Neetel Inside 文芸新都
表紙

書き散らし駄文録
吟遊詩人の話

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豊かな火を湛えた暖炉の前
大の男達が車座になって、一人の吟遊詩人の歌を聞いていた

吟遊詩人は遠く離れた異国の地からきたのだという
深い深い雪で覆われた村の外、行き倒れになっていたのを介抱したのは3日前
村人の手厚い看護を受けた吟遊詩人は
介抱してくれた御礼と、一冬を暇に過ごす村人の為に
たくさんの歌を謳います。

「詩人様、次は何の歌を歌うんですか?」

「そうですね、竜神、蛇神、鳥神、虎神の歌を歌ってきました
 では、最後に、世界の歌を歌いましょう」

「世界の歌?」

「そう、世界の歌です、蛇神の守る、楽園の世界の歌です」

そう言うと、吟遊詩人はハープを奏ではじめました
その旋律は、静かに部屋の中へと響き渡り
揺らめく炎のように暖かく、男達の心を暖めるようでした。

虎神の森は、竜神の祝福を受け、蛇神が守りました。
また、鳥神の羽毛はその森を優しく包み込み
森は暖かい陽気で包まれています

生き残った神々と人々は互いに共存を望み
森を切り開き、それぞれ村を作りました

人の寿命は短く、神の寿命は長い

また、お互いの価値観というものも違いましたので
自然、一緒に住むということはなかったのです

彼らは森で平穏に暮らしていました
また、神は人の格好で村へと下り
しばしば祭りごとに加わり楽しむ光景も見られました。

しかし、時が経つに連れ、森はその様相を変えていきました
人は増えつづけ、村を大きくしていき

神はだんだんと、その数を減らしていったのです。

力なき神々は、自らの子供を作るすべをもたず
ただ滅びを待つのみでした。

ある日、美しい娘と、神の最後の息子が恋に落ちました
こういうことは大して珍しい事でもありませんでした

寿命が違うので、結局はお互い引き裂かれてしまう。
その事を何度か恋をして悟った神は
次第に人との恋から身を退いて行ったのです

しかし、この二人は違いました

なんと、娘は神の子を宿したのす。

今まで前例のないことであったので
彼らは言われるがままに
村から追い出されたのでした

深い深い森の中。
蛇神の導きか、彼らはほかに誰も知らない豊かな場所に家を構えました

そこには、ミルクの川が流れ
黄金のリンゴが木一杯につき
美しい花々が咲き乱れました。

彼女は一度に3人の子供を産みました
しかし、彼女はそれが元で亡くなってしまったのです。

愛していたのは妻だけ、若い神は妻を供養すると
子供を置いて飛び去ってしまいました。

蛇神は二人の顛末をじぃっと見ていました。

どこか懐かしい面影を残す3人の子供達

青い髪、勇猛で、どこか優しそうな瞳を持ち、口から覗く鋭い牙が印象的な長男
意志が強そうな金色の瞳を持ち、生まれながらに銀髪の次男
そして、美しい人間の娘の面影、燃えるように赤い髪、小さな羽根を持った長女

蛇神は子供達に森を守護する3柱の神々の姿を重ねました。

そして、ふと気づくのです。
あの夫婦の構えた土地こそ、その3柱の果てた場所だったのです

蛇神は涙が溢れていることにしばらく気づきませんでした
静かな慟哭は、静かに静かに、森へと響きました。






「終わりですかい?吟遊詩人様」

「3人の子供達、竜神、虎神、鳥神の生まれ変わりはどうなるんだ?」

ザワつく男達、吟遊詩人はそれが聞こえないかのように
ハープを奏でていました。

「私はこれから機織をする女たちへと歌を聞かせなければいけません
 続きはまた今度です、大丈夫、冬は長い。いくらでも話はできますよ」

吟遊詩人はハープを奏でる指を止め
ゆっくりと立ち上がりました
深く被ったフードがゆっくりと落ちると
中から長く赤い髪が零れました。

「では、明日の同じ時間に」



おしまい
 

       

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