小学生の頃はゲーム屋さんになりたかった。中学生の頃はミュージシャンになりたかった。高校生の頃もミュージシャンになりたくて、音楽専門学校への進学を考えていた。
ところがいつの間にか僕は、プログラマという職業に就いていた。高校中退の二十五歳、職歴無しの僕が、である。
とは言え、正社員ではなくアルバイトとしての契約だ。それにしたって高校2年から不登校児になり始め、高校3年でとうとう卒業のための出席日数が足りなくなり、留年してもう1年、それも年下のクラスメイトに囲まれてやり直す度胸もなかった僕にとって。それ以来自分のやりたいことばかりをやりながら歳だけを食ってしまった僕にとっては、時給千二百円のアルバイトに採用されただけでも大躍進であった。
面接を受けたその日に採用が決まり帰宅するなり、普段は愛想なく接している両親に対してもつい笑顔で報告してしまった。やっぱりあなたはやれば出来る子だったのね、という駄目な子を持つ親にとっての決まり文句のような母の言葉にさえ、少し涙腺が緩んでしまったものだった。
父は普段からあまり多くを語らない人だったが、晩酌がいつもの発泡酒ではなく特別な日にだけ呑む瓶入りの生ビールだったことから、父も上機嫌であることは十分すぎるほど理解出来た。
そう、その日幸福に包まれた僕の家には、誰もいなかった。世の中のプログラマが自分の仕事にどのような喜びを感じ、どれほどの苦悩を抱えているかを知る人間なんて、誰もいなかったんだ。