Neetel Inside ニートノベル
表紙

テイルズ・オブ・オレガカク
04.山小屋

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 俺は山小屋で目を覚ました。どうやら、アージィたちが運んでくれたらしい。
 運が良かった。都合よく休憩地点があるなんて。
 が……
 これで城への道はいよいよ閉ざされた。外は濃霧である。
 やはり俺がパーティにいる限り、アージィたちは旅を続けられないのだ。
 三行半を突きつけられても文句は言えない。俺は覚悟した。
 シチューのにおいがする。

「ほら、食べなさいよ。あんた寝過ぎ。一日二食くらいになってない?」
「まあ……平気だし」
「平気なわけないでしょ。栄養はちゃんと取りなさい。あんたはうちのパーティの剣士なんだから」
「ぐむ」

 無理やりスプーンを口に突っ込まれる。
 おいしい。

「……すまねぇ」
「もういいよ。ね、カルナルカ?」
「反省はするな、そして後悔もするな。……なのです」
「それダメじゃねえか?」

 カルナは時々へんな言葉を覚えて来る。
 俺はベッド、カルナはソファ、アージィは窓際に立って、しばらく談話した。
 とりとめもないこと……
 一人旅だったときには得られなかった安心がそこにはあった。
 この旅暮らしを捨てたくない……でもやっぱり、
 俺は……

「ねえ、何か聞こえない?」

 アージィが言い出した。
 確かに、何か聞こえる。

「これは……亡霊の泣き声?」
「亡霊!?」

 カルナが怯えた。カルナはまだ亡霊を見たことがないのだ。
 それはこの世への怨嗟を残して死んだ人間の魂の成れの果て……
 魔法では倒せず、物理攻撃、しかも剣士の技でしか払えない。
 アージィとカルナでは、対処できない魔物だ。

「オオオオオオオオオオオオ……」
「くそ、やっぱいるっぽいな」
「小屋には入って来ないよね。暖炉の火を消したりしなければ……」
「ああ、でも、誰かが外から来たらべつだ」

 俺たちみたいな冒険者が亡霊から逃げてこの小屋へ入ってくれば、一気に敵がなだれこんでくる可能性がある。その前に手を打たねば。
 俺は剣を握り締めた。アージィが慌てる。

「ちょ、ちょっとザンク! あんたまだ無理しちゃ……」
「大丈夫だ。少し具合がよくなった」

 実際、そうなのだった。俺はベッドが近ければ眠り病が少しだけ弱くなる。安心するらしい。不安や恐怖が俺を眠りへと誘うのだ。
 今なら、闘える。

「二人とも、ここにいろ」
「あたしもナイフで闘う」
「やめとけアージィ。怪我するぞ」

 ナイフ技術でも亡霊は追い払えるが、剣が一番いい。それも神業が。
 この濃霧では、俺はアージィを間違って斬る可能性がある。駄目だ。
 俺がやるんだ。
 俺はふらつきながら表へ出た。

「ザンク!」
「心配すんな」

 扉を閉めて、剣を抜く。
 うわ。
 来た。
 凄まじい悪寒と怨嗟のこだま。俺はぞっとしながら、自分にすり寄ってくる黒い影たちを見た。無念の死を遂げた悪霊たち。俺はそれを祓わねばならない。
 いくか。

「……おおおおおっ! 《双撃衝》!!」

 基本的な序盤技で数体の悪霊を吹き飛ばす。俺は続けて踏み込み、剣を振った。

「《追撃穿》!! はああああ……《破砕陣》っ!!」

 かすかな手ごたえ、雨を切るような。
 俺はわずかに忍び寄って来た睡魔に抗いながら剣を振り続けた。
 一人旅で孤独に鍛えた俺の技……
 せめて彼らの冥土の土産になればいい。
 踏み込み、旋回、跳躍してからの墜落。地盤を砕き、その衝撃に沿って体位を動かす。
 黒い指が俺の身体をかすめていく――

「《盤次元》っ!! 《墜飛斬》っ!! ぐっ、畜生、《風魔襲連撃》っ!!」

 立て続けに剣を振るい、黒い影を斬り払う。
 が、なぜか手ごたえ。

「……魔物か!?」

 悪霊に続いて、普通の魔物まであらわれていた。蛇と豹の魔物だ。豹の肩から蛇が生えている。くそ、噛まれた。

「いてえ……」

 俺は血を吸って毒を吐き、剣先を揺らめかせながら距離を取った。濃霧がひどい、敵が見えない。闇雲に斬るしかない。

「《真眼衝》っ!!」

 居合切りは虚空を裂いた。畜生、豹が前足で殴りかかってきた。なんとか鞘で受け止めるが、粉々に砕けた。足元の小石を蹴り飛ばす。魔豹の四つある目のうちの一つを潰した。死角発生。とてもチャンス。俺は突撃した。

「《光槍瞬発破》ぁぁぁぁぁっ!!」

 二連切り上げからの回転突撃一点突き。魔豹の心臓を貫く感触。俺は血を浴びた。

「勝った! 俺の勝ち……なっ!?」

 がぶり、と、魔豹の肩に融合していた蛇が、俺の腕に噛みついていた。本体から分離している。畜生、そういう生き方か。俺はふらつきながら後ずさった。もう悪霊はいない、だが魔蛇が二対……利き腕をやられて、剣が持ち上がらない。ここまでか……
 俺がそう思い、目を閉じた時。

「我が望むは汝の牙……いでよ、《聖火鳥・バルファレム!!》」

 業火が燃える燃焼音と共に、俺の横を紅蓮の鳥が駆け抜けて、その炎の嘴で魔蛇を噛み砕いた。そのまま濃霧の向こうへと消えていく。しばらく星のようにその尾跡が輝いていた。

「ザンク」

 いつの間にかカルナがそばにいた。俺の腕に吸い付いて、

「んっ……」

 毒に汚れた血を吸い取り、吐き出した。俺は黒くなった自分の血をぼんやり見ていた。

「アージィが精獣でほかの魔物がいても倒してくれる。安心していいよ」
「ああ……そうか……」

 俺は剣技に過集中してしまって、もうカルナの顔もロクに見えなかった。視界が霞む。寝ても寝ても眠い。鶏が先か卵が先か……俺の眠り病には、俺自身の剣が影響を与えている気がしてならない。
 それでも、俺は剣を手放せそうにない。

       

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