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学者が助走をつけて殴るレベルの「古事記」
第五章「国譲り編-クニ・ノート」-その3

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 アメノワカヒコがシタテルヒメを嫁にして、オオクニヌシ一族の一員となってから、八年の月日が経ちます。
 その間も、相変わらずオオクニヌシは国造りをしていましたが、何か最近になって、たま~に「飽きて来たなぁ……」とか呟くようになって来てました。こうなると、アメノワカヒコにその任が受け継がれるのは時間の問題です。
「計画通り(ニヤリ)」
 もはや、アメノワカヒコの野望通り事が進むのは時間の問題かと思われました。しかし、この野望は、思わぬ形で潰える事になるのです。

 所変わって、天上世界。
 アメノホヒが行方不明になり、更にアメノワカヒコからも一切の連絡もない現状に、いよいよアマテラスは焦ります。
「もしかして、出雲って、とんでもない世紀末になってるんじゃないの……?」
 そう訝しんだアマテラスは、再三に渡り遣いを出す事にします。
 ただし、今度の遣いは、神様ではありません。キジです。鳥のキジ。アマテラスのペットの一匹を遣いに出す事にしたのです。このキジ、名前を鳴女(なきめ)と言います。
「鳴女ちゃんや。出雲に行って、アメノワカヒコとアメノホヒを探しておくれ。そして、状況を聞いて来ておくれ」
「ワカリマシタ! ワカリマシタ!」
 鳴女は、アマテラスの指令を受け、出雲へ飛び立ちます。

 これに慌てたのが、アメノワカヒコです。今ここで、鳴女に状況を伝えれば、天上世界の神様はすぐさま降臨するでしょう。だからと言って、何も伝えなければ、「何故アメノワカヒコは何も伝えないんだ?」と訝しんで、下手をすれば自身の立場が危うくなります。
「くそっやられた!」
 八年もかけた野望です。しかも、成功は目の前。ここで野望が潰えてしまうと考えると、アメノワカヒコは無念の思いで一杯でした。
 しかし、またしても事態はややこしくなります。ここに来て、アメノワカヒコの妻であるシタテルヒメが、アメノワカヒコに耳打ちするのです。
「殺すよ」
「えっ」
「こんなキジは殺す」
 元々、天上世界の神々に良い思いを抱いていなかったシタテルヒメです。まして、彼女としても、このまま夫であるアメノワカヒコが統治を行ってくれれば、それこそ万々歳なわけです。つまり、シタテルヒメにとって、鳴女が抱える使命は、ある意味ではアメノワカヒコよりも憎たらしいものでした。
「このキジを殺して、情報を隠ぺいするんだよ。あくしろよ」
 ここに来て、スサノオの血統が目覚めたようです。とんだ肝っ玉母ちゃんのシタテルヒメでした。
 アメノワカヒコは、震える手で、かつてアマテラスに貰った天之麻迦古弓と天之波波矢を構えます。皮肉なものです。アマテラスに貰った弓矢が、アマテラスへの連絡を絶つ為に使われるのですから。
 アメノワカヒコが、空を飛ぶ鳴女に向かって、天高く矢を放ちました。そして、矢は、鳴女を、確かに撃ち貫きます。哀れ、鳴女は死んでしまいました。
 アマテラスに貰った天之波波矢は、そのまま、天高く消えて行きます。
 これが、アメノワカヒコ最大の誤算でした。

 またまた所変わり、天上世界。
 アマテラスは、自宅で煎餅を齧り、ごきげんようを見ながら報告を待っていました。
「鳴女ちゃんは、そろそろ出雲で二人を見つけたかな? 報告まだかな~」
 そんな事を考えていると、突然、お茶の間の地面から何かが突き出て来て、あっという間にちゃぶ台を貫きました。
「矢だこれー!?(ガボーン)」
 報告を待っていたのに、返って来たのは矢でした。しかも、この矢は、血がベットリとこびりついていました。アマテラスじゃなくても、これはビビります。
「……あれ? これ、私がアメノワカヒコ君にあげた、天之波波矢だ。どういう事なの……」
 しかも、どうやらこの血は、鳴女のもののようだと察します。この事態に、アマテラスは困惑しました。

 アマテラスは、再び天上世界の偉い神々を集めて、サミットを開きます。
「これこれこういうわけなんだけど、これはどういう事かな?」
「……どうもこうも、アメノワカヒコが鳴女を射た、という結論しかないんじゃないかな」
「で、でもでも! アメノワカヒコ君は、私が遣わせたんだよ? 彼は、そんな酷い事しないよ!」
 アメノワカヒコの腹黒さなど知らないアマテラスは、神々の意見から、必死にアメノワカヒコを庇います。こうなると、話し合いは平行線です。
「じゃ、こうしましょう。誓約(うけい)」
 出ました、誓約です。覚えているでしょうか? かつてスサノオとアマテラスが交わした、あの勝ち負けの基準が意味不明のアレです。
「この矢を掴み、出雲に投げ……当たった奴が黒幕っちゅうルールや」
「おもろい感じで言うなや。最後だけおもろい感じの言い方やからあかんねん」
 こうして、アマテラスは、出雲目がけて、飛んで来た天之波波矢を「そぉい!」と投げ返しました。

 またまたまた所代わり、出雲。
 問題になっていた鳴女も始末し、何とか隠ぺいを完了したアメノワカヒコですが、内心はガクブルです。こうしている間にも、いつ天上世界の神々が手を打って来るかわからないのです。
 しかし、今更引き返せません。もう、やる所までやるしかないのです。
「アメノワカヒコ、危ない!」
 突然、シタテルヒメが叫びます。しかし、時既に遅く、アメノワカヒコの体を、何かが貫きました。
 天之波波矢です。アマテラスの投げ返した天之波波矢が、アメノワカヒコを貫いたのです。
「馬鹿野郎ー!! アァーマテェラスゥー!! 誰を射ている!? ふざけるなぁー!!」
 アメノワカヒコが倒れました。そして、遂に目を覚ます事はありませんでした。
 こうして、アメノワカヒコの野望は、達成を目前にして、呆気なく潰える事になります。

       

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