Neetel Inside 文芸新都
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クソ小説アンソロジー
黒人の握ったスシ

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「イラッシャセ!」

 昼頃のランチタイム、俺は会社から少し離れた駅のそばの、すし屋に来ていた。通勤の時に通る店で、ちょっとうらぶれたような店構えだが、そこは味があるともいえる。のれんをくぐり、店に入ると、店員の挨拶が飛んできたのだ。

「イラッシャセ!」

 板前は、黒人だった。黒人の握った寿司なんか食えるか、そう思い、きびすを返して店を出ようとしたところに、

「お一人様ですか、こちらのお席へどうぞ。」

 店員が先手を打って声をかけてきた。俺は出ていくタイミングを逃し、しぶしぶカウンターへ腰かけた。どうやら、黒人の板前と、この女店員、二人でやっている店のようだ。女店員の方は若い日本人で、おしとやかなふいんきを纏っていた。もしかしたら、黒人の嫁だろうか。

「とりあえず、並ひとつ。」

 女店員がお茶を持ってきたところに、注文を言う。メニューには、並、上、特上とあり店の壁に達筆な文字で書かれた板がかかっている。女店員が注文を書き留めている間に、改めて店を見渡す。店は、古ぼけた、と言うほどではないが、年季の入った壁紙が、すこしオレンジがかった照明の淡い明りに照らされている。テーブルは四人掛けのものがふたつ、そして、五人ほどが座れるカウンターがあり、小さめの店構えだ。入口そばのレジスターの隣には、招き猫が座っている。女店員が、注文を黒人に伝えると、注文書をしまい、店の奥に消えた。黒人は、俺の目の前で、ネタを取り出すと、柳葉包丁を軽快にふるい始めた。手つきには迷いがなく、てきぱきと、慣れた手つきで魚を捌いていた。黒人はシャリ桶から米を一握り取り出すと、ぱっぱっと、ネタと合わせて握っていた。うわ、この店、ホントに黒人が握るのかよ……。なかば覚悟していたとはいえ、実際にそれを目にして、俺はゲンナリしていた。黒人の握ったすしなんか、食えるかよ……。黒人の手さばきから目をそらし、やれやれ、と思いながらお茶をすすった。

「ハイヨッ!ナミッ!」

 それからすぐに、すしが出来上がり、俺の前に運ばれた。鉄火巻き、マグロ、イカ、エビ、など、基本のネタは抑えてある。見た目も……綺麗にそろえられている。問題は味だ。俺は勢いよくマグロを口に放り込んだ。ひと口、シャリがほぐれ、口にばらける。ふた口、醤油とマグロの香りが、鼻へ抜ける。み口、マグロの身から、まろやかな甘味が口いっぱいへ広がった。ネタが本当に新鮮なだけでなく、腕が悪いと、こうはいかない。


 ……クソうまい。

 俺は久々に美味い寿司を食った。値段も手ごろだ。黒人が板前だが、それがなんだ。誰が何と言おうと、文句なしだ。

 しばらくして、またこの店を訪ねた。閉店していた。……やっぱ黒人の握るすしってダメだわ。

       

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