13 不名誉の探索
あるときこの衛兵どもが毎回俺がいるのに気づいて話しかけてきた。適当に受け答えしていたが面倒なのでそろそろよその店へ移ろうと考えていたところ、以前〈過客〉の礼拝堂で遭遇したアニー・スティグマが疲れた顔で入ってきた。そういえばあそこからも程近い。アニーが俺に気づいてあいさつすると同時にやつらが近づいてきてはやし立てる。
「こいつぁアニーの姐御!」シムノンが笑って言う。「ついににっくき教団のヤツらに一泡吹かせてやったな」
「流石ですね。いつかやってくれるのではないかと密かに期待していましたよ」「とはいえ、だ。〈はぐれ魔女〉のおたくにヤツらは容赦せずまあ火あぶりだろうかね」「へっ、へっへっ」「だけどしかしアニーは死スるときも気高クあってくれルだろウ」「ヤツラの賛美歌を歌ってやりゃあいいんじゃねえか。焼かれながらな」「へっへっへ」「或いは電気椅子というのも」
「おい、いい加減にしなバカ衛兵ども! 冤罪だよ冤罪、私のニセモノが現れたんだ!」
話を聞くと、どうやらアニーに背格好の似た女盗賊が〈銀の教団〉から小銭を盗んで逃走しているようだ。小額だが、挑発的に献金箱を破壊して逃走したために教団は前科多数のアニー・スティグマを犯人とし指名手配したらしい。犯行の際捕まらなかったのは、そこが実働部隊が少数しか配備されていない地区で、警備兵もいたが礼拝に訪れていた多数の市民に攻撃が当たるのを恐れたせいだ――市民もろとも撃とうとしたとしても条件付けのせいでできなかったが――人ごみに紛れて犯人は裏路地へと消えた。
「まあ心配せずとも罰金刑だろうよ」軍曹がビールを呷りながら言う。「お前さんみてえなしけた魔女に手を焼く暇はねえだろうし、本気で追跡なんざしねえだろうさ」
「それでもわざわざ指名手配となったのは、貴女が無所属だからでしょうね」ブロンディが続けた。「教団の中には悪魔憑きと魔女を同一視する者もいます。同一の病気が重いか軽いかといった違いだと。いずれすべての魔女が〈黒い目〉と化し狂い暴れるのだとね。なんの処置も受けてない〈はぐれ〉を特に目の敵にする者は多いでしょう」
「私は悪魔に脳みそを冒されたりなんざしないよ」アニーは憮然と言った。
意見の分かれる問題だ。心臓に悪魔の核〈短剣〉が形成された後は、肉体を深く傷つけられない限り進行することはないというのが通説だ。それでも念を入れて〈公社〉に所属する魔女達は薬物投与を受け、悪魔化を食い止めていると公表されている。闘争心を鎮めるものだというが実際どんな薬か分かったものではないし、そのせいで〈道化〉のキャシーのようなイカれた少女がぞくぞくと増えているのだという意見もある。
一方、教団の狩人たちの〈聖霊〉機構は極めて安定しているので、悪魔に侵食される可能性はまずないとされている。だが、それが発生したことが過去にはいくつかあったのを俺は知っている。致命傷を受け傷口から侵入したおぞましい霊体に心臓を冒されると、改造狩人は体表が羽毛化し、頭上にアストラルの円環を形成する。そうなれば悪魔以上の脅威だ。手が付けられず〈向こう側〉に幽閉された個体もいくつかいるらしい。皮肉なことにそいつらは〈天使〉と呼ばれる。
「とにかく、だ。そのたわけた真犯人をひっとらえて突き出さなきゃ、私の気がおさまらないってもんだよ!」
「犯人はたぶんきッと」フッカーがにやにやと言う。「アンタに恨みヲ持ってるヤツだね」
「そして逃げ足が速い」とクワイン。
「いくら人波に隠れたとはいえ、教団の狩人から逃げおおせるなんざ普通の人間じゃないんじゃねえか?」
「そいつも魔女だってこと?」俺はシムノンに尋ねる。
「さあな。呪術師かも知れねえし、ヴァーレインやギルみたく魔導師かもな。さすがに自分のとこに盗みに入るって可能性はねえだろうし」
「いや、違うね」アニーが言う。「吸血鬼だ。犯人は吸血鬼の女盗賊だ。思い出した、あいつだよ」