Neetel Inside 文芸新都
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ミシュガルド戦記
37話 メゼツとハレリア

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37話 メゼツとハレリア








 ───どう見ても信用に値する人間ではない。
 いや、人間ですら…オークか少なくともハーフオークあたりではないかという醜悪な容貌。見た目だけならまだしも、表情に性根の卑しさが滲み出ていて、どういう人生を送ればこんなどす黒く禍々しい雰囲気をまとえるのだろうか。そう勘繰りたくなってしまう。
 SHWの商人ボルトリックとは、そのような印象をメゼツとロメオに与えるのだった。
「げっげっげっ」
 にやにやと嫌らしい笑みを浮かべ、ボルトリックは口を開く。歯垢で黄色く変色して並びの悪い歯の隙間からは、鼻がもげそうになるほどの汚臭がたちこめている。
「隠密任務らしいが随分と派手な騒ぎを起こしやがる。世間知らずの小僧っこどもが」
「何を言う。下賤の商人ごときが」
 皮肉っぽく笑うボルトリックに対し、ロメオがむっとした表情で返す。
「恐れ多いぞ。この方をどなたと心得る。甲皇国の大貴族・丙家公、かのホロヴィズ将軍閣下のご令息メゼツ公子であらせられるぞ」
 普段なら、トラブルをなるべく避けようと考えるロメオとしては、このような身分を持ち出しての上からの物言いはしない。
 ただ、このボルトリックはボルニアへの案内人として雇った商人である。
 メゼツがやんごとない身分であると知ってなお不遜な態度を取ることは許せなかった。
「ふん」
 が、ボルトリックは鼻で笑う。
「貴族ってのは甲皇国もアルフヘイムも変わらねぇな。どいつもこいつも鼻持ちならねぇ連中ばかりだ。てめぇらの命はこのボルトリックさまが握っているってぇのに、つまらん虚勢を張って投げ捨てようってのかい?」
「何を──!」
「よせ、軍曹」
 いきり立つロメオに対し、メゼツは意外にも冷静だった。
「大声を出すと外の連中に聞こえる」
 そう。メゼツとロメオは甲皇国第三軍の連中に追い回されていたのだった。
 身元を明かせば隠密作戦が台無しになる恐れもあるし、ならずものの第三軍相手に余計な詮索を受け、つけ入る隙を与えかねない。
 かといって身元を明かさなければ怪しい者達として拉致され、どのような目に遭わされるか分かったものではない。亜人食いやら人身売買など、ありとあらゆる悪徳を躊躇しないやつらのことだ。文字通り“取って食われる”恐れすらある。
 要するに、第三軍には捕まる訳にはいかない。
 だが、このままでは逃げ切れないし、ということはこのままボルトリックに匿ってもらう必要がある。
「そうそう。てめぇらは金玉を握られてるんだ。このボルトリックさまに」
 下品な物言いをするボルトリックに、ロメオはいっそう顔をしかめる。
 亜人でもないのに、亜人でも特に下品という黒兎人のような言い回しは、メゼツの教育上にもよろしくないだろう。
「──確かにSHWの商人を案内人として手配したが、こんなやつがよこされるとは……」
 金次第で甲皇国にもアルフヘイムにも与する拝金主義の中立国たるSHWの傭兵ギルドへ手配をかけたのはロメオである。
 ボルニアへ潜入するにはどうしてもSHWの商人の力を借りる必要があった。
 堅牢を誇るボルニアでも長期の籠城戦で外部からの補給を必要としている。豊かなアルフヘイムのことだから食料は豊富にあるが、武器弾薬が足らず、SHWの商人らがその補給を担っていた。
 ボルトリックはボルニアに出入りすることを許された数少ないSHWの商人であり、同様にボルニアへの出入りを許された他のSHWの商人らは義理堅くてアルフヘイムを裏切ることはなかったが、この男だけは金さえ払えば取引に応じてきた。
 裏を返せば、簡単にボルニアでの雇い主を裏切るような男だ。品性下劣なのは当然だったのかもしれない。
 ただ、今はこのボルトリックの手引きが必要であり、彼がいなければボルニアへの侵入は困難を極めるのは明らかだった。
「まぁ、仲良くしようや。公子さま。色々とよぉ……」
 そういって握手を求めるボルトリックの手を、メゼツは汚らしそうに眉を歪めつつも握り返す。
 悪寒が走る。ボルトリックの視線がメゼツの露出された乳首に釘付けだった。先程の第三軍のハゲワシらと似たような、男色家特有のネットリした視線……。
(うっぷ……)
 吐き気が再びこみあげてくる。
 メゼツはもう色々と限界だった。
「げっげっげっ……げーーー!?」
 ボルトリックが悲鳴をあげる。
 彼の右手は、メゼツの怪力によりすっかり破壊されていた。
 ぎゃああああ!というボルトリックの悲鳴を聞きつけ、第三軍の兵士たちがボルトリックの隠れ家に駆けつけるまでは本当にあっという間だった。
 観念したメゼツとロメオは武器を手に抵抗しようとするも、第三軍の兵士たちは含み笑いを漏らしつつもすぐには襲い掛かってこない。
 時を置かずして、その場に第三軍兵士らの指揮官ハゲワシ中尉が現れる。
「くっくっく。災難ですなーボルトリックの旦那」
「おお痛ぇ痛ぇ…! まったくとんでもねぇ腕白公子さまだよ」
 ハゲワシとボルトリックの親し気な様子に、ロメオはすべてを悟った。
 こいつら、ぐるだったのだ。
 つまり最初から、ウォルトとガロンが酒場で飲んでいたところをハゲワシたちが絡んできたところから仕組まれていたのだ。
 このボルトリックの隠れ家にメゼツたちが逃げ込んだのも偶然ではない。複雑な街路での逃走劇もまさに劇でしかなかった。ハゲワシたちはいつでもメゼツたちを捕まえることができたが、敢えてここに誘導されていたのだ。でなければボルトリックが悲鳴をあげたとはいえ、こんなにも迅速に踏み込んでこなかっただろう。
 なぜこんな回りくどいことをしたのか?
 恐らく、ボルトリックへの借りを作り、ボルニアへの手引き以上に報酬を多く搾り取るためにされた茶番だったのだろう。
 丙家公の御曹司ということで、もっと出せると見られたか…。
「先程は失礼したな。メゼツ公子」
 ハゲワシは深々と頭を下げ、帽子を脱ぐ。つるりとした禿頭が現れた。
「我々は第三軍指揮下ではあるが、今はボルトリックどのに雇われてここにいる。ボルニアへの道中、我々がボルトリックどのとあなたがたを護衛する」
「そういうことかよ。畜生……」
 状況を飲み込めたメゼツは、やり場のない怒りを歯を噛みしめるだけで押し込んだ。
「げっげっげっ。まぁそういうことだ。驚かせて悪かったな! みんな仲良く行こうぜ?」
 余裕を取り戻したボルトリックが笑っている。
 右手を破壊されていたが、例の喋る杖を振り回すとあっという間にその傷を癒してしまっていた。喋る杖に回復魔法が込められているようだ。ただでさえゴキブリ並にしぶとそうな男なのに、こんなことまでできるというのか。
「もうネタバレしたのかよ」
 声を発したのはハゲワシの部下ベルトランドだった。その右腕にはウォルトが、左腕にはガロンが。それぞれ首から腕を回されて馴れ馴れしく連れまわされていた。ウォルトとガロンは酒場から逃げ出したものの、ベルトランドが率いる第三軍兵士たちによって取り押さえられたのだった。
「そういうことだ小僧ども。俺たちがついていってやるから安心だろぉ?」
 ベルトランドは舐め腐った態度で、メゼツ小隊の面々をすっかり子供扱いしていた。
 ウォルトもガロンもそれなりには経験を積んだ兵士のはずだが、やはりまだ若い。ハゲワシの部下たちの方が何枚も上手の熟練兵ぞろいなのだ。
「くそっ……離せ!」
 ウォルトが抵抗しているが、ぎりぎりとベルトランドに首を強く締められ、黙らせられていた。
 やがて、ウォルトやガロンとは別方向に逃げ出していたヨハンも、ハゲワシの部下ドイールによって捕縛されて連れてこられる。
 メゼツ小隊では最も体格も良くて戦闘力が高いと思われるヨハン兵長までが……。
 さすがに、メゼツ小隊の面々は意気消沈してしまう。
(───なんてやつらだ)
 狡猾という言葉だけでは済まされない。
 ボルトリック、そして彼に雇われた第三軍兵士はいずれも油断のならないつわもの揃いだったのだ。
 メゼツは己たちの無力ぶりをいっそう感じさせられていた。






「……そうねぇ。亜人はアクセサリーだわ。コレクションする以外には買ったり売ったりするだけの商品ね」
「いいや、亜人は素材だ。より強い武器防具を作るためのな」
「ああん!? 亜人は食い物だろ。焼いて煮て蒸して揚げれば、たいていは美味しく頂けるってもんだ!」
 第三軍ハゲワシ中隊の面々、ポルポローロ、ドイール、ベルトランドらが、亜人とは何かについて議論をしている。
 いずれも亜人を人間扱いはしない傲岸不遜な物言いだ。
 メゼツ小隊はハゲワシ中隊と共にボルニアへ向けて行軍していた。
 この物騒だが頼りになるハゲワシ中隊と共にいれば、確かに安全にボルニアへ到着できるであろう。
「けけけ、そうよ。この前食ったリザードマンの皮を剥いだ肉の串焼きは中々だったぜ? ささみみてぇでサッパリした味わいでよぉ」
「トカゲなんて良く食うな」
「俺はやっぱりオークの叉焼の方が好きだな。脂がのってて旨いぜ」
 ただ、このような陰惨な会話を常に聞かされながらではあったが。
「何てやつらだ……」
 顔を青ざめさせ、ウォルトはぺっと唾を吐く。
 メゼツ小隊の面々は、やはり良心的な兵士ばかりだった。
 甲皇国の国家方針はアルフヘイムの征服と植民地化だ。亜人を絶滅させようとまで言っているのは過激で好戦的な丙家ぐらいのもの。人間至上主義というのも植民地化や戦争を仕掛ける大義名分に過ぎない。甲皇軍でも第三軍と第四軍で大きく方針が違うように、ウォルトもまた戦争は悲しいもので早く終わらせなければというふうに考えている。結局のところ、この戦争は自国の利益のために……アルフヘイムの征服も環境汚染と貧困に喘ぐ甲皇国の民を救うために、やむにやまれずのことだ。この悪行に重ねて、戦地での残虐行為など甲皇国民の評判を貶めてしまう唾棄すべき行為となる。もし「どうして戦い続けるのだ?」とアルフヘイムの罪なき子供に問われれば、後ろめたくて口ごもってしまうだろう。
 だが、戦地で悪徳に呑まれた第三軍兵士たちは違う。人間至上主義・亜人絶滅といった大義名分をこれ幸いと、自分たちの欲望を満たす方便としている。第三軍の兵士たちは、メゼツ小隊の面々にも面白がって残虐行為の話を振るが、真面目な兵士がそろっていたメゼツ小隊の面々は一向に話に乗ることはなかった。となると、第三軍の兵士たちからも馴れ馴れしい笑顔は消え、つまらねぇやつらだと馬鹿にした表情になる。なんだ、皇軍兵士のくせに亜人を犯す度胸もねぇのか? 臆病な連中だ。そんなことでいざ戦闘で動けるってのか? などと罵りの言葉も飛び出る。彼らは衝突こそしないまでも、険悪な空気のまま歩みを続けた。
「……」
 そのような道中、メゼツはただ黙々と歩いた。
 血色が悪いのか表情は青ざめ、健康的な小麦色だった肌の色も心なしか白い。
 ロメオが心配して気をかけているが生返事をするばかり。
 歩きながら、メゼツは自分自身の思索の海に深く沈みこんでいた。
 この戦いの意味とは……?
 自分は何のためにアルフヘイムに来たのか、今一度思い返していた。
 アリューザの町では様々なことがあったが、己の力不足を痛感させられることばかりだった。黒騎士との戦いでは、甲皇国人に復讐を果たそうとする彼の気迫に呑まれてしまったし…。行動を共にしているハゲワシ中隊に対しても、力が無いばかりに彼らの暴虐ぶりを正すこともできない…。
 そう、力が無くては、何も成し遂げることはできないのだ。
 本国で帰りを待つ妹を救うためにも……。
 俺は強くあらねばならない。
 そう、メゼツは決意を新たにしていた。
 メゼツの胸に刻まれた魔紋が仄かに輝きを帯びている…。
 数日後。彼らはボルニア到着前の最後の補給基地へと辿り着く。







「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
 森の中をたった一人でひた走る、まだ十歳かそこらの幼い人間の少女がいた。
 清潔で品のある衣服に整えられた銀髪。育ちの良さを感じさせる少女だが、今は衣服に土埃がついて木の小枝が引っかかるのも構わず、額に汗して夢中で走っていた。
 周囲には、ボルニアを包囲する甲皇国軍の駐屯地が無数にあるというのに…。
(───親がいるからって偉そうにしやがって!)
 少女の耳に、心無い子供が言った言葉が突き刺さる。
 少女──ハレリアが、父親の仕事の都合でボルニアに来たのは数日前のことだった。
 父親はSHWの古語学者で、アルフヘイム政府の依頼により、ここボルニアにあるという古い魔術書の解読にあたっていた。
 父親の仕事中、暇な彼女はボルニアの孤児院の子供たちと遊んでいたが、そこで孤児たちから虐められていたハーフエルフの少女と親しくなる。酷く虐められて怯えていた彼女を、ハレリアの父は養女として迎え入れようと提案していた。ハレリアも小さな妹ができるのだと嬉しく思い、自分がお姉さんになって妹を守るんだと有頂天になっていた。
 ところが、である。
 人間至上主義を掲げる甲皇国に対し、アルフヘイムもエルフ至上主義といった部分がある。アルフヘイムは甲皇国よりも雑多な種族の連合国家であり、エルフだけではなく人間、獣人、様々な混血の雑種が数多く存在している。エルフはそのアルフヘイムを主導する先進種族という矜持もあり、他種族へ対する優越感が目に付くところがある。ただ、普段は甲皇国の人間至上主義ほど激しいものではなかったのだが…。人間国家である甲皇国との戦時中ということもあり、アルフヘイムのエルフ至上主義は密かに先鋭化されているのだ。
 その中で、人間とエルフのハーフという存在は、人間とエルフとどちらかも疎んじられる存在となっていた。
(わたしが、もっとしっかり見ていれば……リエカ……!)
 そのハーフエルフの少女リエカを庇護した気になっていたハレリアだが、少し目を離した隙に厄介なことになっていた。
(───甲皇国の駐屯地に行けってからかっただけだよ!)
 辺りが暗くなっていて視界が悪く、木の根っこに足を引っかけ、ハレリアは地面に突っ伏した。顔が汚れ、膝がすりむける。だが彼女の膝はまだ若くてしなやかで丈夫であり、すぐに立ち上がれる。
「……リエカ!」
 妹を思い、ハレリアは再び走り出した。
 例え藪の中を走り抜け、小枝に引っかけて柔らかい肌に細かい傷がついても、もうそんな痛みも感じないほど、彼女は必死だった。
 実の親をなくしたリエカはとても不安がっていて、彼女を養女として迎え入れようとしているハレリアの父に絶対に捨てられたくはないと思っている。そうした気持ちに付け込まれたらしい。ハレリアの父から借りた書物を他のエルフの子供たちに奪われ、甲皇国の駐屯地にある旗を取ってこないと返してやらないと脅されたようなのだ。リエカを虐めた子供たちもまた、ハーフエルフのくせに養父を得ようとしているリエカを妬ましく思っていたのだ。そうした子供たちの複雑な感情を、両親が健在で恵まれた家庭に育ったハレリアには想像することができなかった。
(───何という思い上がりだ。彼女は、リエカは今どうしているのだろう。甲皇国の兵士がうろついているような危険地帯で、酷い目に遭っていないだろうか)
 ハレリアの小さな胸は心配のあまり張り裂けそうだった。
(早く…はやく見つけないと…)
 ガサッ。
 森の木々を掻き分ける音。
「リエカ?」
 不安そうな目を泳がせ、ハレリアがそちらを見ると……。
「うん? なんだぁ?」
「へぇ…こいつぁ。うまそうな人間のガキだ」
 現れたのは小さなリエカとは似ても似つかない。凶悪な面構えをしたオークとリザードマンの兵士だった。口からギラギラと白く輝く牙を覗かせ、本当にハレリアのような子供など一飲みにしてしまいかねない。
「う…あ…うわぁぁああ!」
 悲鳴をあげ、その場からハレリアは一目散に逃げだした。
「ハハハ、逃げたぞ」
「駐屯地夜襲前の腹ごしらえだな」
 やつらが追いかけて来る。
(──怖い! 誰か…)
「だれか…!」
 暗くなって足場の悪い森の中を急いで走ったためか、またもハレリアは木の根っこに足を引っかけて地面に突っ伏した。
「痛っ…!」
 顔に泥がつき、整えられた髪も振り乱れ、綺麗だった服も泥でぐちゃぐちゃだ。肌だって細かい傷が痛々しい。今の自分はどんなに無様な姿をしているのだろうか。涙と鼻水できっと見られたものじゃないだろう。
 しかし、立ち止まる訳にはいかない。
「面白っ! まだ逃げるぞ?」
「おいおい必死だな~」
 やつらがすぐ背後に迫っていた。やはり子供の足では…。やつらは別に急いで走ってきた訳ではないのに、あっという間に追いつかれていた。いくら走っても無駄なのか…。ハレリアは絶望し、恐怖に震え、もう足が竦んで走れそうになかった。
「う…あ…」
 もはや、竦んで動かない足を引きずりながら、手を使って後ずさりをして、か細い声を喉奥から絞り出すのが精いっぱいである。
 やつらが間合いを詰めてくる。
「じゃあ折角頑張ったし、ひと思いにやってやるか!」
「マジかよ…ちょっと遊びたかったんだけど」
 やつらが相談している。
「仕方ねぇだろう。夜襲前にそんな遊んでる余裕はねぇからな」
「それもそうか」
 やつらの持つ槍の穂先が自分に向けられていた。
(あれで体を貫かれたら…いっぱい血が出て…きっと物凄く痛いんだろうなぁ…苦しみながら死んでしまうのだろうか。ああ、リエカはきっと、いつもこんな思いを…)
 逃げ場がないところで暴力に晒されるのが、こんなにも心細く恐ろしいものだなんて。孤児院で虐められていたリエカのことを思い、ハレリアは涙する。
 その涙を見て、やつらがゲラゲラと爆笑していた。やつらにとって、敵対種族である人間が無様な姿を晒すことほど楽しいことはないのだ。
「恨むなら」
「弱っちい人間に生まれた自分を恨みな」
(───と、とと様…!)
 父に救いを求め、頭を抱えてうずくまるハレリア。
「へぇ」
 救いは──。
「じゃあ、化物のテメェ等は、生まれて来た事を後悔して死にナ」
 思わぬところから現れる。
 やつらが横凪に体を両断させられていた。
 大量の血が噴き出し、ボトッボトッとハレリアの顔や足元に飛び散った。
「あ…」
 両断されたやつらの背後から、たった今、人を殺したばかりだというのに平然とした顔の男が現れる。男、いや少年といった方が良いほど若いのに…。
「…やっぱ人間か。なんでまたこんなとこに居るかねぇ…」
 その呟きには、厄介なものを見つけてしまったというような響きがあった。
 ドシャッと、その少年はオークの死体を足で踏みつける。
「立てるか?」
 死体を乗り越え、少年──メゼツは、ハレリアに手を差し伸べるのだった。










つづく

       

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