Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
32 ガイシ胎動

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地下遺跡最奥部……古代ミシュガルド人の残したと思われる巨人像が
遺跡の空間という空間を埋め尽くし、祭壇と思しき巨大なオブジェクトが剛毛な女の陰毛の如く密集している。
その空間のど真ん中にあるエメラルド色の勾玉が光を放ち、本来ならば闇の底に沈んでいる筈の
この地下遺跡内部をまばゆく照らしている。

その勾玉を覗き見る一人の少女がいた。
彼女が、青い紫色のショートヘアーと
ほぼ同色のスリットのドレスを着ており、茶色のマントを
羽織っているのはこの暗闇からでも視認出来た。
次に、視認出来たのは血色を失った顔に
ツギハギされたやけに血色の良い顔だった。
何らかの外科手術を施されたのだろう……
その痕はスリットから覗く左足の脹脛にも見受けられた。
だが、手術を受けたという事実があったとしたのなら、
何故彼女には左手と右足がついていないのだろう……?

不気味な矛盾な謎を抱えた風貌のその少女は
覗き見る勾玉から、ダニィとマルネの姿を確認した。
2人が口論しているのが確認できた。


「やれやれ……このダニィとか言う黒兎人族の男……
なかなかのしぶとさだ……」
少女は、右手の酒瓶を尺八の如く口に咥え、ラッパ飲みを始めると
大きくため息をつきながら、瓶を口から離して口を拭った。

「……しゃぁねぇなぁ……そのしぶとさに免じて
今日は逃げずに待っててやるよ」

少女はダニィの必死ぶりを鼻で笑うかの如く、
微笑むと再び酒瓶を口に咥え、飲みだした。
数秒ほど口をつけると、溢れた酒を拭いながら少女は
もう一度呟いた

「それにしても……どうして人ってヤツは……
こうも死者を追い求めるのかねぇ……そこに破滅の道しか無いと分かっていてもさぁ~……」

その呟きこそ 少女がダニィの求める人職人人であることを
物語っていた……


人職人人のいる地下遺跡より遥か天空とも言える高度にある地上……
魔の都市ガイシのとある路地にて…
2人の薬商人が仕事帰りの帰路へとついていた。
片方は薬鉢状の異形頭をし、背丈も185cmは優に越している大男だ。
ベージュのロングコートと、女性のウエストほどはあるであろう
ブーツがその巨大さをより一層強調している。

対して、片方は紫色の下地に紺色の凹凸を描いた模様が入った
シルクハットを被り、ハットの紫色と同じ色をした髪の色をした
ポニーテールヘアーの少年だ。これまたハットとシルクハットと同じ紫色の袴状のズボンを履いていることと、
それなりの美少年であることが相まって下手をすればどれほど欲求不満なのかを強調しかねない服装を
している。

前者はアルド、後者はロイカという名前である。
彼等はとある路地で蹲る男を発見した

「はぁっ……はァア……」

男は心臓を握り締めるかの如く、自身の胸を握って蹲っていた…

「どうしました~?」

悲しいことに薬屋や医者にとって、病人こそ金の成る木というのが世の常だ。

「……心臓発作かな……?」

「う~ん……過呼吸かも……とりあえず呼吸器系の薬を出そうぜ」

ここぞとばかりにロイカはアルドの背負っている風呂敷から
薬を取り出そうとする。

だが、次の瞬間……その男の頭部から異形の生物が男の身体を食い破りながら
飛び出してきた

「ウシャァああああぁアアああ」

男の引き裂かれた身体からは異形の生物の手足や触手と思われる物体が
這い出てきている。その手足はまるでカマキリや蜘蛛を思わせ、触手に至っては
その柔軟さたるや、タコやイカの手足を連想させる姿であった。

「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

アルドはその豪腕でロイカを脇に抱えると一目散に逃げ出した。

この魔の都市ガイシに戒厳令が出されたのは
それから数時間後のことである……




























       

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