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★文芸・ニノベ作品感想3★
4月22日更新文芸作品感想

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「鹿児島都構想のすべて」 作者:若樹ひろし先生

【まえがき】
 まずは完結お疲れ様でした。長い短いに関係なく、ひとつの物語を閉じることができるのは非凡な才能だと思っています。加えて、その中身が面白ければ更に◎。はじめは堅苦しい政治と学生運動の話なのかなあと高をくくっていましたが、予想と違う嬉しい方向に期待を裏切られた初見のことをまだ覚えています。今回は秋編と冬編。

【ストーリー】
 秋編の最も大きな事件は川内が殺されかけたことだけど、それ以上にいつものメンバーが少しずつ離れていくことが、この話においてはこれとない事件だろうと感じた。
 新しい彼氏ができた指宿、なんとか一命を取りとめた川内、連絡が取れなくなった隼人……ようやく仲が深まってきたところに突如刻まれた溝。人と人の繋がりは存外脆いもので、ちょっとした亀裂がきっかけで粉々になることも珍しくない。どうやって修復されたかは読んでのお楽しみといったところ。今回も隼人が頑張ってる。
 冬編は飛んで大学四年生。飛びすぎて最初びっくりした。冬編のテーマは長らく追いかけ続けたドローン男との対決。一体誰がドローン男なのか。実はもう登場していた。なんとなく予想はできていたので、やはりなーという印象。もう少しだけレッドヘリングとなりうるものがあっても良いような気がしたけど、これはこれで良かったのだと思う。最後まで隼人は一貫した男だった。
 これがどういう話だったかというと、そこそこ大人のふりができるようになった大学生たちが本物の大人たちと格闘し、どう変化していくかを描いた話だったように思う。思えば年齢・性別は違えど、各編には違ったタイプの大人が登場していた。大人と闘った彼らは今後どのような大人になっていくのか、まだまだ彼らの未来が気になるものの、物語はここでおしまい。素晴らしい青春だった。

【キャラクター】
 一番思い出深い人物は誰かというと、まあ隼人だろう。ちょっと小太り(だよね?)で、主張好き(?)な大学生。で鈍感。色恋沙汰に興味なし。実際にいたらかなり避けられるタイプだとは思うけど、こんな偏屈な人間と親しくなってみたい大学時代だった。退屈しそうにない。こういう奴が一人でもいれば、昼間からブック○フでオメガトライブを読みふけることもなかったのだろう。いや面白かったけども。
 閑話休題、それ以外のキャラは多少癖はあるものの普通の人間だった。川内と人吉さんの関係がどうなるかは定かでないけれど。指宿が超能力者というのは全く説明がなかったけど、そういうことも起こりうる世界線なんだろうか? 流されてはいたけど今考えたらちょっとご都合主義的なものも感じる。霧島はあえて何も語らない。彼がどういう人間なのかは、本編を読めばきっと分かる。鈴木? 誰だっけそれ。

【文章】
 台詞のあとに改行がない書き方は人によっては違和感があるかもしれない。あとは自サイトであることによる行間の狭さ・字の不整列など。どうしてもそこが気になる人はもうエディタにコピペして読もう。よっぽどサイトデザインが上手くないかぎり自サイトじゃなくてNeetel使ったほうがいいってのは一〇〇回くらい言ってる。OSや端末によって見え方変わってくるからね。文章そのものは問題なし。抜粋してまで指摘する部分はないように思える。軽妙な語り口で、あっさりと読めてしまえるのが好印象。

【総括】
 感想企画内で出逢った作品の中では、一二を争う作品。好きという意味で。こんな面白い作品を今まで読んでいなかったのか、と思わせてくれるのは感想企画の良い点。故に終わってしまうとその悲しみもひとしお。嬉しさもありますが、キャラクターに愛着が湧き始める頃だったので、もっと彼らの話を読みたかったなあとは思います。本当にお疲れ様でした。
 ……で、隼人がバイト先の先輩からアコースティックギターを譲ってもらい路上演奏を始める話はまだですか!

     

「永遠の向こうにある果て」 作者:志茂田聾二先生

【まえがき】
 「情景スカトロジスト」の方の新作。前作の雰囲気が好きだったので、今回も期待。表紙を見る限りは世界の大きさと個の小ささが話に関わってきそうな、そんなイメージ。

【ストーリー】
 地球なんか大きなゴミ箱みたいだ、で始まる一人のファラオの話。ファラオはそう言ってこの世のありとあらゆる場所にゴミを捨てるのですが、読み進めるとそのゴミの正体が明らかに。少しぞくりとします。
 全体の雰囲気はフォークロア調。誰かの視点で話で描かれることはなくて、起こったことだけが淡々と語られていく。小学校高学年への読み聞かせにありそう。
 話は始まったばかりで、これから少し異常な状態のファラオがどうするかで話が大きく動きそう。果たしてファラオは何を思うのか。関係ないのだけど、僕は「ハムナプトラ」という映画が大好きで、外伝の「スコーピオン・キング」もリピートするほど好んでいるために、この手の世界観は大好物。楽しみである。

【キャラクター】
 ストーリー前提でキャラクターはそれに添えて作られている感覚があるので、キャラクター個人に特に思い入れはない。ファラオが自分に起こっている出来事に対して何も不思議に思っていないのは少し違和感。書かれていないだけなのか。

【文章】
 ですます調で綴られる文章は、大きな破綻もなく読みやすい。褒め倒すのは安先生に一任するとして、つべこべ細かいことを雑多に。以下蛇足と思ってください。
 まず、「そうして」「そして」「そんな」といった接続詞が多めで、少し気になった。そうして、という言葉の類を多用するのはあまり見栄えも良くない。殆どの場合違う言葉で代用できるので置き換えてみても良いと思う。そんな、に関しては、「そんな」という言葉が何を指しているのか分からなくなる場合もあるので、油断は禁物。
 もうひとつ気になったのは、目の滑る文章。

>それは、本当に大きな大きなピラミッドで、ファラオの父上が生前建造したもうひとつのピラミッドとは比べものにならない程に大きいものでした。

 重箱の隅をつつくようだけど、まあ大きさがよく分からない。このままだと特に意味のない一文。
 父上のピラミッドとはどれくらいなのか? 彼のピラミッドはそれに比べてどれほど大きいのか? ある程度具体的に書くか曖昧に避けるかしないと、目の滑る文章になってしまう。
 その後の「雲間から流れ出る太陽の光を連想させるには、十分な美しさを持っていました」も、連想対象としては一瞬「ん?」となるので、一度読み直して違和感がない程度に書き直すと良いかもしれません。
 以上蛇足でした。

【総括】
 読み終わった後に気付いたけど、サブタイトルがなかなかファンキーだった。前作の雰囲気はとても素敵だったものの、今回は今ひとつ。話が静かすぎて毒がないからかもしれない。ファラオが捨てた“ゴミ”が話に大きく関わってくるのならば話は別だけど、果たして。

     

「屈託のない人に用はない」 作者:つばき先生

【感想】
 結婚され、無事ご懐妊されたつばき先生のにんぷエッセイ。妊娠経験を通して感じたこと、考えられたことがつらつらと記されています。こちらも感想というよりは、読んで思うところ・似たような経験を少し。

 僕自身は、弟の出産に立ち会うことになったり、書店員時代に実用書担当で妊娠関連の本も読んだりと、人肌の音沙汰がない(悲しみ)割には妊娠に関してある程度同年代? とは違う認識を持っている……気がする。経験できない時点で偉そうなことは何も言えないので、何か言及するつもりはない。大変そうだな、と言っても上辺だけの言葉になってしまうので、結局何も言えないことに変わりはない。よく妊婦体験と言って砂袋をくくりつけたりするけど、もちろんそれだけが妊婦の苦しみじゃない。実際に経験しないかぎりは、実際の苦しみは分からないもの。
 なので、つがいとなる男ができることは、苦しみの存在を理解して、どれだけ喧嘩をすることになってもお世話をすることになっても、それを絶対に忘れない、ということなのかな。やはり、相伴する人が妊娠するという経験がまだないので上手いことは言えない。
 こういうことを偉そうに言っていても、いざ己がそれを実感することになると、思い描いていた自分とは違う行動をとってしまうんだ。分かっている。いつもいつでもうまくいく保証なんてどこにもない。ポケモンのサトシだってそう言っていた。仮に僕がそういう経験をすることになったら、どんな行動をするんだろう。つばきさんの旦那さんのように振る舞えるのだろうか。それ以前に、相手がいないことには結婚も子どももクソもないのだけど。
 あれ、おかしいぞ。妊娠に関して思いの丈を書いていたつもりが、あまりにも悲壮感に包まれたエンドになりつつある。これでお開きはさすがにマズイ。
 というわけで(?)、つばきさんが無事にご出産されることを祈るのみ。というか、時期的にはもう出産? Twitterを見ていない(そもそもしているのかも分かりませんが)ので確かめられませんが、良い結果を心待ちにしています。
 僕は僕で僕の心配をします。

     

「後藤健二の性的冒険」 作者:後藤健二先生

【感想】
 おっ、M性感で有名な後藤健二先生の赤裸々な体験談じゃないですか! と白々しく笑いながらも読んで、やっぱり面白かった。
 本サロ、テレクラの話も色々考えるところがあって好きなのだけど、三〇分で書いたという裏ビデオの話が面白い! コーヒーも飲めずにゲラゲラ笑ってしまった。いざ手にした無修正ビデオは、性欲ではなく吐き気をかきたててしまった。ゴトケン先生にもこんな若々しい時代があったのだなあ、となぜか感慨深い気分になる。

【以下蛇足】
 ……さて、この手の作品に関してただ感想を書くというのも失礼な気がするので、拙くも、僕の方もそんな方面の話を少し。
 僕は性行為というもの自体に関して疎く、高校生の頃に致したのも結局は求められたからだった。今でもそれはあまり変わってはいない。もちろん健全な男子として育ったわけだから自慰もこなしてきているけど、同年代と比べると頻度は劣るのだろうなあ、という程度。
 どうでもいいエピソードならいくつかある。
 小学校四年生の頃だったか。家族ごと県外に引っ越すことがあって、僕も数少ない男手として子どもながらに手伝った。まあ、大きなものは運べないのでダンボールを運搬する程度である。
 で、引越し作業の最中、みつけてしまった。
 ダンボールの中にギッチリと詰められているのは、半成人のガキンチョが見てはいけないタイプのタイトルのVHS。もちろん僕のではない。弟のはずもないから、ということは……みたいな感じで、僕の中の父親は英雄のような何かに変わった。
 とうとう中身を見ることはかなわなかったものの、今思えばちょっとアレなジャンルだったので見なくてよかったと思った。
 だからうちの母親は少しぽっちゃりしているのか。
 他にもブラックバイトの飲み会で未成年なのに飲まされた挙句怪しいお店に連れて行かれた話などがあるけど、盛り上がりに欠けるうえに、そもそもここは感想企画会場なのでこれ以上の蛇足は避けておく。
 

     

「シングルベッド/みなそこにいる」 作者:あまがさ先生

【まえがき】
 ノクチルカは途中まで読んでいた。こちらは短編ということだけど……タイトルが似ているものもあるので連作短編? 一応短編はその日に更新されたものの感想を書くスタイルなので、今回は「シングルベッド」。

【感想】
 初々しいカップルの「はじめて」を書いている、官能的だけど直接的な表現のない素晴らしい短編。読んでいるだけでトロけそう。夏の日のだらけきったアイスの気分がよく分かる。リア充だった日々を思い出してたまらなく死にたくなった。
 表現がシンプルで、歳相応の少女が浮かべるそれらしさがあってとても良い。「溶けてしまいそうなくらい、潤んだ瞳と、熟しきった林檎みたいな、真っ赤な頬が見えた」とか、「彼の顔を見上げて、目を細めると、頷いた」とか、読点が多くてぎこちない感じがたまらない。何なんですかねこれ。良い青春ですね。ベッドをがたりと揺らしてナニをおっぱじめるんですかね、と毒づいてしまうくらい若々しい。肘で突っつきたくなる。
 ……実は猟奇的な話だった、というオチは、ないよね?
 他の短編も読んでみます。

     

「ニッポニア」 作者:新野辺のべる先生

【まえがき】
 来ました。多分文芸新都の中でもトップクラスを争うレベルで好きな作品。前回は多忙につき感想をかけなかったけれども、今回は存分に。ニッポニアは長くてなかなか食指が動かない、という人に向けた感じで全体の感想を書こうと思います。

【ストーリー】
 ニッポニアと呼ぶ“彼”が、異星人に対して地球が滅びた理由を語っていくという内容なのだけど、現時点のメインはそこじゃなくて彼の語る内容にある。彼が最初に語ったのは、下之介という若い僧がある刀によって激動の幕末に巻き込まれていく話。これがとにかく面白い。幕末、黒船、新選組……その辺りに敏感な人なら絶対に読んでおくべきだ、この「旭日編」は。
 話の主役は上中下之介。この3秒でつけたような名前の、掃いて捨てるほどいそうなぼろきれの男も、読み終わる頃には「げのすけぇ~」と叫びたくなるほど成長する。これは下之介が、様々な思惑が絡み合う幕末に運悪く雁字搦めにされ、望まない生活を送る羽目になる物語。冒頭のSF劇と異なり、完全に時代劇。光人社か何だか忘れたけど、その辺りで売ってそう。
 下之介はある事件がきっかけで謎の刀を手にし、それにまつわるエトセトラを一身に受けていく。どこかの幻想殺しなら「不幸だ!」と叫ぶような展開の連続。とにかく隙がない。やっと落ち着いた……と思えば次の事件が下之介を襲う。おかげでこちらはハラハラしっぱなしである。
 下之介の刀の扱いがアレなこともあり、戦闘描写はさほど多くなく、どちらかというと江戸の人情噺だとか、それこそ落語の世界に色を付けたような語り口が持ち味。クライマックスを経ての変化もあり、最後のシーンでは思わず涙が出てしまった。思わずにやけてしまう演出もあり、旭日編が終わった今こそ一気読みしてほしい話だ。きっと後悔はさせない。
 個人的に古めいた日本の話が好きで過大評価をしているかもしれないが、これは長編の中の一つの話にとどまって良いものではない。

【キャラクター】※多少ネタバレあり、注意されたし
 メインとなるキャラクターは、前述した上中下之介と、鶴(ちるー)という少女。下之介のダメ人間だけど厚い男もいいけど、やはりこの話は鶴が肝だ。時代劇という背格好をしているから鶴もそれなりに堅い人柄に見えてくるけれども、まあ、要するにアレだ。現代のライトノベルだったら立派なヒロインだ。正妻だ。いつ堕ちた!? と言わんばかりに、いつの間にか下之介のことを心底好いていただろう鶴。はじめは敵対していた鶴が、下之介を信用している発言をした瞬間はおもわずぐっと来た。これが物語における人の変化・成長というものなんだなあと思うと、今まで僕が書いていた「変化」らしきものが恥ずかしく思える。それほどこの物語のキャラクターの心情は大きく揺れ動き、その一つ一つが話の軸を左右させる。魅力的なキャラクターの多い作品だったことは間違いない。
 もう少し、もう少しだけ下之介と鶴の話を読んでいたかった。そんな気持ちにさせてくれる。

【文章】
 果たして何を語れるのか……それほど完成されている文章。突然一年ほど時間が飛んでも、分かりやすく書かれているので違和感はない。ダレる展開になるなあ、と思ったら即座に時間を飛ばしたり軽快な筆致に変わったりするので、飽きずに読めてしまえる。誤字脱字も非常に少なく、優秀な文章(何様)。その時代に起こったできごとが淡々と書かれるため、そのあたりに興味が無い場合は少し辛いかもしれないが、興味があればこれ以上の愛読書はない。

【総括】
 旭日編に限れば、文芸新都でも一番好きな作品、と言っても過言ではない。今回は感想を書かなかったが、新たに始まった「白日編」では少し先の時代が描かれている。こちらも旭日編の人物が少しだけ関わってきそうなので興味深く読めそうだ。
 とにかく、歴史物語に興味が有るのならばぜひ読んで欲しい作品。ニノベでは「場合シリーズ」を推しているが、文芸ではおそらくこの「ニッポニア」がトップだ。僕の中では。

 ……下之介と鶴のお話はもう書かれないんですか(しつこい)

       

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