Neetel Inside ニートノベル
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ボックス・イン・ボックス
■3『怖いモンは怖い』

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  ■3『怖いモンは怖い』

 俺がボックス保持者になって、箱ヶ月学園に入学してから、初めての休日である。巻島螺旋とやらを倒し、今後白金がどういうやつを送ってくるのか、という基準もなんとなくわかった。
 そうなってくると、俺は他にも準備しなくっちゃならない。
 前回の戦いで、いろいろはっきりしたが、俺はどうも、自分の能力だけに頼ってちゃいけないらしい。なぜか、というと、巻島戦で俺の能力が役に立ったかというと、それもまた相当微妙である。つまり、能力プラス武器がいる。
 俺は貯金箱から幾らかの金を引き出し、私服に着替えて家を出た。
 そう、武器を買うために。
 友達を誘おうか、とも思ったのだが、俺の買い物を知ってドン引きしないとも思えず、結局は一人。そういえば、茶介の連絡先聞いてねえな。今度聞こっと。

 俺は、学園へ行く為のバス停で、バスを待っていると、背後から、「あれ?」なんて聞き覚えのある声がして、振り向く。
 そこには、灰色のパーカーとその下に水色のTシャツ、ヒヨコ色のミニスカートを穿いた、亀島さんが立っていた。
「あんれ? 亀島さんじゃん。どったの?」
「葛城さんこそ……。私は、休日なので買い物に、と思って」
「買い物か。何買うの?」
「え、っと……」何故か顔を赤くして、視線を逸らす亀島さん。「その、下着を……」
「ふぅん。亀島さん、ブラジャーするの?」
「しっ、失礼です! 不潔です! 葛城さん本当に女性恐怖症なんですか!? 触りますよ!」
「ごめんなさい! 普通に気になっただけです!」
 亀島さんはロリ体型だから、からかいやすく怖さもないので、ちょっと俺も言いすぎてしまうのだ。触られるともちろん嫌だが。
「まったくもう。……それで、葛城さんは何を買いに行くんですか?」
「あぁ、ちょっと武器の材料を調達に行こうと思って」
「武器の材料の、調達ですか? ――武器、作るんですか?」
「あぁ。もうテロするくらいのつもりで、即効白金討ち取ろうかと思ってさ。このままアイツを待ってても、後手に回って不利になるだけだし」
「だ、大丈夫なんですか……? 正直、私にも勝ててないのに、白金さんにぶつかるのは……」
「か、亀島さんとは相性の問題だから……」
 苦しい理由だが、多少は、多少は関係すると思うので見逃してほしい。
「まあ、とにかく、負けない為にも武器を手に入れるんだってば」
「武器、ですか……。面白そうだし、ついていってもいいですか?」
「別にいいけど、そんな面白いもんじゃないと思うよ?」
 いいんですよ、と笑う亀島さん。
 ブラジャー買うのはいいのかな? と思ったが、まあ付き合ってくれるというのなら、俺が突っ込むことじゃない。セクハラとか言われんのも嫌だしね。

  ■

 バスに乗って、俺と亀島さんが向かったのは、近くの駅に隣接されたショッピングモールだ。俺の用も、亀島さんの用事も、ここですべてが済むだろう。
「……ここで武器の材料が手に入るんですか?」
「まぁーね」
 ショッピングモールに入り、俺が向かったのは、ホームセンターだった。亀島さんは、びっくりするくらい俺の目論見がわかっていないらしく、「どこに武器が……?」と周囲をキョロキョロ見回していた。
「えっとー、鉄パイプにーガスボンベ、園芸用硝酸カリ……」
 お目当ての物をどんどんカゴに放り込んでいく。
 とりあえず、こんだけありゃあ足りんだろ、くらいにたっぷりと確保して、レジに通す。
 めちゃくちゃお高い買い物だが、俺の生き残りをかけた武器になるのだ。金を惜しんではならん。
「……これで何を作るんです?」
「爆弾」
 目を見開いて、一歩俺から離れる亀島さん。体が銃になる女が爆弾ごときで引くなよ、と思わんでもないが、別問題なんだろう。
「……葛城さん、爆弾好きですね」
「その発言は語弊があるよ亀島さん」
「でも、登校初日に、理科室でスタングレネード作ってましたよね……」
「お手軽に作れる爆弾が悪いんだよ」
 そう言いながら、俺は買った物をアブソリュートで作った箱に突っ込み、背中に浮かべる。……こういう所はすっげえ便利だな……。ボックス相手にゃすぐぶっ壊れるくせに、日常生活だとけっこう役立つ。
「そんじゃ、俺帰るね、亀島さん。付き合ってくれてありがと」
 じゃっ、と手を挙げて、駅に向かおうとするが、背後から亀島さんに「ええっ、ちょっと待ってくださいよ!?」と呼び止められた。
「なにか?」
「いや、何かって……。よく帰れますね葛城さん」
「……え、だって俺の用事終わったし」
「友達と一緒に出かけてるんだし、もうちょっと楽しもうみたいな気概はないんですか……?」
「でも、ブラジャー買いに行くんでしょ? 俺に装備するブラジャー見られるのはいいの? っていうか、下着売り場とか行ったら俺死ぬしかなくなるけど」
 花粉症が杉の木ばかり生えている森に行くようなもんで、俺が行ったら蕁麻疹でまた気絶しちゃうぞ。
「ブラジャー装備って……。そんな、防具みたいに言わないでくださいよ。っていうか、今日はもう行きません」
「……そうなの?」
 緊急性を要してないのかな?
 別にいいんだけどさ。
「んまぁ、それならいいけど」そこまでして俺と一緒に出かけたいのかなぁ?「亀島さんって俺の事好きなの?」
「……友達としては好きですが、恋愛感情は別にないですよ?」
「そか」
 出会ってまだ数日、ここで「え、実は……」みたいなリアクションされたら正直引く。なので、ちょっと安心した。
「っていうか、男友達とこのパターンで偶然会ったら、葛城さん帰れます?」
「……まあ、無理かなぁ」
「でしょ? いや、流れで無理に遊びに行くこともないんですけどね」
「別に、そういう事なら断る理由もないし、いいけど。……腹減ったし、どっかでご飯食べよう」
 亀島さんの了承もいただき、俺は近くにあるフードコートを選択した。安いし、食べる物も多く選べる。
 俺はラーメン、亀島さんはでかいハンバーガーを互いに買って、適当な席を陣取った。休日だからか、家族連れとかカップルとか、お金がない俺らみたいな高校生が周囲で楽しく食事をしているので、それに乗っかって、俺達も食事を取る。
 フードコートのラーメンって、どこで食べても似たような味がして、安心するよなぁー。
「……ズズー」
 スープを飲んでから、麺を啜る。目の前で亀島さんが、ハンバーガーをはみ出すケチャップに気をつけながらかぶりついていた。
「ここのハンバーガーも美味しい……。ファストフード店とはバンズが違いますねえ」
「亀島さんって、ジャンクフード好き?」
「ええ、大体の店には行ってますね。各メニューに点数をつけて、組み合わせも試して、一番美味しい食べ方を探求しましたよ」
「へぇー……」
 すげえ、マニアじゃん亀島さん。
「ちなみに、私のおすすめは近所にある『コーネリア』っていうハンバーガーショップの、チーズバーガーとコーラですね。チーズとバンズが違うんですよ。コーラも甘さ控えめで――まあコーラなのに甘さ控えめってどうなんだ、と思わないでもないですけど――チーズバーガーに合うので、おすすめです」
 すげえこだわりだな……。俺はそこまでこだわって飯を食った事がないので、ある意味羨ましい。
 しかし、亀島さん、そんなに食べてるのに、全然太ってないっつうか……。
「……」
「なんですか? そんなにジッと見て」
「いや、なんでも……」
 言ったら怒るだろうから言わないけど、発育してねえなぁ……。
「まあ、別にいいですけど……。それよりも、葛城さん」
「んー?」俺はラーメンを食べる。つるつるの麺だ。コシとかはないが、こういう食えればいい、みたいな味はクセになる。
「白金さん、どういう能力かは知らないけど、警戒するのは白金さんだけじゃなく、彼女の配下もだし……。葛城さんに、勝つ要素は一切無いんじゃないですかね……?」
「それは俺だってわかってるさ」
「……もしかして、私に強力しろ、とか?」
「それはさすがに悪いし、言わないよ。……俺がやるのは、暗殺って感じだから」
「あ、暗殺、ですか?」
 頷き、チャーシューを口に放り込む俺。
「白金は、俺が自分から来るとは思ってないみたいだし、奇襲をかける。人数と実力で勝ってる相手は、余裕っていう油断が生まれる。だからこそ、フットワークも重たい。勝ってるところで勝負するのが、勝負事の鉄則だ」
 本来ならもっと情報を仕入れてから戦いを挑みたかったが――。
 先延ばしにすると、こっちも情報を晒すハメになるし、勝率が下がる。できれば白金に会いたくない、とか言ってる場合じゃないんだ。後手に回ったら間違いなく負けるし、な。
「勝負は明日だ。武器を作ったら仕掛ける」
 俺の平和な学園生活の為、悪いが白金には犠牲になってもらう。
「お、女の子相手に爆弾、ですか……。ちょっと、男気に欠ける気が……?」
「悪いけど、俺は男より女が強いと思ってるし? とくに白金なんて俺にとっちゃ化け物だからね」
「はぁ……」
 なんか、亀島さんまた引いてない?
 俺こんなに亀島さんドン引きさせて、友達としてやっていけてるんだろうか?

       

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