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学者が助走をつけて殴るレベルの「古事記」
第四章「国造り編」一括まとめ版

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 スサノオがヤマタノオロチを成敗し、出雲を旅して、須賀の国を始め様々な建国を成し遂げてから、長い時が経ちます。

 ある所に、八十神と呼ばれる、沢山たくさんの兄弟神様がいました。彼らは、スサノオの六代孫です。
 八十神と言っても、八十の神というわけではありません。当時、「八」という文字は、「8」という意味とは別に「沢山」という意味でも使われていたのです。ちなみに現代でも「八百屋」とか「嘘八百」とか、そのような意味で使われていたりします。これってトリビアになりませんか?
 八十神は、神と呼ばれるだけあって、それぞれがガチムチの逞しい神様でした。頭もいいです。全員が優等生でした。
 そんな中、末っ子の神様だけが落ちこぼれでした。大穴牟遅神(おおなむぢのかみ 以下:オオナムヂ)という名前の、気弱そうで引っ込み思案の華奢な男の子です。
 またある所に、 八上比売命(やがみひめのみこと 以下:ヤガミヒメ)と呼ばれる、それはそれは美しい女神様がいました。どのくらい美しいかと言うと、八十神全員がヤガミヒメに惚れるくらい美しい女神様でした。
 ある日、八十神は、何と全員でヤガミヒメの元へ赴き、結婚を申し込もうと思い立ちます。そして全員で揃って、ヤガミヒメの住む因幡(現在の貨幣価値で換算すると鳥取県である)へ旅立ちます。
「やい、オオナムヂ! お前は俺達全員の荷物を持って、一番最後について来い!」
「そうだそうだ! ヤガミヒメに結婚を申し込もうなんて、オオナムヂのくせに生意気だぞ!」
 そう言って、兄神達は、オオナムヂに荷物を放り出し、自分達は楽々と旅をします。
 オオナムヂは、文句も言わずに、黙って兄神達の荷物を持って歩きました。しかしそれは、兄神達が怖かったのではなく、「これを僕が全部持てば、お兄ちゃん達は助かるに違いない」という優しい心からの行動でした。
 そんなオオナムヂの気持ちなど知った事ではないとばかりに、兄神達はズンズン先に進みます。当然、オオナムヂは、みるみるうちに置いて行かれてしまいました。

 所変わり、因幡地方の近く淤岐島(おきのしま)。
 そこに、稲羽之素兎(いなばのしろうさぎ 以下:イナバ)という名前の兎が住んでおりました。
 イナバは因幡地方に憧れており、いつか自分も因幡に行ってみたいと思っていました。しかし、因幡と淤岐島(おきのしま)の間は川で遮られており、イナバは渡る事が出来ません。
 そこでイナバは一計を案じます。その川に住んでいるワニに向かって、イナバはこう言いました。
「君達ワニよりも、私達兎の方がずっと沢山いるわ」
「そんな事はない。兎よりもワニの方が多いに決まってる」
「じゃあ、数えっこしよう。この川にワニを整列させて、ビールでも飲んでリラックスしな。数は私がしっかり数えてやるよ」
「面白い奴だな。気に入った。齧るのは最後にしてやる」
 そう言って、ワニは仲間を集めて、ずらーっと一列に並べました。そうして、淤岐島(おきのしま)から因幡地方に通じる、ワニの橋が出来たのです。
「しめしめ」とイナバは、ワニの数を数えるフリをしながら、ピョンピョンと因幡地方に渡ります。そして、今や因幡地方は目の前です。
(だ…駄目だ まだバラすな…こらえるんだ…し…しかし…)
 あともう少しの所でこらえきれなくなったイナバは、大笑いしながらワニに「嘘ぴょーん(兎並感)」とネタばらしをしてしまいました。
「お前は最後に齧ると約束したな。 あ れ は 嘘 だ 」
 そう言ってワニ達は、イナバを齧りつくしました。哀れイナバは、あと少しという所で、ボロ雑巾のようになって転がりました。でも一応、因幡地方には渡る事が出来ました。

 舞台は再び八十神の行列に戻ります。
 八十神が、出雲から因幡への旅路を急いでいると、そこに、ボロ雑巾のようになって倒れているイナバを見つけました。
「旅の御方、助けて下さい。ワニに齧られた後が痛くてどうにかなってしまいそうです」
「それはいけない。それでは、海水を体中に塗りたくって、陽に当たりなさい。そうすれば治るでしょう」
 イナバは言われた通り、海水を体中に塗りたくって、陽に当たりました。
 ところが、傷は治るどころか、皮膚が乾燥してますます痛むようになってしまい、イナバは激痛に転げ回ります。
「本当にやってしまったのか?(ニヤリ)」
「普通はやらないだろ常識的に考えて……」
 そんなイナバを嘲笑いながら、性悪の兄神達は、さっさと行ってしまいました。うーんこの。

 あまりの激痛に「痛いですね、これは痛い……」と意識が遠くなるイナバ。しかしそこに、今度は兄神達に随分離されてしまったオオナムヂが通りかかります。
「旅の御方、助けて下さい。ワニに齧られた後が痛くてどうにかなってしまいそうです」
「それはいけない。それでは、淡水で体についた海水や砂利を綺麗に洗い落として、蒲の穂の花粉の上をゴロゴロしなさい。そうすれば治るでしょう」
 イナバは言われた通り、淡水で体を綺麗に洗い、蒲の穂の花粉の上をゴロゴロと転がりました。
 するとどうでしょう。あれほど苦しんでいた激痛がみるみるうちに治まり、傷がすっかり塞がってしまったではありませんか。
「お急ぎの所助けていただき、ありがとうございます、旅の御方」
「いいんだよ。どうせこんなに遅れてしまっては、もう間に合わない。それに、優等生のお兄ちゃん達だから、きっとヤガミヒメはお兄ちゃん達を選ぶさ。そんな事よりも、君の怪我が治って良かった」
 そんなオオナムヂの格好いい言葉に、イナバは感動します。よく見れば、オオナムヂは結構イケメンでした。どのくらいイケメンかと言うと、並の女性なら話しかけられるだけで失神するくらいイケメンです。
「ヤガミヒメは、あんな意地悪な兄神達を好きにはなりません。貴方のような優しく慈悲深い人を選ぶに違いありません(※ただしイケメンに限る)」
 イナバは、オオナムヂにそう言いました。しかしこれは、ただの慰めや励ましではありません。立派な「予言」でした。イナバには、そういう力があったのです。
「ありがとう。きっとそうだといいね」
 そんな事は知らないオオナムヂは、最後まで爽やかなスマイルで、イナバと別れました。


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 ヤガミヒメの元へ辿り着いた八百神の兄神達は、こぞってヤガミヒメに求婚します。
「ヤガミヒメーッ! 俺だーッ! 結婚してくれー!」
「別に」
「ヤガミヒメーッ! 俺だーッ! 好みのタイプとか教えてくれー!」
「特にないです」
 ヤガミヒメは、兄神達の求婚をことごとく断り続けました。結局、兄神達の誰一人、ヤガミヒメに求婚を受け入れてもらえる事はありませんでした。
 そこへ、兄神達の荷物を抱えながら、更にイナバの治療をした事で大幅に遅れてしまったオオナムヂが到着します。オオナムヂの抱えた大荷物を見て、ヤガミヒメは驚きました。
「どうして貴方は、そのように沢山の荷物を持っているのですか?」
「これは、お兄ちゃん神達の荷物です。私が持てば、お兄ちゃん神達は楽なので、ここまで持って来ました」
「何と言う優しさ……! 惚れてまうやろー!」
 こうしてヤガミヒメは、オオナムヂの求婚を受け入れました。

 これに激怒したのが、兄神達です。自分達の求婚が受け入れられなかったのはともかく、よりにもよって落ちこぼれのパシリ弟であるオオナムヂにヤガミヒメを奪われたのが、相当気に食わなかったのでしょう。
「オオナムヂのくせに生意気だ!」
「野郎オブクラッシャー!」
 兄神達は、オオナムヂ殺害の為の計略を張ります。それは、山にイノシシの化け物が出たから退治してくれと嘘をつき、火のついた岩石を転がし落として、それでオオナムヂを押し潰し殺してやろうというものです。
「山にイノシシの化け物が出たから退治して欲しいんじゃ。嫌ならやめてもいいんじゃよ?」
「えっ、それは大変だ! 僕に任せてよ、お兄ちゃん!」
 あんな仕打ちを受けても、お兄ちゃん神達が大好きで信頼しているオオナムヂは、兄神達が困っているのを見過ごしませんでした。こうして、一人でイノシシ退治に出掛けます。
「だまして悪いが(ry」
 兄神達は、まんまと騙されて森に入ったオオナムヂに向かって、火のついた岩石を転がし落としました。それを見たオオナムヂは、火のついた岩石をイノシシと勘違いし、それを受け止めます。
「熱っ!? このイノシシ熱っ!? あれこれイノシシじゃない、岩石だっ!?」
 気付いた時にはもう遅い。オオナムヂは、焼けた岩石に押し潰されて死んでしまいました。

 オオナムヂが死んで、お母さんである刺国若比売(サシクニワカヒメ 以下:カーチャン)は、大層悲しみました。
 悲しんで悲しんで、遂に息子であるオオナムヂを生き返らそうと、神々の世界にいる神産巣日神に相談しに行きます。
 絶対忘れてると思うので確認しましょう。神産巣日神(かみむすひのかみ 以下:タガナシ)です。一番最初に出て来てすぐ消えた最初の神様の一人です。「マジで一切出て来ない」とキッパリ言ったばかりだったのに……スマン、ありゃウソだった。
「タガナシ様。私の息子が、不幸な事故で死んでしまいました。生き返らせてください」
「いいよー」
 タガナシは、赤貝の神様である討貝比売(きさがひひめ 以下:アカガイ)と、蛤の神様である蛤貝比売(うむぎひめ 以下:ハマグリ)を遣わしました。何となくえっちな神様ですね。何がとは言いませんが。
 アカガイとハマグリは、赤貝の粉と蛤の汁を混ぜ合わせて、特別な魔法の薬を作りました。わかりやすく言うと、生き返るエリクサーです。
 カーチャンが、この魔法の薬を受け取り、オオナムヂの遺体に塗り付けました。すると、何という事でしょう。死んだはずのオオナムヂが生き返ったではありませんか。

 これに驚いたのが、兄神達です。
「オオナムヂ!? 殺されたんじゃ!?」
「残念だったなぁ、トリックだよ」
 しかし、懲りない兄神達は、またしてもオオナムヂを殺す為の計略を張ります。今度は、木を縦に真っ二つに裂いて、グイーと広げた状態で真ん中にオオナムヂを立たせ、バッチーンと挟んで殺してやろうというものです。
「なぁなぁ、オオナムヂ。お前、ちょっとここ来てみ? ここ立ってみ?」
「何なに? ここでいいの?」
 懲りないのはオオナムヂも一緒でした。前回殺されたにもかかわらず、相変わらず兄神様達が大好きなオオナムヂは、疑いもせずに、縦に裂かれた木の真ん中に立ちます。
「だまし(ry」
 こうしてオオナムヂは、木の間にバッチーン! と挟まれました。で、死にました。

 オオナムヂが死んで、カーチャンは悲しみました。
 しかし、そう何度もタガナシに頼むのも気が引けます。例えるなら、バイトのシフトを変わってもらおうとしてるけど、二週間前に変わってもらったばっかりで、流石にこうも短い期間で何度も頼むと気が引けるあの感じです。
 色々考えた結果、カーチャンは、とりあえず気とか生命力とかそれ系のを籠める思いで「エイヤー!」と叫びました。
 そしたら何か生き返りました。
 これに驚いたのが、兄神達です。
「オオナムヂ!? 殺され(ry」
「残念だっ(ry」
 しかし、懲りない兄神達は、またしてもオオナムヂを殺す為の計略を張ろうとしました。
 ここまで来れば、流石のカーチャンも「それ以上いけない」と思います。
「お前、ここにいたらディアボロ的な感じになっちゃうから、さっさと逃げなさい」
「サンキューマッマ」
 カーチャンの助言に従い、オオナムヂは、木国(現代の貨幣価値で換算すると和歌山県である)に逃げました。


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 兄神達の魔の手から逃げたオオナムヂは、木国の大屋毘古神(おおやびこのかみ 以下:オオヤビコ)の家に逃げ込みました。
 しかし、兄神達はしつこかったのです。何と、わざわざ木国まで、オオナムヂを抹殺する為に追いかけて来たのです。ネメシスT‐型並のしつこさです。
「オオナムヂはどこだ!」「オオナムヂを出せ!」「スタァァァァアッズ!」
 オオヤビコは、名前もない脇役のくせに長々とチョケる兄神達に戦慄しました。そして、自分ではこの兄神達を治める事は出来ないだろうと考え、更にオオナムヂを逃がす事にしました。
「よく聞きなさい、オオナムヂ。ここから更に進んだ所に、スサノオという神様がいらっしゃる根之堅洲国(ねのかたすくに)があります。そこに逃げなさい」
 スサノオ。もはやよく御存じの神様ですね。あの自己中ジャイアン系誠族の神様です。
 そして、根之堅洲国。これは実は、スサノオがイザナギに「母さんに会いたい」と言った時に出した地名です。驚くべき事に、根之堅洲国は、実在したのです。スサノオのマザコン魂は、時を越えて遂に実現したのでしょう。しかし、お察しの事とは思いますが、そこにはお母さんはいませんでした。悲しいなぁ(諸行無常)。
 オオナムヂは、オオヤビコにお礼を言って、木の股からこっそり抜け出して、その場を脱出しました。そして、再び逃亡者としての旅が始まります。

 そうしてオオナムヂは、根之堅洲国にやって来ます。ここまで来れば、流石の兄神達も追っては来ませんでした。
「まずはスサノオ様に会おう。そうして、根之堅洲国での生活を許可してもらわないと」
 お忘れの方もいらっしゃると思いますので説明しますと、オオナムヂは、スサノオの六代孫です。つまり、スサノオとは血縁です。
 しかし、よく考えてみて下さい。六代孫です。言うなればそれは、スサノオは六代祖父という事です。皆様は、六代祖父と面識はありますでしょうか? それと同じように、オオナムヂもまた、スサノオとは直接的な面識はないようでした。
 オオナムヂが、スサノオの自宅に辿り着きました。そして、扉をトントン。
「すみませーん、オオナムヂですけれどもー。根之堅洲国に住む許可を下さいー」
「はいはい、今開けますよー」
 中から、スサノオのものではない女性の声。そして、スサノオの自宅の扉が開き、そこからは、見るも麗しい女神が顔を覗かせていました。この女神様は、須世理毘売命(すせりびめのみこと 以下:スセリビメ)と言います。
 オオナムヂは、目と目が合う瞬間好きだと気付きます。そして、会って五秒で即「結婚してくれ!」と言いました。どうにもスサノオの一族の男神達はオーバーフロー臭がします。血統図を辿ればどっかに沢越止がいるかもしれません。「中に誰もいませんよ」もそう遠くない未来です。
 しかし、当のスセリビメも大概です。満更でもなさそうにしています。そして二人は、その場で結婚してしまいました。女神とはいえ、しっかりとスサノオの血を受け継いでいるようです。

 スセリビメは、父親に結婚の報告をしに行きます。しかし、これが厄介でした。
 何と、スセリビメの父親とは、スサノオの事だったのです。
「お前、父親に挨拶も無しにいきなり結婚とか……しかも事後報告とか……」
「貴方も大概ですよね?」
「で、でも、そいつもう、本国にヤガミヒメとかいう妻がいるじゃん!」
「貴方も速攻で浮気しましたよね? 私の母親にいたっては、誰かもわかってませんよね?」
 可愛い娘にそう言われて、スサノオは返す言葉もありません。仕方ないです、事実ですから。
 しかも、スサノオはスサノオで、本当は、オオナムヂの事を結構気に入っていました。しかし、父親として、そうそう簡単に娘は渡せません。どの面下げてそんな態度に出るのかは一切不明です。男っていつも勝手よね。
「オオナムヂ君、君に試練を与えよう」
 スサノオは、オオナムヂにそう言いつけます。
「蛇の一杯いる部屋の中で一晩過ごすんだよ、あくしろよ」
「やれば、スセリビメを嫁にいただけるんですね?」
「おう、考えてやるよ(くれるとは言ってない)」
 こうしてオオナムヂは、スサノオの試練を受け、蛇がひしめく穴の中で一晩を過ごす事にします。
 しかし、考えるまでもありません。蛇が山ほどいる中で一晩です。普通に嫌に決まっています。オオナムヂは、何とかならないかと、スセリビメに相談します。
「もう、しょうがないわねぇ……オオナムヂは、私がいないと何にも出来ないんだから」
 そう言って、スセリビメは、比礼(ひれ)と呼ばれるスカーフ的な布をオオナムヂに渡しました。
「これを振れば、蛇達は寄って来なくなるわ。おう、シャンシャン振ってみろこの野郎」
「シャン、シャン」
「三回だよ、三回」
「シャン、シャン、シャン」
 これで、蛇は寄って来なくなるそうです。オオナムヂは大喜びしました。
 こうして、オオナムヂは、スサノオの試練に挑みます。そして、蛇達の前で、スセリビメの言う通り、比礼を三回、シャンシャンシャンと振りました。すると、スセリビメの言う通り、蛇は一切寄って来なくなったのです。
 こうなれば、勝ったも同然です。オオナムヂは、悠々自適に穴の中で一晩を過ごし、スサノオに試練の達成を報告しました。

 スサノオは、ウウム、と唸ってしまいます。中々見どころのある若者です。ぶっちゃけもう嫁にやってもいい気分でしたが、スサノオ的にはもうちょっと厳しいお父さんごっこをしたい気持ちでした。
「ちょっと遊び過ぎた、今のは本気じゃなかった」と、格ゲーで負けた時の言い訳のような事を言って、スサノオは、次の試練を与えます。
「今度はムカデと蜂だよ。その中で一晩過ごすんだよ、あくしろよ」
「やれば、スセリビメを嫁にいただけるんですね?」
「おう、考えてやるよ(くれるとは言ってない)」
 こうしてオオナムヂは、スサノオの試練を受け、今度はムカデと蜂がひしめく穴の中で一晩を過ごす事にします。
 言うまでもなく、普通に嫌です。人によっては蛇よりも難易度が高いです。映画キングコングを見た人なんかはトラウマものですね。当たり前のように、オオナムヂは、スセリビメに相談します。
「もう、しょうがないわねぇ……オオナムヂは、私がいないと何にも出来ないんだから」
 そう言って、スセリビメは、前とはまた違う比礼を、オオナムヂに渡しました。
「これを振れば、ムカデや蜂達は寄って来なくなるわ。おう、シャンシャン振ってみろこの野郎」
「シャン、シャン」
「三回だよ、三回」
「シャン、シャン、シャン」
 これで、ムカデや蛇は寄って来なくなるそうです。オオナムヂは大喜びしました。
 こうして、オオナムヂは、スサノオの試練に挑みます。あとはもうパターン入りました。
 オオナムヂは、スサノオに、試練の達成を報告しました。

 その後も、スサノオの試練は続きます。やれ「頭に虱がいるから取ってくれ」と言われて頭をまさぐってみたら超デッカいムカデだったり、やれ「野原に鈴を隠したから探して来い」と言われて探してたら野原にいきなり火をつけられたり、散々です。ここまでするのはたけし軍団の若手芸人弄りくらいです。
 そんな中でも、オオナムヂは、その度にスセリビメに助けを求めたり、果ては野鼠に助けを求めたりして、何とかかんとか試練を達成して来ました。しかし、流石にここまでされては、温厚なオオナムヂも我慢の限界です。
 ある日オオナムヂは、ぐっすりと眠りこけているスサノオの髪の毛を太い柱に結び付けて、スサノオを動けないようにします。そして、スセリビメを呼びました。
「一緒に逃げよう、スセリビメ」
「もう、しょうがないわねぇ……オオナムヂは、私がいないと何にも出来ないんだから」
 こうして二人は、こっそりと逃げ出す事にします。
 しかし、二人は、うっかり物音を立ててしまいます。この物音を聞いて、スサノオは起きてしまいました。
 オオナムヂは、スサノオの自宅の入口を、巨大な岩石でズシーン! と塞いでしまいます。どっかで見た事のある光景です。
「何だお前ら! お前ら二人なんかに負けるわけないだろ!(邁進)」
「調子こいてんじゃねーぞこの野郎、マザコンのくせによぉ。試練だぁ? お前が受けろよ、強いんだろー?」
「馬鹿野郎お前、俺は勝つぞお前(天下無双)」
 スサノオは立ち上がろうとしますが、太い柱に髪の毛を縛られてしまっては動けません。スサノオは、動く事が出来ないのがわかると、割とすんなりと観念しました。
「やはりやばい(再確認)。しょうがない、スセリビメは君の嫁にやろう。あと、うちの宝物庫から、好きなだけお宝持って行っていいよ」
「じゃあ俺、お宝と嫁もらって帰るから……」
 オオナムヂは、スサノオの宝物庫から、生太刀(いくたち)、生弓矢(いくゆみや)、天之詔琴(あめののりごと)の三つを貰いました。
「それらの武器を使って、お前を殺そうとした兄神様達をブッ殺してやりなさい」
「いや、それは……」
「あ、そう? まぁいいや。お前はこのスサノオの認めた神だから、立派な国を作りなさい。そして、このスサノオ直々に、君に名前を授けようじゃないか」
 そうしてスサノオは、オオナムヂに、新たな名前をつけました。
 スサノオの性格上、あまり光栄には思えませんが、これは実際超凄い事です。始祖神から始まる直系の子孫であるスサノオが、自ら直々に名前を与えるのです。これはつまり、スサノオが、オオナムヂを、自分の子孫だと認知した証拠とも言えます。
 現代的にわかりやすく言うと、音楽とダンスの神であるマイケル・ジャクソンが、見ず知らずのそこそこ才能のありそうな無名のミュージシャンに「今日から君はミーの息子だ」と言って、マイケル直々に名前を与え、マイケル直々に作詞作曲編曲した曲を三曲提供し、「このミュージシャンはミーの息子だ」とメディアに公表したようなものです。
「今日からお前の名前は、『大国主(おおくにぬし 以下:オオクニヌシ)』だ。立派な大国の主、という意味だね。その名前に恥じないように、立派な国を作るんだよ」
「ありがとナス!」
 オオナムヂ改めオオクニヌシとなった彼は、スサノオにお礼を言って、スセリビメと共に根之堅洲国を経ちました。
 ちなみに、最後までスサノオを解放しませんでしたし、岩石もどかしませんでした。(直系の神のスサノオだし)多少はね?


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 その後オオクニヌシは、スサノオから受け取った生太刀、生弓矢を駆使し、兄神達をやっつけます。
 兄神達は、その荒い気性をそのままに、それぞれが治める国を恐怖政治で支配していたのです。それをオオクニヌシがやっつけて、平和な国を作り上げました。
 生太刀と生弓矢は、殺すための武器ではありません。その名の通り、「生かす武器」なのです。そうしてオオクニヌシは、悪しき神を成敗し、民を生かしたのでした。
 その後オオクニヌシは、スサノオに貰ったその名に恥じぬ、立派な大国を作り上げました。

 しかし、そこは流石のスサノオ直系の六代孫です。オオクニヌシは建国の間、それはそれは沢山の女神と浮気をしました。

・沼河比売命(ぬなかわひめのみこと)
・多紀理比売命(たぎりびめのみこと)
・神屋楯比売命(かむやたてひめのみこと)

 最初に結婚したヤガミヒメ、そして正妻のスセリビメを省いても、判明している限り以上の女神と結婚をし、場合によっては子孫を残しています。
 実際これには正妻であるスセリビメも超SHITしましたが、そこは正妻の余裕なのか、「どうせ最後には私のところに帰って来るわ」と、最後までオオクニヌシのそばに寄り添い続けたそうです。これなんてエロゲ?


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 オオクニヌシが国造りと浮気に精を出して、しばらくの時が経ちます。
 ある日、オオクニヌシが、いつものように国造りをしていると、海(波)の向こうから、船が流れて来るのが見えました。
 ただし、船と言っても、木の船とか客船とかそういうのではありません。ガガイモです。ガガイモの船が流れて来たのです。例えるなら、海の上に折り紙のツルが浮いているような感じだと思います。
 ガガイモの船には、とってもとっても小さな神様が乗っているようでした。そしてガガイモの船は、遂に出雲に流れ着きます。
 小さな神様が、出雲に降り立ちました。そして、呆然と見つめていたオオクニヌシの前に立って、ペコリと頭を下げました。
「国造りはいいねぇ。国造りは心を潤してくれる。DQN夫妻の生み出した文化の極みだよ。そう感じないか? オオクニヌシ君?」
「僕の名前を?」
「知らない者はないさ。失礼だが、君は自分の立場をもう少しは知ったほうがいいと思うよ」
「そうかな? ……あの、君は?」
「さて、誰でしょう?」
 どうやら意地悪らしい小さな神様は、そう言って軽やかにどこかへ行ってしまいました。
「やなやつ、やなやつ、やなやつ!」
 オオクニヌシは、地団駄を踏みました。そしてムキになって、絶対に今の小さな神様の正体を暴いてやろうと、色々な奴に聞き回ります。

 まず、オオクニヌシは、ヒキガエルに彼の事を問います。
「あの小っちゃい奴、何者なわけ?」
「いや、知らない。そうだなぁ……カカシなら知ってるんじゃないの? アイツ歩けないけど、だからこそずっと世界を見てるから、色々知ってるんだよ」
 ヒキガエルにそう聞いて、オオクニヌシは、今度はカカシに聞きに行きます。気分はすっかりお使いクエストです。
 しかしオオクニヌシは、それほどたらい回しにされる事なく、小さな神様の正体に行き着きました。カカシが、彼の正体を知っていたのです。
「あの小っちゃい奴、何者なわけ?」
「ああ。彼の名前は少名毘古那命(すくなひこなのみこと 以下:スクナヒコナ)だよ。彼は、タガナシ様の子供なんだ」
「えっ? タガナシ様の子供?」
 オオクニヌシは仰天しました。タガナシ様と言えば、自分が兄神様達にゴールドエクスペリエンスレクイエムを喰らってる時に、自分を生き返らせてくれた神様達を派遣してくれた神様です。実際、超偉い神様です。そのタガナシ様の子供だと言うのだから、これは無碍にしていいはずがありません。

 オオクニヌシが正体に行き着いたタイミングを見計らったのか、そこに軽やかにスクナヒコナが現れました。
「やなやつとか言ってごめんね。君のお父さんにはお世話になったんだ」
「父さんは父さんだよ、僕じゃない。僕はただ、君の国造りの手伝いをしようと思って来ただけさ」
「どうして?」
「面白そうだったから、かな。それ以外に理由がいるのかい?」
 オオクニヌシは、スクナヒコナに奇妙な友情を感じます。
「君は、何を話したいんだい?」
「えっ?」
「僕に、聞いて欲しい事があるんだろう?」
「……色々あったんだ、ここに来て。来る前は、お兄ちゃん神達のところに居たんだ。穏やかでなんにもない日々だった。ただ、そこに居るだけの……。でも、それでもよかったんだ。僕には、何もする事が無かったから……」
「国造りが、嫌いなのかい?」
「別に、どうでもよかったんだと思う。ただ……女神は好きだった!」
 オオクニヌシは、「どうしてスクナヒコナ君にこんなこと話すんだろう」と考えます。ただぶっちゃけ、別に今回にかかわらず、オオクニヌシは色んな神様や物に弱音を吐いています。台詞に説得力がありませんね。
 スクナヒコナは、何も言わずに、ただ、オオクニヌシの言葉に頷いていました。そしてしばらくあって、スクナヒコナが、静かに口を開きます。
「僕は、君に逢う為に生まれて来たのかもしれない」

 こうしてスクナヒコナは、オオクニヌシの良き相棒となり、オオクニヌシの国造りの手伝いをします。実際スクナヒコナは敏腕で、これまでオオクニヌシが困難に思っていた事は、スクナヒコナの助言により、驚くほどスムーズに行くようになりました。
 オオクニヌシが辛い時は共に悩み、オオクニヌシが喜ばしい時は共に喜ぶ、言うなれば親友でした。スクナヒコナの存在は、例えるならば、三国志の孔明であり、遊戯王の城之内君であり、ジョジョのツェペリ一族であり、ペルソナ4の陽介であり、ダイの大冒険のポップです。

 かと思えばある日、スクナヒコナは突然、「常世之国(とこしよのくに)に行く」と言い出します。オオクニヌシが止める間もありません。
「ありがとう。君に逢えて嬉しかったよ」
 そう言って、スクナヒコナは、オオクニヌシの前から姿を消します。そして、二度とオオクニヌシと再会する事はありませんでした。
「まったく……最初から最後まで勝手な奴だなぁ、アイツは」
 オオクニヌシは、消えていくスクナヒコナの背中を、最後まで見守り続けました。


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 スクナヒコナがいなくなり、オオクニヌシは大層寂しい思いをします。そしてそれと同時に、これまでスクナヒコナあっての統治だった事も否めず、それが突然いなくなり、同時に大層難儀もします。気分は本物の遊戯がいなくなった時のもう一人の僕です。
 オオクニヌシが「やめたくなりますよ…国造りぃ~」とか思っていると、突然目の前に、黒い人影が現れました。
「な、何だお前は?」
「ふっふっふ、誰だっていいだろう?」
 そう言って、オオクニヌシを嘲笑う黒い影。どうにも神様の中には「まず名を名乗る」という礼儀がないようです。
「俺は、お前と取引をしに来たんだ。これからお前が、俺を祭り、俺を愛し敬い、俺を理解するのであれば、お前の国造りの手助けをしてやろう」
「それは困る。俺が造った国の中で、お前のような得体の知れない者を祭るわけには行かない」
「……俺が造った国? 俺が造った国だと?」
 黒い影は、ゲラゲラと笑います。そんな黒い影の姿は、オオクニヌシにはとても不気味なものに映りました。
 オオクニヌシは迷います。先にも言った通り、こんな得体の知れない奴を、自分の国で祭るわけには行きません。しかし、それと同時に、このままでは国の運営が上手くいかない事も自明の理です。
 迷いに迷って、オオクニヌシは遂に決断します。
「……わかった。お前を祭ってやろう。だから国を繁栄させて下さい!」
「よし、はいじゃあ国出せ!(総仕上げ)よし、じゃあブチ繁栄させてやるぜ」
「オッス、お願いしまーす」
 こうして、黒い影の暗躍により、国は何とか平穏を取り戻しました。

 国が安定し、一段落したところで、オオクニヌシは黒い影に問い掛けます。
「実際、本当にお前何者なわけ?」
「ふっふっふ……何だ、まだ気が付かないのか?」
 黒い影がそう言うと、突然、びょう! と風が吹きました。そして、彼の周りに漂っていた黒い影が、あっという間に取り払われます。
 その姿を見て、オオクニヌシは「あっ!」と叫びました。
 何と、黒い影のその正体は、オオクニヌシの姿そのものだったのです。
「アイエエエエ! オレ!? オレナンデ!?」
「そうとも。俺の名前は大物主大神(おおものぬしのおおかみ 以下:オオモノヌシ)。俺はお前、お前は俺だ」
 当然、オオクニヌシは仰天します。その間にも、オオモノヌシは語り続けます。
「おい、オオクニヌシ! お前最近、国造りで調子こいてただろ」
「いや、こいてないですよ」
「嘘つけ、絶対調子こいてたゾ」
「何で調子こく必要があるんですか(しらばっくれ)」
「あ、お前さオオクニヌシさ、前に俺がと……取引持ちかけた時さ、『俺の造った国』って言ったよな?」
「そうだよ(回答)」
 だって、実際そうです。この国は、オオクニヌシが建国し、オオクニヌシが治めているのです。それを「俺が造った国」と言って、何が悪いのでしょう?
「ならば、お前が今のお前になったのは、全てお前の能力あっての事か? この国を繁栄させたのは、本当にお前だけなのか?」
「いや、そんな事……」
「やっぱり他力本願じゃないか(憤怒)」
 オオモノヌシの説教に、オオクニヌシはギクリとしました。確かに、オオモノヌシの言う通りだったからです。
 遡れば、ヤガミヒメと結婚出来たのもイナバのおかげだし、自分が何度も死んだ時にもカーチャンやタガナシの部下に生き返らせてもらったし、スサノオの試練を乗り越えたのもスセリビメや沢山の仲間の協力のおかげだし、八神達をやっつけたのもスサノオの宝があったからだし、最近ではスクナヒコナがいてくれたから国は平穏無事だったのです。
 いつだって、誰かに助けてもらっていました。しかしオオクニヌシは、そんな当たり前の事を忘れてしまっていたのです。
「お前は、そんなみんなの愛情や恩も忘れて、自分だけで国を治めたと勘違いをしていたのだ。だから、スクナヒコナがいなくなった時に、国が動乱に見舞われたのだ。俺は、そんなお前を説教する為に現れたのだ」
「そーなのかー」
 オオモノヌシの正体は、オオクニヌシの中にあるもう一つの魂でした。
 人の魂は、大きく分けて和御魂(にぎみたま 以下:ニギミタマ)と荒御魂(あらみたま 以下:アラミタマ)に分けられます。ニギミタマは、優しさの心・信愛の心を司り、アラミタマは、勇気の心・決意の心を司ります。
 ところが、オオクニヌシは、随分と誰かに助けてもらっている間に、いつの間にかそれが自分の力であると勘違いしてしまったのです。結果、オオクニヌシの中からニギミタマはいなくなり、アラミタマだけが宿るようになりました。
 そして遂に、見ていられなくなったニギミタマは、実際に姿を持ってオオクニヌシの前に現れ、説教をしに来たのです。それこそが、オオモノヌシという存在の正体でした。
「つまり、お前を祭るという事は、優しさや信愛の心を祭るという事だったのか! そういう事なら祭りますよー、祭る祭る」
「やっと反省したようだな。それじゃあこれからは、ちゃんとニギミタマの魂も忘れないでくれよなー頼むよー」
「……最初からそうならそうと言ってくれれば話は早かったんですが、それは……」
「こまけぇこたぁいいんだよ」
 オオモノヌシは、オオクニヌシの改心を見届けて、すっと消えて行きました。

 その後、オオクニヌシは、改めてしっかりと国を治め直し、そうして国は繁栄します。

       

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Neetsha