Neetel Inside ニートノベル
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滅神時代に生まれました
07.僕たち私たち――

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 そして土日を挟んで、月曜日。
 カルド様から重大発表が放たれた。

「あたしたち、付き合うことになりましたあっ!」

 ぎゅっと僕の腕にしがみ付いて「ピース!」する上沢さん。何言ってんだこの人、と思っていたら天条が野次馬を跳ね除けて突っ込んできた。
「ど、ど、どどどどどういうことだ葉垣ィッ!」
「僕も知らん!」
 つーか初耳だ!
「ちょっとちょっと上沢さん!」
「なに?」
「そういうのはマネージャーを通してから発表してもらわないと」
「ノリノリかっ!」天条にシバかれた。
「閣下! 聞いてませんよ俺はこんなスキャンダラスなこと!」
「そんな、葉垣くんはいい人だよ。あたしの告白、承けてくれたでしょ?」
「5W1Hが思い出せないよ」
「この間、図書室で言ったじゃん」
「アレか! アレは勉強に付き合うって意味じゃないの!?」
「いやいや、ないでしょ」
 ひそひそ話をし始めたクラスメイトたちを牽制しつつ、僕は上沢さんと向かい合った。きょとんとしている。くそ、僕がきょとんだ。いきなり熱愛宣言とか何を考えてるんだ。そんなそぶりまったく覚えがないし……
 僕は上沢さんの腕を引っ張って物陰へと引きずり込んだ。天条がついてきた。
「天条! 今はまじめな話をしようとしてるんだ!」
「俺はまじめに閣下を心配している!」
 ぐうの音も出ない。
「よし、じゃあ三人でなぜこのような事態が起こってしまったのか、最近の若者の心の闇について話し合おう」
「恋、それはダークネス」
「ちょっと黙ってて上沢さん」
 僕は天条に耳打ちした。
(本当に何も知らないんだって。僕がびっくりしてるんだ)
(そんなことが信じられるかボケ。貴様、神に狼藉を働きおって、覚悟しろ)
(足を踏んでくるのはやめろ)
 くそっ、話にならない。
(何か心当たりはないのか、こんなこと上沢さんが言い出すなんて)
 そこで天条はふむ、とちょっと考え込み、
(最近、少女漫画をかたっぱしから乱読してはため息をついていたが……それか?)
(それだ)
「君たち、何を失礼なことを囁き合ってるのかね」上沢さんはキレ気味な顔でトントン足を鳴らしつつ、
「恋に恋する乙女とか言ったらぶっ飛ばす」
「それ以外の形容が思いつかないのだけれど」と僕。
「現国の木村呼んで来て対処してもらうか」と天条。
「だいたいですね閣下」
 天条が上沢さんの肩を掴んでは振り払われている。
「本当にこの男と付き合うおつもりですか? いいですか、コイツのことは昔からよく知っていますが、口を開けばデマカセばかり吹きまくるどーしよーもない奴ですよ」
「なんてひどいことを」
 うーん、と上沢さんは唇に指を当てて考え込み、
「でも、優しいし」
「WINNER、僕」
「騙されているっ! 閣下、あなたは騙されているんですよこの悪魔に!」
 ぶんぶん天条は上沢さんを揺さぶったが、分身の術を小刻みに撃ってるみたいになっているカルド様は全然動じていらっしゃらない。
「勉強を教えてくれる男の子と付き合うことになって成績アップ。これが正しい女子高生ライフなのだよ」
「ちがうっ、閣下には男の子なんていらないんだっ!」
 お父さんかお前は。
「畜生っ、誰か嘘だと言ってくれっ!」
「まあまあ天条、僕もまだオッケーしたわけじゃないし」
「えっ」
 上沢さんが目を見開いた。
「まさか……断るつもり? 葉垣くん、あたしの告白を?」
「まあ、視野には入れてるよね……正直あんまりよくお互いのこと知らないし……」
「もういっかい聞くよ」
 上沢さんがすくいあげるように僕を下から見上げてきた。
「あ た し の 告 白 を 断 る の ?」
「…………」
 なるほど。
 これは脅しだな……
 断ったら、ひょっとして僕、消されたりするんじゃないのか。いや、それよりひどい目に遭う可能性も……
 暗澹たる未来を想像すると、どこにでもいる高校生にしか見えない上沢さんが、やはり底知れない何かに思えて来るのだった。
「わかってくれたかな?」
「ええ……まあ……一応」
「大丈夫だって」ニコニコと上沢さんは言う。
「取って食べたりはしないから」
 僕は窓の外の青空を見上げた。
「2015年秋。私、カマキリじゃない宣言ここに締結」
「落ち着け葉垣、何を言ってるのかまったくわからん」
「助けてくれよ天条ぉ」
 涙目で幼馴染を見たが顔を逸らされた。若干のブチギレ気配を見せたカルド様に本気で逆らう気概はこの天使候補生にはないらしい。それで騎士道が貫けると思うてか。主君が過てば身をていして正しき道をだな……
「じゃ、教室に戻ろっか、葉垣くん?」
「えっ? うわっ」
 上沢さんに腕を引っ張られて、ひそひそ話のメイルシュトロームになっている教室へと連れ戻される。ああ、さらば僕の青春。彼女持ちにはなれど、相手が神様じゃ悪いこともできやしない。そもそも僕はべつに彼女のことが好きではないし……べつに好きな子もいないけど、それで流れて付き合うってどーなんだろう? ちょっと間違ってる気もするが、神様がいいよって言ってるし……あれ? なんだかよくわからない。
「……本当に僕でいいわけ? 上沢さん」
「うん!」
 微笑むカルド様は真実に包まれているような気がした。
 でも、やはり、僕は疑心を持たずにはいられない。
 ……ひょっとして、イレコミになったの、勘付かれてる?
「あの……上沢さん」
「なに?」
「…………」
「?」
「なんでも、ない」
 聞いてみるわけにもいかず、僕は光溢れる教室へと引きずり込まれた。

       

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