四人になって最初の活動は、森林公園でのバーベキューだった。カレンが実家から折りたたみ式のコンロを、マリアがスーパーで買った炭を、ジャックが肉を、アーシャが野菜を持ってきた。奮発して肉を買いすぎたジャックのせいで、ほとんど休みなく焼く羽目になった。四人は淡々と食べ続けた。
アーシャは故郷グラニスクの話をした。かの国は蒸気機関の発達した大国で、住民はいつもウォッカばかり飲んでいるというイメージをマリアは持っていた。しかしそれは間違いで、ビールやワインも多量に飲まれているという。
なんでまた「悪徳(ヴァイス)」なんてあだ名を名乗ってるの? とカレンが聞くと、「君だって『カラミティ(災厄)』でないの」と相手は言った。「世界中の半分が焼けるの? 君が歩くたびに」
肉を始末し、玉ねぎをひたすら焼くころになって真面目な話が始まった。バンドの今後についてだった。アーシャはドラムを、エイトビートを叩き続けるくらいはできると断言した。カレンは意外にも、課題曲は完全に弾けるようになったと言う。ジャックは「普通です」と言葉を濁した。どうやら予想以上にいけそうだ、と確信したマリアは安心して玉ねぎを食べ続けた。
明くる日、大学へ行って食堂でまずくて安いドリアを食べていると、エリザベス・マスターズと名乗る赤毛の少女が、この前のライブ見たよ、と話しかけてきた。もちろんまだライブなどしたことはないので、このやり取り、飲み会でのジョセフィンを連想したが、どうやら勘違いしているようだ。否定するのも角が立つのでマリアは話を合わせた。
「それでどうだった?」
「初期に比べるとだいぶうまくなったんじゃないの」
「ああ、みんなそう言ってくれるよ」この辺りでもう茶番だな、という気がしたので、あからさまに興味なさそうなふうを演出したが、エリザベスは意に介さなかった。こいつ知っててわざとやってるんじゃないのか? とマリアは思い始めていた。
「ドラムの子まだ十六歳でしょう。それにしてはうまいしあの羊、羊的な雰囲気がいいよね」
「そういうものの見方もできるかな」
「で? もちろん新曲に手をつける段階に来ているのでしょう。もはや時間の問題……」
「そういう見方もね、あると思うけど」
「ああ。わたしがファン第一号だってことは忘れないでよね」
「もちろん忘れないよ、エリザベス」
「それじゃ。楽しい午後のひと時を」
そして少し離れたところで彼女は、別の男子生徒に対して同じように「この前のライブ見たよ」と話しかけ、「お前など知らない」とあしらわれ、その後他の女子生徒に話しかけ、警備員を呼ばれ、食堂からつまみ出された。