Neetel Inside ニートノベル
表紙

短編集「sfの穴」
#6ぶたれたい

見開き   最大化      


     

 堀井ゆずきちゃんはよくボクをぶつ子だった。保育園では好きなオモチャを先に遊んでいたボクをぶった。別の日にはかけっこで負けたはらいせにぶち、また別の日には保母さんに怒られたのをボクのせいにしてぶった。

 でもボク自身はぶたれる事はそこまで嫌じゃない。
 むしろ、ぶたれるたびに、何かこう、ボク達は仲良しだなぁって感じがして気分がいいぐらいだ。初めのうちは痛いし嫌だったけど、ボクはぶたれ慣れる事によってぶたれる事に充実感を覚えるように進化したのだ。

 だけど、ゆずきちゃんは小学校に上がるとボクをぶたなくなった。いっちょまえに女づいたのか、それともいくらぶたれてもずっとヘラヘラしてるボクに飽き飽きしたのか、とにかくゆずきちゃんはボクをぶたなくなった。

 その頃にはもう、ボクは時々ぶたれない事にはどうも満足しないようになっていた。ボクはゆずきちゃんにどうすればぶたれるかを画策しだした。

 どうやったらぶたれるだろうか…?

 夏休みが明けて間もない日の中休み。
 ボクは何気ない感じでゆずきちゃんに尋ねた。
「ゆずきちゃんは夏休みにちゃんと毎日ラジオ体操いった?」
「うん、行ったよ」
 ここまでは想定内。だいたいボクとゆずきちゃんは同じ地区に住んでるし、夏休みのラジオ体操に毎日参加してたゆずきちゃんをボクは知ってる。でもボクはそんな事は知らないフリをする。
「ウソだー。ボクは毎日行ってたけど、たまにゆずきちゃん、いない日あったよー」
「そんな事ないから!毎日ちゃんと言ってたしスタンプだって……ホラ!」
 ゆずきちゃんは自分の机から、すべての欄にスタンプが押されたカードを出し、ボクに見せた。それでもボクは譲らない。
「う~ん…どうも怪しいなぁ…全部押してあるのが逆にウソっぽいし……じゃあさ、ゆずきちゃん、毎日行ってたなら最初から最後までちゃんとできる?ラジオ体操…?」
「出来るよ!最初は…こうでしょ?…で……こう……」
 一心不乱に腕を上げたり下げたり、屈伸をするゆずきちゃんの間合いにボクの頭を突っ込んだ。

「こうやって……きゃ!!?」

 ゴチンッ!

「いてッ!」
「もう!危ないじゃない!!それより、見てた?私が間違いなく最後まで出来たさまを?」

「みてたみてた…いてて…」

 これだよ、これ!保育園の時から正直、やみつきになったこの痛み!!頭がジンジンするけどボクは何ともいえない満足感を味わった。

 さて次はどうやってぶたれよう……。


 また別の日。

 学校に早く着いたボクは廊下で上履きを足から飛ばして今日の天気を占う。
「あ!クツとばし!」
 ゆずきちゃんはボクを見つけて指した。

「そうだよ。でもさっきから10回続けて裏。こりゃ雨だね」
 ゆずきちゃんは信じない。
「ウソだー。だって今日はこんなに晴れてるし、天気予報だって…」
「ウソだと思うなら、ゆずきちゃんもやってみればいいじゃん」
「よーし」

 こういうノセられやすい所は保育園の頃のままだ。

「1……2の……」

 振りかぶるゆずきちゃんの足の前にすかさず僕は頭を寄せる。

「3……ッ!!…わッ!!!?」

ガツンッ!!

 もくろみ的中!ゆずきちゃんの足はボクの顔をおもいっきり蹴り上げボクの前歯を折った。前歯はまだ乳歯だったから問題はない。

「だ…だいじょうぶ?血…血が出てるよッ!!」
「だ…だいじょうぶだよ…これぐらい…それよりゆずきちゃんは平気?」
「うん…」

 当たり所が良くなかった(良かった?)らしく、かつて経験した事のない痛みで僕もビックリしたけど、そのぶん今までで一番気持ちが良かった気がする。痛いのに気持ちいいっていうのも変だけど……。


 『怪我の功名』とはよくいったもので、ボクはこの時ある発見をした。どうもゆずきちゃんは今までボクをぶつ時は実は、手加減をしていたらしい。ぶとうと思ってぶつ時と比べてぶつ気が無い時の方がはるかに痛いのだ。

 この発見を元にボクはさらに大規模な作戦を企てた。

 ボクはゆずきちゃん以外の友達4人を集めて学校の2階のベランダから飛び降りて地面に着地する名付けて『ハイジャンプ・マウンテン』という遊びを考案した。ハイジャンプはともかくマウンテンには深い意味はないので言及は避ける。

 男子達は面白がってこの遊びにボク達以外も参加したけど、女子にはそこまでの勇気があるものはいないらしく、女子は参加したがらない。
 ボクはゆずきちゃんに言う。
「ゆずきちゃんなら2階からでも飛べるんじゃないの?」
「え~私は嫌だよ~そういうのは……」
 だと思ったけどボクはこういう事には慣れている。
「じゃあさボクがゆずきちゃんの前に飛んで見せるから、そしたら飛んで?」
「え~…でも…」
「だって女子で2階から飛んだ人いないよ?飛んだら伝説だよ?」
「あ~…まぁねぇ……」
「じゃあ決まり!まずボク飛ぶからゆずきちゃん見ててね!」

 ボクはゆずきちゃんを連れてベランダ行く。ボクは何度も飛んでるから別段飛ぶことに対する恐れとかはないけど、ゆずきちゃんは少しドキドキしているようだった。

「じゃあ飛ぶよー」

 とうっ!
 
 どずんッ!

 無事着地。

「ホラー!大丈夫だよー!ゆずきちゃーん!ゆずきちゃんも飛んでみなよー!!」
「うん……」

 ゆずきちゃんは恐る恐るベランダの手すりを乗り越えて飛び降りる準備をする。地上からはゆずきちゃんのスカートの中が丸見えだったがボクの目的はそこじゃない。

「飛ぶよー……1……2の……3ッ!!」

 ゆずきちゃんは飛び降りた。

 スカートをひらめかせながら落下するゆずきちゃんの落下点目指してボクは走った。

 突然のボクの動きにぎょっとしたゆずきちゃんだったけど、空中ではどうしようもなくそのままボクの上に落下した。





 ボクの頭をゆずきちゃんの足が踏み抜き、ボクの頭蓋骨は陥没した。






       

表紙

菊池一太郎 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha