Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
22 闇夜の暗殺者

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 セキーネとディオゴはトレイシーフォレストで丙武軍団を食い止めていた。後に軍団員の間で不落のレーゼンビ一城よりも苦戦した戦いと言われるだけの善戦を見せているのだ。

「順調ですね」
「ああ・・・! 」
セキーネとディオゴは戦場を見つめながら希望を胸に抱く。何としてもここで奴等を食い止めてみせると。
今、それが実現しつつある。
だが2人には拭い切れぬ不安があった。何故か勝てる気がしないという予感。戦況はこちらが有利の筈なのに何処か拭い切れぬ敗北感。
その敗北感が臭い始めてきたのはつい1週間のこと。
白・黒兎軍の各参謀2名と共に
セキーネ、ディオゴは現状分析をしていた。
「掃討する敵兵の数が減り始めてきています」
「最多11名、最少ゼロの日もありました」

参謀2名は掃討および捕獲した兵士の数を記入したグラフをセキーネとディエゴに展示しながら話した。
大量の兵力をつぎ込んでいた筈の敵は、明らかに数を減らしつつあった。何度 逆襲をくり返したか忘れた程の大勢力だった筈の丙武軍団の動きとは到底思えない。
ディオゴは敵陣方向を見つめながら人参の煙草をロへと運んだ。
「・・・妙だな 一見して敵の陣地は未だ健在だ。撤退する素振りも見受けられない」

続いてセキーネがロを開いた
「兵力を注ぐのを明らかに止めている節がありますね こちらの様子を伺っているのでしょうか」
「ここ最近、濃霧が激しいからな 奴等もそれで攻め込むのを控えているんだろう」
「・・・だといいですが」
「・・・・・・」
セキーネの理想を望む台詞にディオゴはロをつぐんだ。それを誤魔化すかの如く人参の葉巻を口元へと運び吸引した。きっとディオゴもセキーネと同じ不安があったのだろう。
だが、その不安が思い浮かばぬ以上
せっかく士気旺盛になってきた兵士達を悪戯に刺激したくはなかった。


セキーネ率いる十六夜部隊はこの濃霧の中、丙武軍団の主力となる
3名の幹部の暗殺作戦の決行を決意した。標的はソノマ・ンマー少尉、マゾホン少佐、ガタルカナル大尉だ。この3名を暗殺すれば戦況は有利になるだろう。ただ悪戯に暗殺をする訳にはいかない。暗殺したという事実はいずれ暴露するだろうが、作戦中に暴露するようなことになれば十六夜部隊の脱出が困難となり、全滅に繋がりかねない。
「・・・3名全ては暗殺できないな」
セキーネは暗殺対象の3名の顔写真を見ながら呟いた。
ガタルカナル大尉など身体を半分機械化したサイボーグだ。確実に暗殺するとなると爆発物は必要だ。暗殺向きの弓矢やライフルで仕留められる可能性は絶望的に低い。
「仕留めるとするなら
この2名だな。」

ンマ一少尉とマゾホン少佐の写真を手にとり、セキーネは呟いた。

2人とも生身の人間であり、彼等が身体を機械化している事実は無い。
捕獲した捕虜を拷問にかけ、尋問させたのだから間違いは無い。
その尋問の確実性が何故これ程まで高いのか、それは捕虜達の目の前で
殺害した敵兵達の金玉を切りとって串刺しにして焼き、無理やり食わせるという著しい精神的苦痛を伴う
拷問をしたせいだろう。
金玉を咀嚼しなければ、待っているのは兎人兵達によるキックの応酬か、自分の金玉を切り取られて串焼きにして喰わされるかのどちらかしかないのだ。顎が人蹴りで地平線の彼方へと吹っ飛んでいく程の強烈なキックを喰らわされ即死するか、自分の金玉を喰わされてでも生き残るか、果てはその2つを選ぶ前に正直に真実を自白して無傷で生きのびるか・・・選択肢は一つしかないのだ。もしてや男ともなれば。

「ただの人間であれば、たとえどんな分野のエキスパートであろうとも
隙をついて暗殺するのは容易い。
我々はその様に訓練されてきた。
諸君の絶え間ない技~術の練成が
十六夜部隊を強固にしてきたのだ」

セキーネ率いる十六夜部隊はこの様な隠密作戦専門の部隊だ。膠着した戦況を突き、秘密裏に敵陣に忍び込んで対象を暗殺し、指揮系統を麻痺させる。敵が指揮官が殺されたことに気付いた時には時既に遅しなのだ。

セキーネ率いる十六夜部隊は闇夜の
森林を敵陣へ向け前進していった。

     

 クリック音を鳴らしながら
黒兎兵が十六夜部隊を案内する。
「・・・敵の方向、この方向約800m地点・・・ンマー少尉の指揮所です。マゾホン少佐の指揮所は更に奥やや北東200m地点にあります 」
十六夜部隊を案内した黒兎人族兵が状況を説明する。人間タイプの黒兎人族兵の彼の頭部に生えている筈の4つの黒い兎耳は削ぎ落とされ、そのお陰か帽子さえ被れば人間の兵士と見間違える程になっていた。
それは いつでも彼が人間の多い甲皇国軍の敵陣に変装して乗り込めるように考え込まれた苦肉の策だった。

無論、今回主力となる十六夜部隊の面々も人間タイプの外見をした隊員が多い。彼等も長年の部隊勤務の特性上、人間の本陣への潜入が多い為、頭部の耳を切り落としている。人間の兵士になりすますことが可能な彼等には敵兵に変装して標的に接近もらうことになる。

セキーネ含むウサギタイプの兵士は専ら彼等のバックアップに回る。
彼等が侵入する上で障害となる敵兵の暗殺やトラップを破壊するのだ。
(上手くいってくれ)

セキーネは自らの成功を祈り、敵陣のある方向へと歩いていく。

「2手に分かれよう ブラッドストーン分隊、クワンタム分隊はンマーの陣地へ向かえ 残余は私と一緒にマゾホンの陣地だ」


ブラッドストーン分隊とクワンタム分隊と分派して、セキーネ率いるピーター分隊は残余の分隊を引き連れてマゾホン少佐の陣地へと向かう。
セキーネの手元にいるのは彼が長を務めるピーター分隊とナイトファイア分隊の2つである。
敵の歩哨の交代時間を狙って、ナイトファイア分隊が行動を開始する手筈だ。歩哨に上番する兵士と下番する兵士が出会う前に、そいつらに変装しなければならない。
手順はこうだ。上番する兵士を始末して、変装。その後、下番する兵士と出会い、交代の報告をさせる。 
(定時報告の時間は既に捕虜を尋問して、掌握済みだ)
その直後に、下番する兵士を始末して、変装。この手順を繰り返し、徐々に各エリアを落としていく。
「00こちら01 異状無し」
異状無しの報告で陣地内をとことん安心させ、奴等の警戒心を尻軽女の陰部の様に緩々に解かせてやるのだ。ナイトファイア分隊は上番兵と下番兵を絞殺ワイヤーと剌殺ピックで始末していき、セキーネのピーター分隊を配電エリアへと導いて行った。配電エリアに置かれた発電機はチェーンソーやバイクの如く鳴り響いている。最早この音が鳴り響いていることが日常と化している兵士どもは、陣地内の些細な異常に気付きもしない。おまけに異状無しの報告で、尻軽女の陰部の如く緩みに緩み切った警戒心だ。陽動することなど容易いことだった。

セキーネは発電機を停止させ、陣地内の兵達を配電エリアへと陽動した。これでマゾホン少佐までの道は大方通過できる。暗闇の中、セキーネ達のピーター分隊は混乱するマゾホン少佐の司令エリアの指揮官達を始末していった。蠢く呻き声の中、ゾマホン少佐は48口径の大型拳銃を手に暗闇の暗殺者を探す。
「どこだ!どこにい」
その刹那、セキーネの両手に握り締められたワイヤーがゾマホン少佐の首に絡みつき、肉と皮膚へと喰い込む様はまるで紐で縛られた燻製ハムの様だった。
「ぅげぁあァッ!」

気道と頸動脈を締め付けられ、
暴れるマゾホン少佐は咄嗟に絞殺者セキーネの右眼めがけて右手の中指を突き刺した。ビキニ拳法に伝わる絞殺殺し技だ。目を抉り取られれば流石に絞殺者も手を放す故、それを好機に反撃する算段の筈だった。
「うげあアあァッ!」
マゾホン少佐の右手の中指はセキーネの右眼を抉ることは無かった。セキーネは紙一重で中指をかわし、その指を司る右手の親指へと噛みついた。
「うごぁ・・・か」
マゾホン少佐の血みどろになった右手の甲が床を叩き、少佐は絶命した。暗殺者としての修羅場を潜り抜けてきたセキーネは、この様な絞殺殺し技が来ることぐらい予見出来ていた。中指を噛まず、敢えて親指を噛んだのも理由がある。もし、中指を噛んでしまった場合、親指で右眼を抉られる可能性がある。セキーネを十六夜部隊で長年仕込まれた訓練成果と実戦経験の賜物だった。
しかも、その殺し技を兎人族の前歯でやるとなると最早それはただの殺し技の粋を易々と超える。丸太をまるでチーズのように噛み千切る噛み付きによって、マゾホン少佐の右手は皮ー枚で繋がった状態になっていた。
「総員、撤収だ!行くぞ!」
セキーネ率いるピータ一分隊と警備兵に成り済ましていたナイトファイア分隊は陣地内の明かりが復旧するのを待たず、過ぎ去る嵐の如く撤収していった。

       

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