Neetel Inside ニートノベル
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ある村の一週間。
1日目

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  夜が、明けました。村が目覚めます。
西の牧場から、鶏の挨拶。東の広場には、無惨な死体。
野犬に食いちぎられたのでしょうか。
それが誰かと分かるのには、医者と警らの検分を待ちました。
 村唯一の医者である石ノ森はもう七十を超える高齢です。
 戦も経験しています。
潰れた肉塊を分けていき、なま臭い血をふきとります。
細い目を更に細めて断面をにらみます。
普段は室内にひきこもりきりと評判の警ら長、秋本も出動します。
まだ寝ぼけている村の門戸を叩いて人数を確認してゆきます。
事情や行方不明を聞いて回ります。
 死体の正体が割れたのは、事件が村にしっかりと知れ渡った頃。
昼の少し前です。昨日の夕飯のあとから外に出ていた、椎名の次男でした。
着ていた服の切れ端と銀の懐中時計と、あと、夕飯の少しが出てきていました。
(死体は父が見てもわが息子と分からないくらいに、悲惨なのでした)
 警ら長は聞き取りのなかで、死体の正体の他にも幾つか、疑問が湧きました。
彼はいつ、襲われたのでしょうか。
昨日の月は満月まで近しい九分に丸い月でした。
月明かりをたよりにかなり遅くまで出歩く人も多かったようです。
 逆に、死体を初めに発見したのは時計屋の島袋です。
村の時計屋は、朝焼けで広場の影時計を正しく測るのが毎朝の仕事でした。
村一番の早起きです。
村一番の遊び人の森が広場を通って家に帰ったのは、月が落ちそうな頃と言います。
 警ら長としてみても酔いどれの言葉を額面に通りに受け取る訳にもいきません。
それでも誤差を考えても、森の帰宅と島袋の外出の間は、
犬が一人の大人を食べきるほどの長い時間ではありません。
 続いて湧いてくる疑問です。
椎名の次男を食い殺して食いちぎって食い捨てたのは、本当に野犬なのでしょうか。
気の荒い犬がわおんと鳴けば、近くの家の誰かは気づくでしょう。
犬にがぶりがぶりと襲われれば、椎名の次男の悲鳴は村に響いたのではないのでしょうか。
 やがて石ノ森の医者として見解が出ました。
いずれの傷や断面にも癖のようなものが見える。
おそらくは集団ではなく、一匹の凶行によるものだろうということです。
医師としても警ら長としても、事件性があるという見方をしているわけではありません。
「椎名の次男を襲ったのは獣だが、如何様な獣が村の近くにうろついているのか」
推理すべきはそれにつきるというものです。
  二人とも極めて短時間に、鳴き声もあげず人を食い殺すような獣に見当がありません。
真実の究明は何より大切ですが、まず村人に注意のお触れは出さなければなりません。
秋本が役所にいる村長の手塚に次第を説明し、夜間外出注意の紙張りを願い出ます。
「しからば迅速に」という村長の言葉は役所中に伝わります。
日が南天の丁度に差し掛かるころには、広場と大通りに注意書きの看板が立ちました。
若くして祖父の跡を継いで村長に就いている手塚は社会交流の仕事に不慣れでしたが、
安全管理や事務仕事の手際の良さはここ数代でも手際の良い仕事ぶりでした。
 石ノ森や秋本や手塚は、安穏の村に少し似つかわしくないくらい優れた技量を持ちます。
村人も彼らを全面に信用しており、今回の事件は無惨で悲しいものですが、またいつものように彼らが解決してくれるものと信じて疑っていませんでした。
 三人も村人も、その獣が北の森から来て、また帰っていっているという推測は等しく立てています。推測というよりも、半ば事実の再確認のような形です。
 森の捜索にかかれば事実の探求は進むかもしれませんが、相手はあまりに得体が知れません。
行くべきか控えるべきかで三人は論争したものの、積極的に森に踏み入ることを提案する人はおらず、しばらく北側の村の出入り口に使う村道の警らの強化を図るという形で落ち着きました。
 普段は知らせを受けるまで警ら室に当直する夜勤が二人、増員されることになりました。
手塚は非常時として警ら隊に猟銃の携帯と自己判断による発砲を許可し、石ノ森は診療所を全晩解放して非常勤の看護師を置き、有事に備えます。
 今出来ることは他にないだろうという結論に至り、三人がそれぞれ帰路についたのは、もう日もすっかり暮れた頃合いでした。

 また夜が明けました。村が目覚めます。西の牧場から、鶏の挨拶。東の広場には、無惨な死体。

       

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