★文芸・ニノベ作品感想2★
3月13日更新ニノベ作品感想その4
10周年企画、文芸・ニノベ作品感想も残すところあと二作品。
彼女のクオリア
壁の中の賭博者
二作とも完結作品です。
お祭りのしめ、心してかかる次第です。
「彼女のクオリア」 東京ニトロ 作
http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=16933
今回の感想企画で更新された作品中、三作品の完結作がありました。そのうち一作がこちらの作品です。ニノベで連載されていたSF作品の中で群を抜いて人気のある秀作ではないでしょうか。この作品は連載後しばらくしてから追って読んでいましたがその完成度にひたすら感服するばかりでした。こちらの作家さんは漫画も執筆されます。独特無二なその画風には多くの人の心を掴む吸引力があるのもまた事実。そんな作風を小説でもあますところなく見せてくれました。しかしなぜか執筆した作品を片っ端から登録削除していく動向には、「ちがーう」パリーンッ! を繰り返す陶芸大家の気配すら感じさせます。(ツイートのほうでは実際は悲しみに暮れているもようでした)小説と漫画、ともにニトロ先生の執筆の彼方に見えるものいったい何なのでしょう。それもまた作家自身の深い感覚の渦に芽生える現象の一つ。星の瞬きに似たものなのでしょうか……。
■各話ごとの感想
第1話 アイスクリーム・ケース
人口衛星ボイジャー1号の通信報道。
東京足立区に住む足立区立第四中学2年の少年四人(君津、幸田、森田、伊藤)によるたちの悪い悪戯から物語は始まる。
主人公・君津裕也は完全不良になりきれない青い分別を持つ少年。彼は友人・幸田の父が経営する小売店(コンビニかな?)の冷凍ケースに潜り込む。その後君津は奇妙な現象に襲われる。
冒頭出てくるNASAの通信報道。物語にどう絡まるのでしょう。ここでは特別目立った動きの無い衛星との関係に興味がわきます。少年たちの悪戯と全く脈が感じられない。それは彼らにとって全く繋がることのない出来事、はるか彼方の遠い宇宙の出来事。交わりそうにない距離感をまざまざと見せつけているように感じられました。
第2話 偏頭痛
ボイジャー1号の音信途絶える→不具合に(おそらく断定)。
君津を含む少年4人にはやはりまだボイジャーのことはまだ遠い存在でしかないように感じます。
足立区に住む少年たちの何気ない通学風景にはなかなかの味わいがあると感じました。この町の人々が抱える闇は深い……。朝の風景、ですよねこれw
君津たちのクラスに現われる女子転校生。君津の意識描写に引き込まれました。
第3話 M.R.I.
ボイジャーの動き、不具合や挙動が少し具体的になってきます。しかし君津たちには絡んでこない。
君津にとっていわくつきの女子転校生。彼女は何者なんでしょう。君津は記憶を遡る。甦るのは悲しくも切ない真実なんだろうか? 確かに正しい事実だったのだろうか? 謎です。
人の記憶とはいったいどこまでが真実なのか。それを考える発端がそこに書かれていました。
パラレルワールドみたいな匂いを感じる作品だ。そうなのか。…ん? そう思い始めたのがこの回でした。
第4話 スーパーノヴァ
銀河系内、宇宙観測史上稀にみる星の爆発がBBC科学報道で議題となる。
星の爆発と聞くと妙に嬉しくなる。宇宙の変化で分かり易い事例だから。見えるかなと思ってしまう。宇宙が妙に自分に近いように思える。ここでの科学報道(配信)で宇宙と地上が近くなった気がしました。つまり君津にも空が少し近づく感じがしました。
君津の友人・幸田の身に起きた事実。君津は自分の記憶に確かな喪失があることを自覚する。
学校の屋上で君津は転校生の彼女から謎かけのような台詞を投げられる。作家の文遊びが色を増してきます。
後藤先生出てきた。
第5話 スリットの向こう
世界各地で起こる地震の報道が気になります。天変地異でも起こるのでしょうか。
君津自身にも地震で目を覚まします。自分たちにどんな影響があるか定かではない。しかし妙な異変は感じる。君津の友人・森田はボイジャーが二つあることに嬉々としてそれらの衝突を待っています。
作中に登場する様々な宇宙。すべては一つに収束するのでしょうか。執着点はどこだろう。君津が始めたことって何だろう。
物語タイトルの「クオリア」について詳しく触れられている下りがあります。それらの内容も含めて興味深い。
ここで登場する外科医の先生は、職務外とか言いながら親切に君津に色々語ってくれます。好感度高い。良いお医者さんだ。でも職務外とかあんまり気にしなくていいのにね。
第6話 Everything Everything
二つのボイジャーの存在否定がNASAの公式発表としてあります。ほほう、これいかに?
君津は自分の世界の認識についての疑問を解くためにインターネットでの質問サイトを利用します。彼が出した質問に対する反応が面白い。これだから質問掲示板や質問サイトはwww
ここで出てきた「併存」という言葉。これに私はとても心地よい感覚を覚えました。この言葉が君津の認識している世界の本筋を強く物語っているように思えます。
ヤングの実験、この部分も面白かった。シュレディンガーの猫はあまりにも有名。ですがこういうのをためらいなく織り交ぜて面白く物語を作っていく素直さに好感を覚えました。君津の思考をこじ開け、それを追っているような気分にさせられます。
質問サイトで出会ったKeiという女性。彼女は君津にこれからの彼の指標になるようなことを話します。
君津はこの先の観測者になる可能性があるという事なのか……? うん。面白いこの物語。
第7話 臨界
世界各地で起こっている自然災害による爪痕が物語を終盤に引き込んでいきます。
君津は母親の勤め先(病院)に向かう途中死んだ友人・幸田の父親に出会う。
日本の男性はどうしてこうも「務める」「勤める」に弱いのでしょう。これはもう好きと勘違いされても仕方ない。だっておそらくそれは悲しい国民性なのだから。そこから離れてしまった私にはやや遠い信念にさえ感じてしまう。もっと楽に社会を作れないものなんでしょうかね。
君津が向かった先、母の働く病院は誰もいないもぬけの殻でした。
早く早くと急かされる。君津の背を押す気持ちが、彼緊張感が、突如彼の目線でプツリと断たれます。
第8話 生きてるものはないのか
ただのDQNかと思っていた君津の友人・伊藤が神経伝達物質とか単純な化学反応とかちょっと難しいこと口にしてくれていて少し安心しました。いくらゾンビでもね……。
彼女のクオリアに繋がったKei。分かってはいたけど事実を口にされると切なかったです。
第9話 彼女のクオリア
Keiと君津の間に流れる時間はとても短く儚い。でも美しく静かに書かれていました。会話の向こうの小さな環境音(火のはぜる音、倒壊家屋の瓦礫が転がる音とか)が聞こえてきそうです。
小5で終わった彼女に胸が痛めた。
第10話 ブランドフィナーレ
最終話の受け止め方、これは読んだ人により色んな形があっていいと思いました。この作品ではむしろそれがとても自然で、最後に来るまでの段階にその布石を見せていたと思います。
あの時自分の時間を繋いだ彼女。電車を止めた誰か。固い意思ができたぼく。地球から遠ざかって行くボイジャー。
ここで一番思う胸に浮かぶ人物はおそらく「あそこ」という曖昧なところにいる。
私が感じたのはそんな感覚でした。おそらくこれでいいのではないかと……
■現象は観測されて初めてその所在を得る。ならば君津という俺が見ている世界はなに?
各話ごとに記されている宇宙観測報道や自然災害報道が回をおうごとに少しずつ深みを増していきます。それは物語の登場人物の日常には全く遠い出来事。しかしこれらは宇宙で起こる現象の一つとして彼らの営みと並行して起こっている。彼らの身に起こること、世界で起こること、宇宙でおこること、それらの現象に大や小の差は特にない。完成された作品から見えてくるのは渦のようなもうでした。
核がありその周りに渦をまく小さな現象や大きな現象が次第に収束していく様を読まされているような気持ちになります。別に銀河系が書いてあるわけではないんですよ。不思議ですね。
物語の構成にも作家の確かな力量がうかがえます。大きな筋書きの中に、少しずつ最後までの情報を小出しにしていき、徐々に全体像を見せてくれている。読者を置いていかない独自のエスコートが心地よい。SF作品でありながら、いわゆるSF=小難しいみたいな匂いは感じられませんでした。とてもよくまとめられていたと思いました。
作中で用いられる文章表現もところどころ一風変わった書き方をされていました。具体例あげるとモブキャラ台詞「」なし。会話文「」なし。読点切り後の改行などでしょうか。個人的にとても心地よかったです。意外性を感じる読み手もおられるかと思います。心理描写ではなく意識描写のほうへ読む側の意識がスッと向かう感じがしました。感嘆です。
他、文章のリズム。ここぞという場面で短文が三連されている表現も気持ちよかったです。漫画でいえば枠線で1ページをシャープに3コマに割られている感覚にちかい。
以前顎男先生の作品「稲妻の嘘」で文末「た。」「だった。」「る。」だったけ? を美しいと絶賛していましたが、本作においても短文三連用はよい参考文になると思います。
面白かった。本当に。
完結、誠におめでとうございました! そしてお疲れ様でした!
また新作を執筆されるのでしたら楽しみにさせてもらいます。(しないって言ってたけど)
■作中特に印象深かった箇所
・頭痛が爆発する。ジェット機の音が聞こえなくなる。視界が白くなる。
前述した短文三連の表現です。リズムと息継ぎの感じが心地よい。感覚表現としても鮮明。
・俺は正月の伊達巻を思い出した。
共感するこの例え。MRIは馴染の仲ですw
・「わかるよ」森田が言った。「俺はお前が言いたいことわかるよ」
初回読了後はあまりピンとこなかったけど、読み返したらああと納得した。勝つという意味も。
・あなたの観測や認識があってはじめてそこに世界が生まれる。
宗教家っぽいけど納得はできる。その観測や認識も感覚(見る、聞く、触れるなどの感覚)なくしては測りえないものだとも思う。
・ブレーキパッドが車輪を擦る金属音。規則正しいインバーター音。
無機質な材料系の音が切ない情感を誘う。良い!
・「何億ものビー玉」
良い例え。
・オンラインの天国で不死を謳歌する方がより21世紀らしいでしょ?
情報として残るのであれば確かにそれは恒久のものとなる。けどそれはやはり死と同じではと思うのは私だけだろうか。謳歌するのであればいずれはそのオンラインの中ですら亡くなる前提があるほうがより楽しめる気がするのは私だけだろうか。輝くのではないだろうか。
・次元が違うから怒ったって仕方がない、そうだろう?
何を女子みたいなことを言っている伊藤。
・哲学的ゾンビ
この作品を通じて知ったとても面白い言葉です。(SFジャンル論で多用される専門知識は薄い現状)
もう一つ作中終盤にあった一文でとても印象的だった文がありましたがそれは伏せます。
以上この作品に関する感想はここまで。
今回の感想、「ズタボロにしてくだせえ」と作家さんからはお言葉頂戴しております。
ご本人忘れておられるかもしれない。虚言癖のそれかもしれないw とりあえず、印刷した紙は無事です。少々手で触りすぎてよれていますが無事です。書き込みメモが多くて本文が読み辛いけど無事です。そんな感じでお子さんは物理的には無事です。ズタボロにはなっていないと思います。
感想を読んで心ズタボロになるか…。その辺はどうでしょう。
私ごときの感想で心ズタボロになるかどうかは定かではありませんが、少々辛口感想も気にせず今後も執筆して下さるとありがたい。それはどの作家さんにも言えますが心折れず執筆への情熱は持っていて欲しいと思います。
更にこうも考えている。嫌な仕事で駄目だしされて更に嫌になって嫌な仕事を続ける→やめる。ではなく――、好きなことで辛口感想もらうも好きなことは好きで仕方がない→より一層続ける。おそらく作家はみな後者であると思います。そこを信じて今回、10周年企画最後のこの作品、個人的な研究もかねつつ少し痛いことも書上げてみようと思います。
今後の文芸・ニノベ作品感想2で以下のような感想を書くかどうかは……正直わからない。
ただ、今回の作品、顎男先生もざっくりと書いておられるので、あまり内容に色濃く触れることはしないでおきます。
その代わりと言ってはなんですが、感想と言いつつ少し異なる側面から作品を見て行こうと思います。
では感想(かな? これどっちかというと……何だろう)いきます。
「壁の中の賭博者」 顎男 作
http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=17513
壁というと何故か監獄を連想しました。獄中の賭博話なのかと思っていましたが実際は……。
■各話ごとの感想
おわび
作家さんは改訂について色々述べられています。
作品の改訂とはとかく骨が折れ作業です。しかしそれゆえに一旦書き終えた自分の作品へ恐れず改訂の手を加える行為にある種に尊敬を覚えます。それは顎男先生だけでなくどの作家さんにも。その結果作品により磨きがかかっていればなお良いでしょう。かといってすべての作品に改訂が必要かというそうではない。その辺は作家の納得度で判断すればいいでしょう。少なくともこのような投稿サイトにある作品はみんな義務から作られたものではないのですから。
本作では作家さん、心が折れたもようで序盤以降改訂を投げたみたいです。まあ、それもいいでしょうw
さらに話が雑という点についても述べられています。
はたしてこの作品で感じる雑というのは何でしょう。作家が感じている雑さを一読者の目として私が同じく雑と感じれば、おそらくそれは雑という事になるんでしょうけど。しかしさて、それは実際共通見解として見られるんでしょうか……。乞うご期待。
「おわび」を読んでいると作品について色々書いて良いものか悩みます。結構ラフに作られた印象がある本作。分析していきますよ、色々と。小説書く初心者のためにも。自分のためにも。
顎男先生くらいの連戦の猛者となりますと、私ごときの分析なんぞ易々はねつけてくれるでしょう。今回はそんな気持ちもこめて順序は違いますが「おわび」から感想書いてます。
01. 樹畑錬
感想というか分析。この一話目、個人的に凄く目についたことについて書きます。
商業ラノベではよく書き出しから何文字以内に女の子(または女の子とパンツ)を出せとか。推理小説では何文字以内に死体を転がすとかあるらしいのですが、どこまで本当か私はよく知りません。それが重要かもはっきりいって分かりません。ただ、それをふまえてこの作品の一話目を見ると面白いことがわかりました。それが以下。(行はコピー用紙印刷後の行数)
0行目タイトルで主人公の名前
〇なし
3行目で主人公の性別。
7行目で主人公の人物像。
11行目で主人公の年齢。
15行目で主人公が恋をしていること。
22行目で主人公の好きな女子の名前。(ヒロイン名)
25行目で主人公の恋の難易度。
26行目でヒロインの人物像。
44行目で本作のキーワード。
45行目で主人公がこれからやること(使命)。
一話目のたった45行の間にすっかり主人公、ヒロイン、物語のキーワード、物語の軸が書き尽くされています。しかも各一文非常に短い。一段落二行以上の箇所はわずか2~3カ所あったか否か。作家さん早々に主要な登場人物紹介は終えてしまった。どんな話になるかも書いてしまった。その仕事の早やさ、実に面白い。
〇一個目
主人公・樹畑錬の人物像を掘り下げる。
〇二個目
転機。ライバル登場。
〇三個目
一話目の結にあたる。キーワードについて。物語の軸について。
最後二行、次の話への興味を引かせる言葉の挿入。読者を引き込む。
一話の中に〇で区切りがあり、〇なしを含めれば4つの場面に分けられています。読んだ感じはとても静かです。最小限の描写に抑えられている気がしました。情報も控えめ。
内容に触れると、乳糖不耐症の半端な男がどんな勝負をしていくのか気になるところ。建物の裏で「やりたくない、です」とかいう描写がくるとどーしてもいけないこと妄想してしまったw
控えめに書かれている主人公の心理描写のせいか物語はとても静かに、静々淡々と進んでいるようで、独特の雰囲気と面白さを感じる。
02. 善悪選別ゲーム
麻雀用語が出てきます。でも少し違う印象でルールはもっと単純。ゲームの名前、ルール説明が投入されます。
注意すべきはここでしっかりルールをおうこと。ここで把握できないとこの先読み詰まるのではないかと一瞬思いました。実際おいてはいかれなかったけど。登場人物のゲーム中の何気ない小さなしぐさで使われる言葉、これ麻雀知らないとイメージわかないかもしれない。とかいらぬ懸念か。
紙にゲーム図を書きながら読み進めるとよく分かりました。ってやっぱあかんやん自分。カスドラ、シマウマ何だっけ? あれ?
03. <ダスト>
ダスト…埃? 違うな。
ゲームの名前。でも後で変わるんだっけ。
ここまで来ると樹畑が牛乳に弱い下痢野郎だという事を忘れています。それで彼が神妙になっているときにそれを思い出すとぷっと吹く。
秋都が見せたアクシデント。これはちょっとこの人物像からするとわざと陥れるための子芝居だったのかもと思ってしまった。だとしたらこいつ正確悪いな。そこまで思うのは考え過ぎか。
勝負の負けは本当に静かにやってきた。そして淡々と。控えめな情報で物語のテンポは走らず。歩いている。静かに。まるで詩を味わうように時間を刻む読み心地。
作家さん書き方の実験してるのかな。何だろうこの探ってるような気配のする文の書き方は。
えろま先生のトゥー・レイト・ショーが「動」ならこの作品は「静」だ。
04. 死者は還らず
ここでまた少し文章分解します。
上手い作家さんからは盗みましょう。盗んで活かせるかは別としてw
否定「ない」の活用法と文のリズムです。とても心地よい息継ぎが入る書き方をされていました。本作、主人公・錬はとにかく自分にはあれがないこれがないと後ろ向きで、またそこを開き直っている節がある。そんな彼の心情を表す箇所で上々の出来で書かれていた箇所があります。
楽しいことなんて一個もない。
僕には楽しいことなんて一つもない。
やりたいこともないし、出来ることもない。
容姿も地味だし、才能もない。
なんにもないのだ。
まるでないないないのポエムです。他にも似たようなところがありました。心地よかったです。
内容にふれると、この回を読んでいるとき、錬が勝てるのかとても疑わしかった。どちらかと言えばあまり明るい雰囲気ではない物語、今回も負けて精神的にどん底に落ち沈むのではないだろうかと思いたほど。それでも懲りずにまたゲームに参戦するみたいに。仮に勝ったとしても嬉しい形の勝利なんてこの作品には無いでしょうから。最後の引きの一文でそれは明確。
辞書引いた言葉
文脈で読めますが個人的に日常使うことが少ない言葉だったので調べました。
「胡乱」うろん / 「憤懣」ふんまん /「囃される」はやされる
05. 弐倉
気になったこと言葉使いについて触れます。
錬の心理描写で出てきた部分。これは作家が意図しているのか非常に微妙な部分。錬の嗜好を判断するに、彼は部活や勉強にさほど興味がないという設定です。ですからもしかしてこれは意図して作家さんが錬の設定に沿うよう書いたのかもしれない。とも考えました。しかしそれも一読で俄かに分かりにくい。その表現が以下。
「コンマ0.001秒」
普通にこれを表記する場合は
0コンマ001秒
コンマ001秒
でいいと思います。
そこをあえて上のように記したのにはこれは意図あってのことだったのでしょうか? その辺疑問です。もしあったとしたら、私はそこを読み取れていない読者です。この機会に読解力を深めようと思いました。
読んで足首捻ったような感覚だったので調べてみました。
表記としては以下の内どれかになるそうです。
0.001秒 / 0コンマ001秒 / コンマ001秒
この回内容に触れると、足掻きとはどんな時どんな人間でも見苦しいものですね。人間性が出るものですねそういう時って。この先物語が進んでただひたすら足掻くだけで消えて行く対戦者がばかりだと退屈になるだろうなと思いました。
布団をかぶっていたばかりかと思った錬がいじらしくノートでゲームを検証していたのは意外でした。それがあっての勝利だったのでしょうかね。
人間一人殺して一億円。なのに人が生きるのにはそれ以上の金が要る。死とはなんて安いものなんでしょうね。無情ですね。だからこそ生に価値はあるはずなのですが、自殺は相変わらず多いですね。ディストピア日本。
06. 黒夢
天国があるのか無いのか。仮にあったとしてそこはどれほどの場所? そこで幸せになれる? 本当にあるかどうかも分からないのに。胡散臭い壁の顔が言っているだけで「はいそうですか」と信じるわけがない。天国に行ったってそこで満足できなければそれは地獄と同じ。今となんら変わらない。
天国だろうが地獄だろうが現世の今だろうがそれは自分にとってただの環境でしかない。自分がその場に身を任せそこで生きる時の流れがある場所でしかない。そんなのはもう沢山。なくなりたいし消えたい。すべて自分が存在しうる場所から。
言いたいことはよく分かる。錬の心情が濃くなってくる回。彼は意外と自分の考えを論理的に頭の中で整理できている節がある。それだけの思慮があるならなぜ今までなんにもない、出来ないみたいな男子だったのか疑問が残る。錬は少なくとも自分の考え方については中途半端ではないことはとても明確。
次の対戦相手は容易に想像可能だった。
07. 凍理先輩
ここまで読んできて、やはり文章は最小限という印象。改行が多いのもあると思います。登場人物の表情、話し方、しぐさに至るまでそれらの情報は最小限な感がある。なのに人物像、人物の顔、声が聞こえてくるようで気持ち悪い。(褒めています)怖いです。(褒めています)不得手の人間としてはこんなに生々しい文章書けるのがむしろすごいと思いました。
ゲームも少し牌の数がふえて面白くなってます。数が増えたらからといって難しいという気はしませんでした。
プレイ中のむずむず感も読んでいて小気味よい。ただ、これだけゲームに集中し、ゲームを読む錬って弱いとはどうにも思えない。ちょっとそこらへんひっかかった。この人やっぱりもっと地味でアホな子でいいかも。
まあ、いいか。
08. 片端者
モヤッとした感じが残る。
やはり天国にはあんなにあるある言った天国にふれてこなかった。そこがいいところでもある。天国という心地よい響きに真っ向からケンカ売ってるのもこの作品の魅力ではあると思う。
錬のこの先は? という思考に行くにはいくけど、それも特に読んだ側も執着をもてない。錬自身に魅力がないからというのもあるが、魅力がない主人公を書くという点では成功していたと思いました。
作中で人気投票すればおそらく地獄行きになった人たちのほうが人気あるかと思います。
そういう私も会長はかなり気に入った。月野も作中に引き込む役目をよく果たして頑張っていたと思う。
■誤字脱字関連発見できたもの
おそらく作品が作品なだけに作家さん自身気が付いていると思います。でもってあんまり気にしておられない様子。故に沢山放置されていました。
今後のこんなふうに報告しますよ~の参考までに書き記しておきます。
01.
天井の木目が壁に見えるとか→天井の木目が顔に見えるとか(タイプ変換ミス)
05.
安全な牌はずだったのに……→安全な牌のはずだったのに……(脱字)
何もさせてもらない→何もさせてもらえない(脱字)
あなたが思っていくよりも→あなたが思っているよりも(タイプミス)
07.
言ってはおけない→言ってはいけない(タイプミス)
僕が振るかもすれない→僕が振るかもしれない(タイプミス)
08.
喝采を上げたかった→喝采を浴びたかった(使い方微妙)
アガリ逃がしをやったのあ→アガリ逃がしをやったのだ
あと、誤字とは別に改行がおかしなところが2~3カ所ありました。
文末句点「。」が文頭にあった(おそらく二カ所)。
ミザリルの「ミ」だけ文末で改行一マス目から「ザリル」と入る。
■天国ゲームは勝てば天国負ければ地獄。ダメ高校生主人公・樹畑錬は代打ちでゲームに挑むが…
作風としてはとても軽いタッチで書かれている顎シリーズ。それでいながら独特の趣、味わいのある一作。ラノベ然としたのっけから飛ばしてハイペースで読み手のテンションを上げていくのではなくとても静かな序盤の滑り出し。物語の雰囲気も暗めで始まります。じわじわ面白くなってくる作品。大きな見せ場でもさほどどっとくるような感情の起伏はなく読んでいました。ゲームで命の駆け引をする。そこまではよくある作風ですが、ここで面白いのは主人公が生きることにやや希薄。また他人とのつながりにも希薄。孤独を顧みないその姿勢に社会性の欠落を感じる人物と映ります。ですが心の中のどこかでは誰かに必要とされていたい。そんな気持ちも確かにある。
まあ、なんというか、この主人公を見ていると痒い節がありました。自分のこととも照らし合わせて反省する部分、過去の自分を思い返してぶん殴りたくなるような部分もありました。
多かれ少なかれ、誰でもこの物語で書かれている格好悪さ、汚さやろくでなしさを持っているのではないでしょうか。そういうのをサクッと作家さんは書いてくれていたような気がします。同族を見るようである意味安心できる作品でした。
物語の後半になってくると主人公の内面にぐっと入り込んでくる展開もありました。個人的には主人公はもっとダメな奴かと思っていましたが意外とまっすぐな所もあるんだなと思わされました。そこは良いところ。
■作中特に印象深かった箇所
・どうして世界は牛乳ばかり僕に出すのだろう。
乳糖不耐症ですね。共感。
・ひとりぼっちのほうが、月野はきれいだ。
女子の集団は苦手です。共感。
・背後で息を呑む月野の首を絞めたい。
はりせんくらいならパシン!して良いと思った。
・奴らは面倒なのだ。そんなものを判定するのが。
奴らが給料分働いてくれりゃこの世界の人はもっと幸せに違いないです
以上この作品に関する感想はここまで。
ようやくこれで10周年企画文芸・ニノベ作品(22作品)読み、感想書き終わりました。
いや~、かかりましたね。まるっぽ一か月かかりましたね。
更新ごとに追っていない長編作品、完結作品においてはやはり時間かかりました。
文芸と漫画問わず日頃の読書量の多さ、読みの早さを誇る後藤先生にはすっかり感想追いつかれてしまいました。さすがの貫録に感服するばかりです。文芸・ニノベの更新分を読むだけでもひーひー言いながら読んでいましたので……。漫画を読むところまで到達しません。ちったあ読みたいです。
今回の10周年企画分の反省点を少し上げれば、完結作および長編連載作の読みが浅かったかな?と思います。
その辺いかがでしたでしょう。かなり駆け足で読んで感想を書きましたので至らない点が多くあったかと存じます。コッテリ感想を期待する作家さんには少々物足りなかったかと。故に必然的に深く掘り下げることをせず、優しい感想になった部分もあるので至らなさを自覚します。
それをまえ、今後はもう少し濃く書ければなあと思います。
今後あがってくる完結作品についてはもう少しコッテリとした感想が書けるといいですが、果たしてどうなることやら。
なにはともあれ、今回10周年企画に作品あわせてくださった作家のみなさん、どうもありがとうございました。
今後もしばらくお付き合いのほどよろしくお願いします。
後藤先生、お疲れ様でした!(拍手)
今後本格的にスタートする★文芸・ニノベ作品感想2★ですが…
様子を見ながら無理なく更新進めます。
更新雑誌の振り分けは以下。
ニノベ→文芸→ニノベ→文芸 (交互です。)
サイコロはしばらく使わず、感想を更新できるペースを見ながら交互に感想を書いていきます。
今回企画で一月22作品更新にかかったので、単純に考えても一月20~25作品できればいいところ。
というわけで次回、更新作品に新作も続々多く出てきてますので~~~
4月18日に更新されたニノベ作品の感想書きます。
締切り刻限は日本時間の深夜12時00分までお待ちします。作家の皆様よろしくお願いします。
全作感想書き終えage更新できた時点で文芸の日程をお知らせします。
補足
作家さんの作品&その感想がどこにあるかわかるまとめページをそのうち作ります。
どこぞのカワイ子ちゃんから要望がありました。
コメント返信
そのうちやります。
宣伝
文芸で「冗長短編作品企画」「簡潔短編作品企画」はじめています。
文芸作家、ニノベ作家に限らず作家のどなた様もふるって腕試しにご参加ください。
新人作家さんは練習もかねて挑戦してみてください。
よろしくお願いします。詳しくは概要まで。
それでは!