【０１ ホテヘルにて】
大阪の、とある風俗店の待合室。３０分ほど待って、ようやくお呼びかかる。胸を高鳴らせて、黒服のお兄さんに番号札を渡す。胸が高鳴る。今日は初めて指名する嬢だ。パネル指名しているとはいえ、やはり写真と実物は異なることが多い。外れを引くこともある。不安と期待の入り混じったこの時の気持ちは、麻雀の配牌時に凄く良く似ている。
「お店から出たところで、女の子が待っております」
この街では、条例の関係でホテヘルという形態をとっていることが多い。これは素晴らしいことである。いきなり準備万端のランジェリー女が待ち構えていたりして趣も糞も無い店舗型に比べて、お店からホテルまで女の子と並んで歩くことができるという点が圧倒的に優っている。疑似恋愛感が圧倒的に異なる。
さあ、今日はどんな嬢と疑似恋愛ができるのだろう。いざ――
【０２ モンスター】
そこに。
いたのは。
モンスターだった。
比喩でもなんでもない。
これはモンスターだ。
パネルマジックだとか……、地雷だとか……、そういう次元の話ではない。本当に人外としか思えない。分かりやすく形容するなら、wikipediaの「ダゴン」の項目に掲載されている画像（「クトゥルフ神話のダゴン」）に似ている。
はて、俺は着ぐるみのコスプレオプションを頼んだだろうか。それとも、サービスのつもりだろうか。
しかし……それにしても……。見た目も醜悪だが、臭いも相当なものだ。煮魚の食べかすを夏場に長期間放置したときのそれに似ている。何より、感じる気配が不愉快すぎる。生理的嫌悪感の針はＭＡＸだ。汗かきワキガのデブスですら、こいつに比べれば可愛いもんだ。
「倥∈縺ｮ繝｡繝・そ繝??ｼ繧ｸ縺ｧ縺吶?・」
突然、「そいつ」は奇妙な音を発した。気分の悪くなる音。さっき晩飯に食ったトンカツが、胃を逆流しかける。
「∪縺吶 縺セ縺溘 ∵？」
どうやら、俺から番号札をとろうとしているらしい。
そうだ。ここでは、まず嬢に番号札を渡すのだ。そして、次に行われる行為は――キスだ！
「うわあああああ！！！」
バシっと手で払う。ヌメっとした感触。おぞましい感触。危なかった危なかった危なかった！！！もう少しで、もう少しで――ッ……
「お客さん？どうかしましたか？」
俺の叫び声を聞いて、黒服のお兄さんがお店から出てくる。愛想は良くて丁寧なお兄さんたちだが、トラブルには敏感である。
「ど……どうもこうもあるかよッ！！！こんな……、こ、この店は、こんな化け物を……」
黒服のお兄さんが慣れた口調で喋り出す。
「ご指名後の女の子の変更には応じかねます」
そりゃそうだ。ご尤も。初指名で地雷を踏んだ経験なんて数えきれないくらいあるし、それで店に苦情を言うほど初心者ではない。けれど、こいつは……、正真正銘のモンスターじゃないか……。
「お客さん？…あ、お客さん？！」
俺は、駅に向かって走り出した。お金は払っているのだから、こちらが文句を言われる筋合いは無かろう。１万８千円という現金を失って、サービスを受けることができなかったのは痛恨の極みだが、それよりもなによりも、俺は一刻も早く、「そいつ」から離れたかったのだ。さきほど払ったときに接触した部分がすごく嫌な感じがする。
あれは、――やばい。
