必殺☆賭博
第二話 演者 キルト
「これでボクは裏切れない」
カードプールの上でカードを手放したキルト。私はその行為を前に首を
かしげる。
この戦いで手札を捨てるというのは武器を捨てるも同義。丸腰の相手に
臆する私ではない。
「それで抵抗はできないから、話を聞いてくれってこと? まあ、あんたが
そこまでするとは意外だったけど。でも、それじゃあ、引き分けの状態な
んて作り出せないんじゃないの? ――私の協力がない限り」
私は最後の一文を頭の中でつぶやく。
誠意を見せた相手に対しこのセリフを言ってしまえるのは悪人だ。私は
状況次第で相手を裏切ろうと考えるような人間ではあるが敗者に鞭うつほ
どひねくれてはいない。当然話しぐらいは聞いてもいい。だが、私が負け
る可能性が1%でも上がる策であるというのなら私は彼を見捨ててしまうだ
ろう。
見つめる私に対し、キルトは口を開く。
「これでこの回に限り僕の勝ちはなくなります。あとはレンゲさん次第。
あなたが僕同様、すべてのカードを捨てたのならばこの回は引き分け、再
戦が決定します。レンゲさん、この一度だけでいい。どうか僕を信じて」
キルトはそこで言葉を切る。彼の目、潤んでいるようであるがだからと
言ってそれが真実を湛えているかと言えば私にはわからない。
ならば私がとるべき選択は一つ。
私はカードに手をかける。
「レンゲさん」
キルトの目。私はそれを避け、逃げるかのごとく乱暴にカードを場に伏
せる。
もうこれで後戻りはできない……私が彼を殺すのだ。
「……レンゲさん」
「ごめんなさい。でも、私にはできなかった。約束された勝利を捨てて無
理と分かっている道を行くなんて……私は悪人だわ」
「そんな、レンゲさんは悪くありませんよ」
キルトの声、口汚くののしられたって文句の言えないことをした、それ
なのに。キルトの優しい口調。私は顔を上げる。
「『騙された方が悪い』。僕はそんなことは言いませんよ」
キルトの顔。私は目を見開く。
そこにあったのはあるはずのないもの。ゆがんだキルトの笑顔と、捨て
られたはずのカードが……
「だって、僕たちにとってあなたたちは観客だ。あなたたちは何も考える
ことなくただ僕の見せる幻想の世界に驚いていればいい」
「キルト……何を言って? なんであなたの手にカードが?」
困惑する私をしり目にキルトは手札の中から一枚、カードを場に出す。
『被験者のカードが出そろいました。数字を表示します』
宇宙人の声に続き、ヴーンという機械音。それはモニターからのもの
であった。
そこに映し出されたもの、それは。
カードプールの上でカードを手放したキルト。私はその行為を前に首を
かしげる。
この戦いで手札を捨てるというのは武器を捨てるも同義。丸腰の相手に
臆する私ではない。
「それで抵抗はできないから、話を聞いてくれってこと? まあ、あんたが
そこまでするとは意外だったけど。でも、それじゃあ、引き分けの状態な
んて作り出せないんじゃないの? ――私の協力がない限り」
私は最後の一文を頭の中でつぶやく。
誠意を見せた相手に対しこのセリフを言ってしまえるのは悪人だ。私は
状況次第で相手を裏切ろうと考えるような人間ではあるが敗者に鞭うつほ
どひねくれてはいない。当然話しぐらいは聞いてもいい。だが、私が負け
る可能性が1%でも上がる策であるというのなら私は彼を見捨ててしまうだ
ろう。
見つめる私に対し、キルトは口を開く。
「これでこの回に限り僕の勝ちはなくなります。あとはレンゲさん次第。
あなたが僕同様、すべてのカードを捨てたのならばこの回は引き分け、再
戦が決定します。レンゲさん、この一度だけでいい。どうか僕を信じて」
キルトはそこで言葉を切る。彼の目、潤んでいるようであるがだからと
言ってそれが真実を湛えているかと言えば私にはわからない。
ならば私がとるべき選択は一つ。
私はカードに手をかける。
「レンゲさん」
キルトの目。私はそれを避け、逃げるかのごとく乱暴にカードを場に伏
せる。
もうこれで後戻りはできない……私が彼を殺すのだ。
「……レンゲさん」
「ごめんなさい。でも、私にはできなかった。約束された勝利を捨てて無
理と分かっている道を行くなんて……私は悪人だわ」
「そんな、レンゲさんは悪くありませんよ」
キルトの声、口汚くののしられたって文句の言えないことをした、それ
なのに。キルトの優しい口調。私は顔を上げる。
「『騙された方が悪い』。僕はそんなことは言いませんよ」
キルトの顔。私は目を見開く。
そこにあったのはあるはずのないもの。ゆがんだキルトの笑顔と、捨て
られたはずのカードが……
「だって、僕たちにとってあなたたちは観客だ。あなたたちは何も考える
ことなくただ僕の見せる幻想の世界に驚いていればいい」
「キルト……何を言って? なんであなたの手にカードが?」
困惑する私をしり目にキルトは手札の中から一枚、カードを場に出す。
『被験者のカードが出そろいました。数字を表示します』
宇宙人の声に続き、ヴーンという機械音。それはモニターからのもの
であった。
そこに映し出されたもの、それは。
勝者――キルト。
ディスプレイに表示されたのはキルトの名前。私は目の前が真っ暗にな
る感覚に飲まれながらなんとか意識を保ちキルトをにらむ。
「これはどういうこと?」
「やだなあ、レンゲさん。ちょっとしたマジックじゃないですか」
「そういうことじゃないでしょ!! 私がいいたのはどういうつもりかてこと
よ」
声が荒ぶる。冷静とは程遠い今の感情。私はキルトに今までたまった怒
りや困惑、恐怖などたまった感情をぶつけにかかる。
それに対するキルトは含み笑いに私の言葉を受け止める。
「レンゲさん、あなたが言ったんですよ。生きれる可能性があるのなら必
死にしがみつく。そして、その可能性がボクの場合、手品だということ。
改めて自己紹介しておきましょうか。ボクは大道芸で生計を立てるパフォ
ーマーのキルト。演目はマジック。つまりはマジシャンです」
さもパフォーマンスの成功を祝すかのごとく深々とお辞儀するキルト。
わかっていたことじゃないか。相手だって真剣なんだ。それに私だって
彼を見捨てる選択をした。積極的に騙しに来た彼とは確かに私は立場が違
う。でも、私だって彼のような技術があったのならそうしただろう。悪い
のは騙された私。もっと注意を払うべきだったのだ。
私はキルトの行動を思い返す。
まず、二人が助かる道を示すことで私の動揺を誘うとともに手札を捨て
る理由を作る。そしてその後実際にカードを捨てて見せる。とはいえ私が
確認できたのはキルトがカードプールの上でカードを手放す瞬間だけ。お
そらくだがキルトは事前にひもやゴムで細工をしていたのだろう。そして
カードを手放した後素早く回収。袖の下にでも隠したのだ。捨てられたのは
おそらく1枚、2を出すためのコスト、3のカードだけ。
あとは私が騙されカードをすべて捨てるか、誘いを断りカードを出すのを
待つだけ。そして仮に誘いを断ったところで私の出すカードを不確定では
あるが制限できるのだ。
何せ、1以外のカードを出すにはカードを捨てるという行為を余計に行
わなければならない。
何か出せば勝てる、つまり1のカードでも勝てる場面で2以上のカードを
出す。これは相手を己が手で突き落す行為。
いくら覚悟して出したところで、不可抗力として出す1と自分の意志で
殺しに行く2では重みが違う。そこに来て相手が武装解除し歩み寄ってき
たら。私がそうであったようにそれ以上相手を疑い思考を止めずにいるこ
とは難しい。
そして、さらに言えばここまでの彼の行動、ルールに違反するものは何
もないのだ。捨てる真似をすることも、相手をだます行為も、すべては禁
止されてはいない。
私は負けたのだ。キルトに、完全に。
『それでは第2ゲームに移行します』
宇宙人の声が天井から響く……そうだ、まだ終わっちゃいない。気を落
とすにはまだ早いのだ。
私は前を向く。
「怒って悪かったわね。あなただって懸命にやっただけなのに。でも、こ
こからはもう何があったって油断しない。月並みな言葉だけど言わしても
らうわ――勝負はここからよ」
「謝らなくて結構ですよ。先ほども言いましたが僕は騙された方が悪いな
どとは言いませんから。ですが、そうですねえ。僕達の世界にはこういう
言葉があります。――『騙した方が偉い』
これはあなたに贈るショーなのです。フィナーレはもちろん僕の勝利。
ステージに咲く真っ赤な花はきっとあなたにとって生涯忘れられないもの
となることでしょう。最後のマジックショー。存分に踊らされて行ってく
ださい」
場のカードが回収されていく。さっきまで漂っていた暗い空気は取り払
われ、こうして私たちにとっての本当の戦いが幕を開けたのだった。
――――――――――
代理戦争 第1ゲーム終了
戦績
キルト 1 ― 0 レンゲ
手札
キルト 1,4,5,6,7,8,9
レンゲ 2,3,4,5,6,7,8,9
残り 4ゲーム
ディスプレイに表示されたのはキルトの名前。私は目の前が真っ暗にな
る感覚に飲まれながらなんとか意識を保ちキルトをにらむ。
「これはどういうこと?」
「やだなあ、レンゲさん。ちょっとしたマジックじゃないですか」
「そういうことじゃないでしょ!! 私がいいたのはどういうつもりかてこと
よ」
声が荒ぶる。冷静とは程遠い今の感情。私はキルトに今までたまった怒
りや困惑、恐怖などたまった感情をぶつけにかかる。
それに対するキルトは含み笑いに私の言葉を受け止める。
「レンゲさん、あなたが言ったんですよ。生きれる可能性があるのなら必
死にしがみつく。そして、その可能性がボクの場合、手品だということ。
改めて自己紹介しておきましょうか。ボクは大道芸で生計を立てるパフォ
ーマーのキルト。演目はマジック。つまりはマジシャンです」
さもパフォーマンスの成功を祝すかのごとく深々とお辞儀するキルト。
わかっていたことじゃないか。相手だって真剣なんだ。それに私だって
彼を見捨てる選択をした。積極的に騙しに来た彼とは確かに私は立場が違
う。でも、私だって彼のような技術があったのならそうしただろう。悪い
のは騙された私。もっと注意を払うべきだったのだ。
私はキルトの行動を思い返す。
まず、二人が助かる道を示すことで私の動揺を誘うとともに手札を捨て
る理由を作る。そしてその後実際にカードを捨てて見せる。とはいえ私が
確認できたのはキルトがカードプールの上でカードを手放す瞬間だけ。お
そらくだがキルトは事前にひもやゴムで細工をしていたのだろう。そして
カードを手放した後素早く回収。袖の下にでも隠したのだ。捨てられたのは
おそらく1枚、2を出すためのコスト、3のカードだけ。
あとは私が騙されカードをすべて捨てるか、誘いを断りカードを出すのを
待つだけ。そして仮に誘いを断ったところで私の出すカードを不確定では
あるが制限できるのだ。
何せ、1以外のカードを出すにはカードを捨てるという行為を余計に行
わなければならない。
何か出せば勝てる、つまり1のカードでも勝てる場面で2以上のカードを
出す。これは相手を己が手で突き落す行為。
いくら覚悟して出したところで、不可抗力として出す1と自分の意志で
殺しに行く2では重みが違う。そこに来て相手が武装解除し歩み寄ってき
たら。私がそうであったようにそれ以上相手を疑い思考を止めずにいるこ
とは難しい。
そして、さらに言えばここまでの彼の行動、ルールに違反するものは何
もないのだ。捨てる真似をすることも、相手をだます行為も、すべては禁
止されてはいない。
私は負けたのだ。キルトに、完全に。
『それでは第2ゲームに移行します』
宇宙人の声が天井から響く……そうだ、まだ終わっちゃいない。気を落
とすにはまだ早いのだ。
私は前を向く。
「怒って悪かったわね。あなただって懸命にやっただけなのに。でも、こ
こからはもう何があったって油断しない。月並みな言葉だけど言わしても
らうわ――勝負はここからよ」
「謝らなくて結構ですよ。先ほども言いましたが僕は騙された方が悪いな
どとは言いませんから。ですが、そうですねえ。僕達の世界にはこういう
言葉があります。――『騙した方が偉い』
これはあなたに贈るショーなのです。フィナーレはもちろん僕の勝利。
ステージに咲く真っ赤な花はきっとあなたにとって生涯忘れられないもの
となることでしょう。最後のマジックショー。存分に踊らされて行ってく
ださい」
場のカードが回収されていく。さっきまで漂っていた暗い空気は取り払
われ、こうして私たちにとっての本当の戦いが幕を開けたのだった。
――――――――――
代理戦争 第1ゲーム終了
戦績
キルト 1 ― 0 レンゲ
手札
キルト 1,4,5,6,7,8,9
レンゲ 2,3,4,5,6,7,8,9
残り 4ゲーム