「言っておくが、私は嘘が嫌いだ」
その一言と共に俺の玄関は賽の目のようなものに変えられ崩れ落ちた。
「あの、直虎ちゃん。そこまでしなくてもいいから」
「はぅ!申し訳ありません」
次郎坊の言葉に顔面を真っ赤にして恥ずかしそうに振る舞う直虎ちゃん。ライトノベルであればドジっ娘属性やら、よしよししてあげたくなるとか言う熱い言葉が飛んできそうだが被害者の俺としては、堪ったものではなく、これからの生活をどうすればいいのか、お袋にどんな風に説明すればいいのか考えただけで涙で目が真っ赤になりそうだ。
「しかし、これとそれとは別。狩畑殿、お命頂戴する」
やるしかないようだ。しかし相手は二人組。しかも殺るき満々だ。
「せ、せめて真剣じゃなくて木刀や竹刀で闘おうぜ。さすがに命は……」
ここで次郎坊とやらが直虎ちゃんの間に入って静止。
「直虎ちゃん。確かにあいつに痛い目を合わしてくれと言ったけど命までは奪わなくていいよ」
すると直虎ちゃん、なぜか目をうるうるさせて「次郎坊様、なんて心の広いお方……」なんて言ってやがる。だから"いざというときに彼氏ができない"んだよ。
…………なんだ今のは?やっぱり何かがおかしい。確かに俺は直虎ちゃんを知っていたはずだ。だがなぜか思い出せない。なんだろうかこのもどかしさは。ふと、職員室の隅っこ、宮本先生の机が俺の頭をよぎる。なぜだろうか、物凄く強烈な出来事で忘れられそうにない出来事があった気がする。確かあの日机の上には……
なにかが思い出せそう。そんなときに俺の目の前に、言葉通り目ん玉の付近に白銀に輝く刃を向けられる。
「もうひとつ教えてやろう。私は不真面目な奴が大っ嫌いだ」
「……わかった、なら場所を変えようぜ。ここだと色々面倒だ」
危ない2人組は1階に住むばあちゃんに俺の部屋の番号を聞いたこと、それのせいで素敵なことになった家の状況をお袋宛にラインで送り、満身創痍のひさし、絶賛お休み中のメルトと共に近所の公園に移動した。沿線付近にある公園で、一目につく恐れもあるが激しい運動をするスペースがあるのはここくらいだ。運が良いのか悪いのか公園内でたむろしている人間は居なかった。
「ひさし、一応お前もこれを持っておけ」
と渡したのはお古の竹刀。
「万が一の時はよろしく頼むぜ」
するとひさしはグッドラックポーズを俺に見せつけ息絶えた。一体なにが起きたんだ?気を取り直して対戦相手の直虎ちゃんに目を向ける。
「お前のような悪党にも妹がいたのだな」
「顔で判断するな、それとメルトは妹じゃない」
木刀を構える。さぁ、どこからでもかかってこい。気合いをいれるが、直虎ちゃんはすごい剣幕で俺をまくし立てる。
「貴様!やるきがあるのか!無礼者め」
「……おれの構えを見てそう思う君の方が失礼だぜ」
直虎ちゃんの後ろで突っ立っている次郎坊は「まさか下段の構えも使えるとは……」なんて言い出す。
「剣道では利点のないと言われる下段の構え。剣先を地面すれすれに下げることで面と胴を空けてしまうがそれがこの構えの狙い。空いた面を狙ってきたところを返し相手を斬るというスタンス故に防御の構えと呼ばれている」
「解説ありがとう。さすがに真剣相手には普通に闘いたくないからな」
「ならお望み通りこちらからいかせてもらおう」
直虎ちゃんは疾風のように間合いを詰め振りかぶり、そして……
「どうしたんだ?」
急に動きを止める直虎ちゃん。俺が一歩近づくと鏡のように直虎ちゃんが一歩さがる。
「くるな!叩き割るぞ!」
「ならやってみろよ」
挑発にのり、打ち降ろされる面を木刀の腹で払い胴を打とうとしたその時、直虎ちゃんは腕で右の横腹を庇う。腕をへし折る直前に木刀を止め直虎ちゃんを睨みつける。その先には焦りと恐怖の混じった顔をしている、おでこには大量の汗をかいた直虎ちゃんがいた。
「き、貴様何者だ?」
「それはこっちの台詞だ。おれの知ってる直虎ちゃんはもっと強かったはずだぜ」
そう、俺は知っている。おれはあのとき先生の××にあった××を見て、それがきっかけで……
「直虎ちゃん、しっかりするんだ!」
次郎坊の声に我に帰る直虎ちゃん。しかし戦う前の力強さはない。
「しっかりするのはあんただよ。くだらないことでこの娘を戦わせやがって」
「お、お前気づいたのか?」
「ああ、夏の個人戦以来だな。板野橋高校の佐々木君」
俺の推理が正しければこいつ、試合に負けた腹いせをぶつけにきてやがる!
カーリー"の"エンジェル
嘘はイヤイヤいつでも真剣!
「忘れもしないあの個人戦。まさか初戦の開幕5秒で俺の3年間の剣道人生に幕を降ろされるとはな」
「あんた3年生だったのか」
ショックを隠せなかった。こんなヘボい先輩もいるのかと。
「だが、それより許せなかったのはお前が二回戦を辞退したことだ。その理由を聞かせてもらおう」
「ああ、あのときはな……」
ここで思考が停止した。
「えーっと……なんだっけ?」
思い出せない。確か俺はあの時……
「じ、次郎坊様。話と違います!」
「やや、直虎ちゃん!それは違くて!」 「そうそう、こんな風に嘘が大嫌いで……」
パズルのピースが埋まっていく。そんな感覚だった。その時強い風が俺たちを襲った。直虎ちゃんの健康的でスラッとした素敵な生足。次郎坊の毛むくじゃらで霊長類的な汚い生足、そして砂ぼこりに襲われるひさし。
木枯らしと呼ばれる強風が止み一旦静寂に包まれる。そしてそれを打ち破る「んんーー!」という目覚めのエンジェルボイス。
「なぁ?」
なにが起きてるのかわからずきょとんとした顔。ぐぐぅ。という腹の虫が暴れる音。それだけならば場を和ませるエンジェルさまなのだが人の形ではない耳を見た次郎坊がぼそり。
「お前も、呼び出した口か……」
「へ?"お前も"呼び出した……」
今のが聞き間違いでなければ、直虎ちゃんも、メルトと同じように呼び出されたことになるが……
「直虎ちゃん!こいつの足止めをしてくれ!」
「……次郎坊様の命令ならば」
次郎坊がメルトに向かって走っていく。左手には俺と同様に木刀を持っている。なんとなくあいつのやろうとしていることがわかり、それを止めさようと思っても正面には中段の構えでたたずむ直虎ちゃん。
「直虎ちゃん!ちょっと痛いの我慢して貰うぜ」
次郎坊が直虎ちゃんを、俺を抜き後ろにいるメルトに手をかける前に俺は動いた。
それと同時に直虎ちゃんも動く。
「狩畑殿、申し訳ありませんがここで……」
言い終わる前に直虎ちゃんの手首、面に一発ずつ、素早く打ち込みそのまま体当たり、体勢を崩しがらがらになった胴におもいっきり一発を言葉にならない悲鳴をあげて地面に倒れる直虎ちゃん。次は次郎坊。だが、間に合わない。ひさしを踏みつけ今まさに木刀をメルトに打ちつける瞬間だった。
「があ!おー!」
身に危険を感じたメルトの渾身のファイヤーブレス。
「ゲホ……強……烈…………」
ばたりとその場に倒れる次郎坊。
「あ、危なかった……」
ほっとする間もない。直虎ちゃんが心配だ。骨が折れていなければ良いが……
そんな心配は不要だった。それよりも重要なことは今起きようとしている摩訶不思議な現象を受け止める強さが必要だということだった。
「次郎坊様……お役に……立てなく……て」
そんなことを言っている直虎ちゃんの姿形が薄くなっていく。そしてパッと一瞬光ったと思ったら、黒髪の侍女はそこに存在しなかった。
直虎ちゃんが消えたあとだ。彼女の情報、好きな食べ物が思い出されていく。そう、そう、確か彼女は宮本先生の机の上においてあったラノベのヒロインであり、初めて読んだラノベでもあった。でも、なぜ今になって?
黒こげになった次郎坊を、みてもう1つ思い出す。
「そうだ、そのラノベが気になって帰ったんだっけか」
黒こげになった次郎坊に合掌。
今日は色々ありすぎてもう何も考えたくなかった。腹の虫と連動して泣き叫ぶメルトを連れて家に帰った。
あ、ひさし忘れてた。
「あんた3年生だったのか」
ショックを隠せなかった。こんなヘボい先輩もいるのかと。
「だが、それより許せなかったのはお前が二回戦を辞退したことだ。その理由を聞かせてもらおう」
「ああ、あのときはな……」
ここで思考が停止した。
「えーっと……なんだっけ?」
思い出せない。確か俺はあの時……
「じ、次郎坊様。話と違います!」
「やや、直虎ちゃん!それは違くて!」 「そうそう、こんな風に嘘が大嫌いで……」
パズルのピースが埋まっていく。そんな感覚だった。その時強い風が俺たちを襲った。直虎ちゃんの健康的でスラッとした素敵な生足。次郎坊の毛むくじゃらで霊長類的な汚い生足、そして砂ぼこりに襲われるひさし。
木枯らしと呼ばれる強風が止み一旦静寂に包まれる。そしてそれを打ち破る「んんーー!」という目覚めのエンジェルボイス。
「なぁ?」
なにが起きてるのかわからずきょとんとした顔。ぐぐぅ。という腹の虫が暴れる音。それだけならば場を和ませるエンジェルさまなのだが人の形ではない耳を見た次郎坊がぼそり。
「お前も、呼び出した口か……」
「へ?"お前も"呼び出した……」
今のが聞き間違いでなければ、直虎ちゃんも、メルトと同じように呼び出されたことになるが……
「直虎ちゃん!こいつの足止めをしてくれ!」
「……次郎坊様の命令ならば」
次郎坊がメルトに向かって走っていく。左手には俺と同様に木刀を持っている。なんとなくあいつのやろうとしていることがわかり、それを止めさようと思っても正面には中段の構えでたたずむ直虎ちゃん。
「直虎ちゃん!ちょっと痛いの我慢して貰うぜ」
次郎坊が直虎ちゃんを、俺を抜き後ろにいるメルトに手をかける前に俺は動いた。
それと同時に直虎ちゃんも動く。
「狩畑殿、申し訳ありませんがここで……」
言い終わる前に直虎ちゃんの手首、面に一発ずつ、素早く打ち込みそのまま体当たり、体勢を崩しがらがらになった胴におもいっきり一発を言葉にならない悲鳴をあげて地面に倒れる直虎ちゃん。次は次郎坊。だが、間に合わない。ひさしを踏みつけ今まさに木刀をメルトに打ちつける瞬間だった。
「があ!おー!」
身に危険を感じたメルトの渾身のファイヤーブレス。
「ゲホ……強……烈…………」
ばたりとその場に倒れる次郎坊。
「あ、危なかった……」
ほっとする間もない。直虎ちゃんが心配だ。骨が折れていなければ良いが……
そんな心配は不要だった。それよりも重要なことは今起きようとしている摩訶不思議な現象を受け止める強さが必要だということだった。
「次郎坊様……お役に……立てなく……て」
そんなことを言っている直虎ちゃんの姿形が薄くなっていく。そしてパッと一瞬光ったと思ったら、黒髪の侍女はそこに存在しなかった。
直虎ちゃんが消えたあとだ。彼女の情報、好きな食べ物が思い出されていく。そう、そう、確か彼女は宮本先生の机の上においてあったラノベのヒロインであり、初めて読んだラノベでもあった。でも、なぜ今になって?
黒こげになった次郎坊を、みてもう1つ思い出す。
「そうだ、そのラノベが気になって帰ったんだっけか」
黒こげになった次郎坊に合掌。
今日は色々ありすぎてもう何も考えたくなかった。腹の虫と連動して泣き叫ぶメルトを連れて家に帰った。
あ、ひさし忘れてた。