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学者が助走をつけて殴るレベルの「古事記」
第四章「国造り編-彼の名前はオオクニヌシ」-その2

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 スクナヒコナがいなくなり、オオクニヌシは大層寂しい思いをします。そしてそれと同時に、これまでスクナヒコナあっての統治だった事も否めず、それが突然いなくなり、同時に大層難儀もします。気分は本物の遊戯がいなくなった時のもう一人の僕です。
 オオクニヌシが「やめたくなりますよ…国造りぃ~」とか思っていると、突然目の前に、黒い人影が現れました。
「な、何だお前は?」
「ふっふっふ、誰だっていいだろう?」
 そう言って、オオクニヌシを嘲笑う黒い影。どうにも神様の中には「まず名を名乗る」という礼儀がないようです。
「俺は、お前と取引をしに来たんだ。これからお前が、俺を祭り、俺を愛し敬い、俺を理解するのであれば、お前の国造りの手助けをしてやろう」
「それは困る。俺が造った国の中で、お前のような得体の知れない者を祭るわけには行かない」
「……俺が造った国? 俺が造った国だと?」
 黒い影は、ゲラゲラと笑います。そんな黒い影の姿は、オオクニヌシにはとても不気味なものに映りました。
 オオクニヌシは迷います。先にも言った通り、こんな得体の知れない奴を、自分の国で祭るわけには行きません。しかし、それと同時に、このままでは国の運営が上手くいかない事も自明の理です。
 迷いに迷って、オオクニヌシは遂に決断します。
「……わかった。お前を祭ってやろう。だから国を繁栄させて下さい!」
「よし、はいじゃあ国出せ!(総仕上げ)よし、じゃあブチ繁栄させてやるぜ」
「オッス、お願いしまーす」
 こうして、黒い影の暗躍により、国は何とか平穏を取り戻しました。

 国が安定し、一段落したところで、オオクニヌシは黒い影に問い掛けます。
「実際、本当にお前何者なわけ?」
「ふっふっふ……何だ、まだ気が付かないのか?」
 黒い影がそう言うと、突然、びょう! と風が吹きました。そして、彼の周りに漂っていた黒い影が、あっという間に取り払われます。
 その姿を見て、オオクニヌシは「あっ!」と叫びました。
 何と、黒い影のその正体は、オオクニヌシの姿そのものだったのです。
「アイエエエエ! オレ!? オレナンデ!?」
「そうとも。俺の名前は大物主大神(おおものぬしのおおかみ 以下:オオモノヌシ)。俺はお前、お前は俺だ」
 当然、オオクニヌシは仰天します。その間にも、オオモノヌシは語り続けます。
「おい、オオクニヌシ! お前最近、国造りで調子こいてただろ」
「いや、こいてないですよ」
「嘘つけ、絶対調子こいてたゾ」
「何で調子こく必要があるんですか(しらばっくれ)」
「あ、お前さオオクニヌシさ、前に俺がと……取引持ちかけた時さ、『俺の造った国』って言ったよな?」
「そうだよ(回答)」
 だって、実際そうです。この国は、オオクニヌシが建国し、オオクニヌシが治めているのです。それを「俺が造った国」と言って、何が悪いのでしょう?
「ならば、お前が今のお前になったのは、全てお前の能力あっての事か? この国を繁栄させたのは、本当にお前だけなのか?」
「いや、そんな事……」
「やっぱり他力本願じゃないか(憤怒)」
 オオモノヌシの説教に、オオクニヌシはギクリとしました。確かに、オオモノヌシの言う通りだったからです。
 遡れば、ヤガミヒメと結婚出来たのもイナバのおかげだし、自分が何度も死んだ時にもカーチャンやタガナシの部下に生き返らせてもらったし、スサノオの試練を乗り越えたのもスセリビメや沢山の仲間の協力のおかげだし、八神達をやっつけたのもスサノオの宝があったからだし、最近ではスクナヒコナがいてくれたから国は平穏無事だったのです。
 いつだって、誰かに助けてもらっていました。しかしオオクニヌシは、そんな当たり前の事を忘れてしまっていたのです。
「お前は、そんなみんなの愛情や恩も忘れて、自分だけで国を治めたと勘違いをしていたのだ。だから、スクナヒコナがいなくなった時に、国が動乱に見舞われたのだ。俺は、そんなお前を説教する為に現れたのだ」
「そーなのかー」
 オオモノヌシの正体は、オオクニヌシの中にあるもう一つの魂でした。
 人の魂は、大きく分けて和御魂(にぎみたま 以下:ニギミタマ)と荒御魂(あらみたま 以下:アラミタマ)に分けられます。ニギミタマは、優しさの心・信愛の心を司り、アラミタマは、勇気の心・決意の心を司ります。
 ところが、オオクニヌシは、随分と誰かに助けてもらっている間に、いつの間にかそれが自分の力であると勘違いしてしまったのです。結果、オオクニヌシの中からニギミタマはいなくなり、アラミタマだけが宿るようになりました。
 そして遂に、見ていられなくなったニギミタマは、実際に姿を持ってオオクニヌシの前に現れ、説教をしに来たのです。それこそが、オオモノヌシという存在の正体でした。
「つまり、お前を祭るという事は、優しさや信愛の心を祭るという事だったのか! そういう事なら祭りますよー、祭る祭る」
「やっと反省したようだな。それじゃあこれからは、ちゃんとニギミタマの魂も忘れないでくれよなー頼むよー」
「……最初からそうならそうと言ってくれれば話は早かったんですが、それは……」
「こまけぇこたぁいいんだよ」
 オオモノヌシは、オオクニヌシの改心を見届けて、すっと消えて行きました。

 その後、オオクニヌシは、改めてしっかりと国を治め直し、そうして国は繁栄します。

       

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