけだ。凛にも意見を聞こうと思ったが早くも近くの女子数人と仲良くなり何やら楽しそうに話している。
(こういう時ぼっちになるのはツ、ツライ……)
早く友達を作らねば!と知り合いがいれば良いのだが俺の中学からは俺一人しかこの間道(魔導?)学園には来ていないので知り合いがいない。凛みたいに小学校の知り合いがいれば良いのだが。
ちょっとづつしか進まない列に早く終わってー!などと祈っていると前の方で「やったぜー! 俺風だったぜー!」などと騒いでる奴がいる。その人物は何かがそんなに嬉しかったのか走って係員の誘導も見えていないようでこちらに走ってきた。すれ違いざまに肩にぶつかり「おっと、すまんね! へへっ」とあまり悪びれる様子もなく駆けていった。
他にも出てきた生徒は「私土だった…」「水だってよ」などと順々にそこそこで盛り上がっていた。
だがそういった話を聞いても、また言ってる本人たちもみんながみんな半信半疑の顔は変わらない。
「次!」
そうこうしてる間に俺の番が来た。「は、はい」そう言ってドアの前に立つ。「頑張ってねカズヤくん!」「おう」凛に片手を軽く上げて短く答えた。

中は薄暗く、ランタンが両壁に一個ずつあり小さな部屋を照らしていた。台座の上に水釜が置いてありその横に立っていた教師が「名前を言え」と言ったので「杉崎和弥」とはっきり言った。「水釜の前に立って静かに水面を見つめろ」と言ったのでとりあえず言うとおりにしてみた。
すると水面が揺らめき青白い文字でゆっくりと『風』と出た。その後急にボコボコと沸騰し始め『風』の文字が赤くなり驚いてびくっとしてしまった。「おっ、……ほーう」とその様を見ていた横の教師はニヤッとした。少し不安になった俺は「これで良いんですか?」と聞いた。「それでいい。この緑色の紙を持って待機してろ」と言いながら次の生徒・凛を招き入れたので俺は部屋からでた。

凛も終わったらしく俺の方に走ってきた。「カズヤくんはどうだったの?」「俺は風だったよ」沸騰して赤い文字に変わったのは伏せておいた。単純に他のみんなも同じだろうと思ったからだ。
「まあ、」「普通に考えるのならこれは属性だろうな」「属性? なにそれ? わかんないよーっ」凛は困惑してるようだ。まあゲームとかしてないとスポーツ少女にはぴんとこないか。「凛はなんて出たの?」「私は…『水』って」
これは何種類あるんだろうか?「風に水…」他にもあるんだろうゲームなら……っといつものゲーム脳で考えようとしていると全員終わったらしく学園長が上階から降りてきて俺たち新入生の方に歩いてきた。なんか偉い人が来たのでとりあえずみんな黙った。
学園長は膝をどしっと落とし、頭も床に着けて俺たちに向けて言った。


「この世界を、『アルケミア』を救ってください…」



       

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