Neetel Inside 文芸新都
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Arkяound 城塞都市の冒険者
11 通行止め~音速のフレデリカ

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   11 通行止め~音速のフレデリカ

 俺は杖を抜いて生体エーテルを込める。迂闊に動くべきではないと分かっていたが念のためだ。使ったのは〈鋭敏化〉の魔法だ。次いで〈暗視〉。
 帝国の八百年の歴史は魔導師の戦いで作られている。竜に、近隣の国々や国内の都市同士、そして暗闇から出でた魔族。対戦相手は変わり、戦略も変わったが、魔法そのものの根底は変わらない。
 元来魔法の致命的な弱点として長時間の行使ができないというものがあった――必死こいて現実領域を捻じ曲げるんだから当然だ――そのため基本は短期決戦で、〈無音詠唱〉がそれを加速させた。かつて〈無音〉の魔法によって詠唱を妨害する戦略が生まれ、その対応策として作られたものだ。今日じゃ基本的に魔導師の戦いは一瞬で決まるようになった。ガンマンがやるように、銃を抜き、引き金に指をかけるところから戦いは始まる。魔導師は相手がどんな魔法を使おうとしているか概ね把握することができる。それを感知し次第、自分の使う魔法を変更するのか。そのまま放つのか、すべてを瞬時に決めなくてはいけない。
 悪魔や悪魔憑きは優先的に〈聖霊〉機構を狙うので、まずないだろうが、パトリックを無視し俺を狙ってきた場合、やつらの心臓を――急所は悪魔が宿るそこだ――〈火弾〉で撃つつもりだった。ほの暗い異形の霊体で形作られた悪魔の細胞は熱に弱い。帝都の〈灯火騎士団〉には及ぶまいが、相手が一体ならばどうにかなりそうに思えた。
 鋭くなった五感が対象を捉える。
 若い男の悪魔憑きだ。真っ黒く変色した左目がその証だ。
 手負いのようだ――胸にざっくりと傷を負っている。燃素サーベルで付けられたものだろう、焼け焦げ、血は出ていない。どうやら俺の臨戦態勢は必要なさそうだった。本職なら一瞬で終わりだろう。
 眼前に迫ったそいつをパトリックは睨んでいるようだ。精神を破壊するとやらの力を発揮しようというところだが、悪魔憑きの男に高速でなにかが飛来した。次の瞬間、男は心臓に穴を穿たれ、崩れ落ちる。
 パトリックの隣に、小柄な少女が現れていた。手には……今の男のものらしい、既に煤化しつつある心臓の一部を持っている。胸部に開いた穴から悪魔憑きの体が黒く崩れる。少女は煤の中から何かを穿り出した。小さな黒い短剣――結晶化した悪魔だ。
「いやーごめんねーすげえ失態だよねぇだけど私のせいじゃないよ、いきなし〈向こう側〉への穴開いてすごい数の悪魔が出てきて手一杯だったんだわ。予想外だよねえまあマーレイ先輩とバーンズ副長があっちに潜って暴れてくれたから終わったよ、副長は腕折れたっぽいけど」
「ああ」
 パトリックは初めて声を出して応えたが、二人の間ではさらなる長文がやりとりされているのだろう。
【ヴァーレイン氏、通っていいようなのでお時間すげえ頂いてすいませんね】【ああこいつが俺の相棒のフレデリカ】【すげえ動き早くてそれ以上に口調も早口でいっぺんに喋るからわけわかんないんだ】【会話ってのがキャッチボールという点を理解できてないのが困り物だよな】
 俺は言った、「ああ、そうだね、キャッチボールは大事さ。自己洞察も」

       

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