あきびん 一
リサイクル工場を抜け出すのは、決死の覚悟であった。
というのも、あの洗浄機つきのコンベアに乗せられたが最後、
ラベルが剥がれ落ちるのもそこそこに粉砕されてしまうからである。
自販機住まいの茶色のジュース瓶というものに生まれついたからには、
一度中身が消費されただけで、その生涯を終えなければならない。
自販機に眠っていた時期が比較的長かったとはいえ、にわかには信じがたい。
それに…、叶えたいこともある。
それで、秋の夕方のもの哀しい小道をひっそりと転がっているというわけである。
あきびんの空っぽの体は夕陽をわずかに透かして飴色に光った。
フタはとっくの昔にどこかへ行ってしまった。
「瓶先生~!待ってください~」
今しがた抜け出てきた工場のほうから、軽やかに転がってくるものがある。
あれはアルミ缶の転がり方だ。
はてどこかで見たような…とあきびんが考えている間に、
その缶は追いついてきて止まった。
「お久しぶりです、瓶先生。」
「おお、あるみ君じゃないか!行き着く場所まで同じとは、いやはや。」
その見知ったアルミ缶は、かつて同じ自販機に隣同士となった頃の友であった。
あきびんを先生と呼ぶ所以は、自販機がうらぶれた場所にあったがために、
だいぶ長く居座っていたためつけられた愛称である。
「僕は今日来たばかりなのですが、窓から先生が見えたので慌てて抜け出して
きたんです。仕分け機にかけられる直前でしたよ!まったく恐ろしいことです。」
缶の仕分け機とは、磁石をコンベアの天井に幾つもぶらさげて、スチール缶だけを
吸い取って落とす巨大な装置である。
磁石に縁のないアルミ缶たちはその横を戦々恐々としながら流れてゆく。
と言っても、分けられた缶たちの末路は同じで、両方プレス機行きなのだが。
「どこに行かれるおつもりですか?」
「うむ、…とりあえず工場からもう少し遠ざかろうじゃないか。このあたりは郊外の
ようだし、少し行けば隠れる場所もあるだろう。話はそれからだ。」
あきびんとアルミ缶は、段差や雑草にかからないよう気をつけながらコンクリートの
上を転がり出した。