Neetel Inside 文芸新都
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Arkяound 城塞都市の冒険者
19 交換

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 その後休日を利用して、わざわざ都市の外に出て例の〈乱れ火〉の詠唱を習得した。声を出さず瞬間的に呪文を使うには、エーテルでルーンを書きながら触媒へ送る。原理は電信に近い。そのためには呪文に対応したルーンを解読、作成し、なおかつ瞬間的にそれを再現できなければならない。既存の魔法は既にそれが用意されているが、〈乱れ火〉は個人製作なので一から作らなきゃならない(俗に〈フルスクラッチ〉という)。とても退屈な作業だ。向こうの言語じたい、裏声や吃音のような音が入り、それで単語の意味が変わるという難解なものだ。俺はビールを飲みながら行うことでなんとか乗り越えた。これで通常の魔法よりずっとラクに追撃を入れられるというものだが、ここまでの過程が面倒すぎて、フッカーが考えるような商売は成り立つとは思えなかった。
 俺は城壁から少し離れた場所で小さな火を足元に放ち、それを〈乱れ火〉で爆発させるといった一連の動きを練習し、どうにかスムーズにできるようになった。その過程で何度か、巨大な爆炎が俺の前方に起こり、一回警備兵が城壁からこちらへやってきた。四十がらみのごつい男で、煙草をふかしながら来て、なんだ今のは、テロリストとして拘束することだってできるんだぜ、といった内容を述べた。俺はもちろんワイロを渡そうとしたが、その前にものは試しと、マーリンが一本だけ咥えて俺によこした煙草を差し出した。「ずいぶんいいのを吸ってるな、まあこいつを気持ちとして受け取っておくか……今後静かにするならな」と、マーリンがなんとなく始めるにしては高級な銘柄を購入していたおかげで事なきを得た。
 同じ日に家に帰ると、ウォーターズが戻ってきていた。治癒の術をかけたのだろうが、治り切っていない傷が顔にも残っていた。吸血鬼の集団に襲撃されたらしく、衛生局へ抗体医薬をうちに行くところだった。
「なかなか高いんだろう、あれは」「不正規品が多くたくさン出回っていルが」「ああ、混ぜ物がしてあるやつだよ」「そう、迂闊にうっカり体に入れテいいもンじゃなイのだ」「とはいえ吸血鬼になったら大変だしね。二度と日の目を見られない」「違いナい」
 ウォーターズの信仰心がどのくらいか分からなかったが、〈フュル=ガラ〉を破門になった現汚職衛兵に〈乱れ火〉を習ったことは言わなかった。去り際、ウォーターズは持っていた時計が壊れてしまったので、貸してくれないかと頼んできた。俺はアニーからもらった懐中時計を渡した。どうせ時間なんてそんなに気にしない生活だから。
 礼としてなにやら高そうな果実酒をもらった。南部のものらしい。俺は基本的にビールしか飲まないし、贅沢品としてとっておくことにした。

       

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