人が犯罪に走るときって、何を感じているんだろう?
今まさに、俺は小さな犯罪を起こそうとしている。
万引き、そう誰だってこれぐらいのことはしているはずだ
落ち着け、落ち着け、落ち着け
店員の場所は確認したか?
監視カメラは?
ほかに誰か見てないか?
平静を装えるのか?
覚悟を決め、俺は袖口へと商品を隠した。
ごくっ・・・。
自分の飲み込んだ生唾の音の大きさに驚く
誰かに聞かれていたら、明らかに・・・。
脂汗が出てくる
今まさに、俺は危ない橋をわたっている
一歩間違えば、谷底へとまっさかさまだ
この袖口にすっぽり隠されている商品は
俺の人生を台無しにできる
魔法の物体だ。
これを守りとおせば、俺はまだ見ぬ世界を見ることができるかもしれない
その、甘く妖艶な香りが俺に人生をベットさせていた。
よし、誰にも気づかれていない。
ゆっくりと俺は行動を開始した。
「いらっしゃいませー。」
店員が横を通り過ぎる、よし、気づいていない。
焦るな、焦るな・・。
普段とかわらないペースで
俺は扉から出た。
アラームは鳴らない。
タグは安いものにはついていないのだ。
「ありがとうございましたー。」
店員は何も知らずに、万引き少年へと感謝の気持ちを述べる
それがたまらなく痛快で、思わず笑みがこぼれた。
店から飛び出した俺はそのまま何か高揚した気分で
家へと舞い戻った。
そしてその興奮が冷めたときに
自分は犯罪を犯したのだ、という
とても冷たい、鋭利なものが心臓に突き立っている
そのことに気づいた。
俺はそれに一生苦しみ、そしてそれを受け入れ
転落していくことしかできなかった。
そう、俺は勝ったと信じ込んでいた賭けに負けていたのだ