音すら立たなかった。
いや、音を立てる隙さえ無かったと言うべきか。
建造物や生物が瓦礫や灰に姿を変える隙さえも、その3秒間の光は許さなかった。
円筒形の電球に明かりが灯るように、街の面積全体を極太の真っ赤な光が覆った。
極太の光の直径は、街の横の長さと同じ。光の長さは、街の縦の長さと同じ。
その3秒間の直前、そこは「いつもの街」だった。
その3秒間の後は、そこは「かつて街だった場所」となった。
そして、つるんとしてしまった「かつて街だった場所」一帯は、どこも平等に、雲のかかった夜の闇に包まれた。
たった今、一つの街の全体が同時に消滅したのを知っている者は、
「…………」
黙って今使った大砲のような道具を倒しながらおもむろに立ち、水色に白いラインの入ったスポーティーなデザインのリュックに入れた。
「――いいんだよ」
リュックをよたよたと背負いながら、誰に言うでもなく、自分に言い聞かせるように。
「公務だろ?」
俯いて、黒のスーツケースを転がしながら、少年は一人ブツブツ呟く。
「――公務、だからな……」
踵を返して、体についた土をパラパラと払いながら、闇の中を歩き出す。
そして急に、
「いいじゃん!これが俺の仕事だ!!次の街でひとっ風呂入ってジュース飲んでカレー食って給料でプラモ買うんだよ俺は!!!」
顔を上げ、大声でテンションを上げようと努力する。
「てやんでいこの野郎!!!!ぶちぐるせぃってんだクソ野郎ぉこんちくしょおおおおおおおおおおおお!!!!!」
拳骨を握り、闇に向かってジャブジャブワンツー。闇には何の手ごたえも無いのに。
「だあ!でやああああああ!!」
無駄だと分かっているのに。どうしようもないのに。
少年は前方へ飛び上がり、着地地点で前転し、靴紐を解き白いスニーカーを手に持ちすっくと立つなり、
「たぁあああああああああああああぁあああああああああああ!!!!!!」
大きく振りかぶり放り投げた。少年のスニーカーは、何にも当たらずに闇の中をくるくると飛び、やがて失速して地面にポトリと落ちた。
少年はこの極太の真っ赤な光を、「うまい棒(めんたい味)」と呼んでいる。
中心に穴は開いていないが。