Neetel Inside 文芸新都
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Arkяound 城塞都市の冒険者
46 英雄性解放~エンディングフェイズ

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   46 英雄性解放~エンディングフェイズ

 シャーロットは地上で恐るべき魔法を発動させようとしていた。これほどのエーテルを一度に放出するのは明らかに法に触れるだろう。
 それは俺の知らない魔法だったが、おおよその効果は分かった。彼女が得意としていた、魔力の放出と操作だ。ただ、その量が異常だった。数百、数千の魔弾をこちらに向けて放つつもりだ。
 火の学院に入学するために使った〈夕立〉を、ふたたびここで降らそうとしているのだ。
 俺は、これは、魔導師としてではなく〈奏者〉として立ち向かわなければ死ぬな、と思った。
「どうやら後輩の贈り物を平らげないといけないらしい。一丁、やってくるよ」俺は背後の魔女に言う、「生きてたらまた会おうか姉さん」
「また会おう。そのときが来たら……たぶんそう遠くじゃない。演奏を始めるんだ、ウィル」
 俺は飛行船から身を躍らせ、地上から降り注ぐ夕立に向かって飛び降りた。
 帝都に住んでいたとき、雑踏で道行く人々の間を縫って歩いていたのを俺は思い出した。もっとも今回は数万人の群集がこちらを撃ち抜こうと襲って来てる。
 すべての魔弾が光を放っている。暗闇にろうそくの火で描いた残像のように軌跡を残し、俺に向かって飛んでくる。
 俺は夕立に命じた、俺に当たるんじゃないって。俺の運命はここで潰えるはずじゃないはずさ。そうだったとしても、そんなものは知ったことか。奇跡でもなんでも、よこしてくれ、あんたらにとっちゃ大した苦労でもないだろ。俺は上空に浮かんでいた巨大な光の数々に向かって不遜にもそう囁いていた。
 果たして世界そのものが、がたりと音を立てて少しだけ変わるのを聞いた。
 恐らく他の人たちもこれを聞いたのだと思った。アンゼリカ一世が魔法を得たときも、聖チャールズがドロウレイスを築いたときも、シャーロットがストームキープで活躍したときも。彼らが竜を屠ったのも、おそらくこういうことだ。運命をまさに演奏するみたいに、従え、組み替えたのだろう。俺の場合、いきなり後輩に襲撃されるっていう謎なシチュエーションだけど、まあ英雄的すぎるのも似合わないだろうし。
 気づくと俺は地上に無傷で立っていた。疲労はだいぶひどい。魔法を使うたびうんざりだ。
 シャーロットは武器を仕舞い、俺に頭を深く下げた。
 彼女の青白い髪の半分ほどが、白に近い金髪に変色していた。あれが地毛なのだろう。生体エーテルの半分ほどを、先ほどの〈夕立〉に乗せて撃ち出したようだ。
「死ななかったので結果オーライ」と悪びれないシャーロット。
「これってもう即刻拘束が必要なレベルの重罪じゃないかな。殺人未遂だし」
「先輩、どうやら〈奏者〉の力を獲得したようですね」俺の言葉を無視して彼女は言う、「それがあれば多少は死にづらくなりますが、毎回どうにかできるわけじゃないので油断するとこの過酷な世界はすぐ殺しにくる」
「そうだろうね」
「先輩は瞬間的になら私に匹敵する天才だと最初から思っていました」
「上から目線な」
「そうした英雄的行為でどうにかのた打ち回ってください、ご武運を。私はあっち」
 最後にまた一つ頭を下げてシャーロットは南へ歩いて行った。
 霧雨はすべて晴れ、空はひどく青かった。俺は少しばかり休んでから、予定通り北へ旅立った。そうする必要もないかもしれなかったが、俺はどうやら冒険者なのだろうから、冒険を続けよう。運命よりももっとあやふやなものが、そう言っている。



 それから俺はまた死にそうになりながらボンファイアへたどり着いたのだが時を同じくして帝国でまた馬鹿げたごたごたが始まったのだから大変、どうにかやり過ごそうとしている間に〈外なる竜〉と〈巫女〉を巡る戦争が幕を開けたのだった。帝国と化石竜師団の争いは熾烈を極め、北のこの大陸も混乱へ陥った。空から降り注ぐ光、吹っ飛ぶ山、屍の軍勢、依然としてやる気のない教団関係者、大量の死人、便乗した連続殺人、窃盗、新たな竜の化石の発見、デマの蔓延、金欠、キーファーとの再開、五体も同時に出てくる竜、逃亡生活、教団の巫女が自分を犠牲に〈銀の女神〉を顕在させる、教団分裂、その後数世紀に渡って語り継がれる戦いの数々、そういうのを俺は拾った新聞で知り、体験しながら北へ向かった。
 そうこうしているあいだに帝国がなにか劇的な力で師団を打ち破り、ウィンター師団長を打ち首獄門に処したらしい。俺はそれどころではなく、なんとか旅費を画策するために旧首都ウィンターハースじゅうの溝を浚おうとするが……まあその話は今度、今日のところはここらで筆を置こうと思う。

 ――城塞都市の冒険者、ウィリアム・ヴァーレインの手記より



   〈了〉

       

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