Neetel Inside 文芸新都
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ウォーカー・エバンズのカラー写真
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 希臘(ギリシア)

多産な防犯ライトの産道は
 無痛で薄い影法師の子ら
 赤い境界線の猜疑の琴線を
 遠回りしようがしまいが
 通行人は容疑者
 「カチッ」
 神々しい照明弾の炸裂
さほど治安は変わらず、不安だけは増える
 儲かるのは不安と共感ばかり

 パチ屋の駐車場
 アスファルトに腹這いの犬達
 散り散りに佇む、ベロを垂らしたスフィンクス
 ほら来たまた来た
 赤いブーメランを乗せたツートンの巡回
 凪ぐおしゃべり
自転車に跨った男女の子ら
いつまでも止まぬ生ぬるい微風
高い壁に備え付けのバスケットリング
二次元の選手が決めるダンクシュート
屋上看板からぶら下がった小人
 じゃれ合う、頭身の詰まったゲームのキャラクターたち
 上に立つは弱者と機械
 己の調停者(カミ)は許されるより許せるデウス・エクス・マキーナ
マスコットの神様、我が心の旧友(とも)よ

 ガラスの目の前に放牧されたチヤリンコ、ミニワゴン、ボックスカー
 店内に立ち昇る硝煙(ションベン)の香り
 オネショの犯人はお湯を注いだカップ麺
真夜中のコンビニは真夏の直下
希臘の正午
透明に重なるよう彷徨(さまよ)う、白い幽霊(シーツ)
 天井に逆さに吊り下げられた、キュプロクスの頭部
 単眼の目は、見透かすリュンクスのレントゲンの目
 チクチク襟足を粟立てさせる視線
 消費者は被疑者
 誰かが何かを買わねば動けまい
 とにかく人の数より車の数

 朝っぱらから轟音
延期を伝える花火
 おって先送りを知らせる防災無線
繰り越し繰り越しで、いつの間にか忘れられたトトくじ
 雨を待つ農夫
 戦争を待つ妊婦
 補欠になるための欠員待ちか
 欠員になるための補欠待ち
 犯人ときたら車で先を行く。
今や安くなった外車でその後に着けるのは
大衆らしからぬ大衆
 さらにその後を着ける、失敗に怯える商人
 またさらにその後を追い駆ける自称、多恋人(アーティスト)
 それを羨む犯罪者か、その予備軍
 溢れんばかりの自己愛と、その可能性の模索のための抜本的自己改革
アクセルとブレーキを同時に踏みながら
スキ間に殺到するのを非難するも
 気が付けばブーメラン

 ガラス板の向こう側で、首をアッチコッチまわして止まってる自転車の頭部
 燦燦(さんさん)と降り注ぐ白光
漂白された茶パツの太陽
鏡張りの水増しされた空間
ヘタなポリッシャーは横滑り
床はナルシスの泉
胡坐(あぐら)をかいて、コンビニコミック読み耽り
前髪のかかった頬が、あご肘ついた手からずり落ちる
飽きずに繰り返す、女のアナウンス
そこら中、光の散弾
どこにも吸収されない跳弾
飲料水の列の前で、既読の履歴を消す



     


 ウォーカー・エバンズのカラー写真

 壁から出た蛇口 吹き付けの壁肌を斜めに切った影 北に面した磨りガラスの放射線
 コンクリートブロックの土台からズレた収納物置 ドイツ車と軽自動車で塞がった庭
 黄色く垂れ下がった蟹鋏(カニバサミ) 棕櫚(シュロ)の雄株の花盛り
 一面にばら撒かれた栴檀(センダン)の実

 シャッターの降りた仕舞屋(しもたや)
 二階から健康サプリメントの通販、韓流ドラマの音声 
 女が表情(かお)をつくってアップのタバコのポスター
 目を刺す自販機の光線

 「グワァーーーーー

 ゴイサギが梢(こずえ)から飛び立つ
 消防団の赤ランプ 火の見に吊るしたホース 
 黒く道を下っている水の跡 金網の連結部まで

 残土の山
 突き出たバンパーの破片
 均等に電線に集(たか)る、硬直したムクドリのストッパーの群れ
 ボイラーの点火音 真夜中の風呂

 昼

 デジカメに映える桜の花びら
 黒いビニールが靡(なび)く畑 回るLDの虹
 立ち枯れの薄(すすき)から空気を打って雀が飛び立つ

 白い土
 ひび割れた長靴の跡
 毎朝の白いセダン 一人高齢の農夫

 白 ナズナ、赤紫 ヒメオドリコソウ、青 ホトケノザ

 白 モンシロチョウ、黄色 モンキチョウ、オレンジ ベニシジミ、紫 ヤマトシジミ

 側溝の枯れたネズミムギ 千切れた肥料袋の口
 緋鯉だけの鯉のぼり
 カラーで撮った落ちてる軍手



       

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