2 入城~悪魔狩りフォガティ
話には聞いていたけど城塞内は、煩雑さで悪名高い帝都の中央東駅を何百個か繋げたように複雑で、危うく自分がどっちに進んでいるのかすら分からなくなる。おまけに蒸気で蒸し暑く、換気装置がほとんど役に立ってないって感じ。
聖チャールズ記念広場へ向かっていびつな通りを歩いていると、道のど真ん中を横切る影が見えた。途切れ途切れだったのではっきり見えないが二人の〈教団〉所属の狩人らしかった。赤熱した燃素サーベルが光っている。対するは巨大な人型の異形、二つの角が見えた。〈向こう側〉で悪魔狩りが行われている。
帝国では先発隊が悪魔をこちらに引きずり出してから数で仕留めるやり方が主だが、都市同盟ではこうして少数の精鋭があちらへ行き、仕留める。肉体に生体機構――〈教団〉は〈聖霊〉と大仰に呼称してる――を埋め込んだ改造兵士だからできる戦い方だ。
「見たまえ」一人の、臙脂色の外套を纏った男が話しかけてくる。「偉大なる戦いだね」なんだこいつはと思った。胡散臭い印象で、肉食獣みたく両目がぎらぎらと病的に光っている。背中にはなにやらごちゃごちゃした機械を背負っており、そこに燃素サーベルが刺さっていてどうやら冷却装置つきの鞘だ。灰色の頭髪はぼさぼさで老人じみているが、顔はまだ二十代後半といったところだ。とはいえ、彼が何歳なのかは分からない。狩人たちは歳を取らない。正確には老化が極めてゆっくりなだけだが。無理のある埋め込み施術と危険な任務のため、寿命はそれほど長くないけど。
そして最大の特徴が、肘までしかない制服の左袖から露出させてる腕だ。硬質化したそれは既に人間のものではなく、甲殻類とか、センザンコウの皮膚のようだ。鈍く光るそれは〈ガントレット〉と呼ばれる。悪魔の外骨格や、悪魔に憑かれた被害者の心臓を貫くためのしろものだ。ガンベルトにはバカでかいリボルバー、〈タリスマン(御守り)〉が鎮座してる。
「何のようですか?」俺はぶっきらぼうに言った。「俺の心臓に悪魔はいないよ。心音で分かるはずだ。職務質問をしようってならそれはあんたの管轄外のはずだけど」
「いかにもだ」男は曖昧な笑顔を浮かべる。「彼ら(衛兵)からこれ以上仕事を奪うのは忍びないしな。わたしはただ暇潰しに手当たり次第話しかけてるだけ。大方ほとんど片付けてしまってやることがないんだ。一人だけ先に帰ってもいいがそれも角の立つ話で」「道を聞きたいんですけど」「ああ。いいとも、どこへ行くのだ?」「〈公社〉の窓口はどこです? 一番近いやつ」「広場に出ればすぐ分かるはずだ。天蓋まで聳えるでかい塔があるはず、それだよ。君は冒険者かね?」「ええ」「ならこの都市をうろつくことになるだろうが魔女どもには注意すべし。あいつらはイカれてるので話を聞くだけ時間の無駄というものだぞ」「かもしれないですね」「そうなのだ違いなく。話しかけられても無視するに限る。このフォガティを信じよ」
俺が歩き出すと彼は再び誰かに話しかけたようだった。見るとその相手は虚空。