Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
34 慰めの報酬

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 ダニィもマルネは魔の都市ガイシへと歩を進める内、ガイシから逃げてきたある生存者と出会った。
「はぁっ はぁっ ヒィッ!ヒィッ!」
その生存者は男で、ホビットだった。過呼吸気味か
胸を掴み、顔面蒼白で震えていた
「とにかく落ち着いて、何があった?」
マルネ・ポーロが尋ねる。目的地の方角から来た者から目的地の様子を聞かねばならない。ましてや、その者がただ事ではない表情をしている以上、尚更だ。
「ヒィィッ!」
男は完全に錯乱していた。
「怖がることはない、私は君と同じホビット族だ。
多少獣人の血も入ってはいるが・・・君は兄弟同然だ。兄弟が苦しんでいるのを見過ごすことは出来ない、教えてくれ 何があったんだ?」

言葉を紡ぎながらマルネは
ダニィが言いそうな台詞だなと思った。
初めてダニィと出会ってから、
何度こんな感じの口調で口説かれたことだろうか。

気が動転したり、落ち込んだ時にダニィの様に話し掛けて貰ったらどれだけ救いになるか、分かっていたからこそ、この生存者に優しく接っすることが出私にのかもしれない。

少しばかり落ち着いたホビットは大きく溜め息をつくと、少しばかり事の経緯を話し始めるのだった。

「あちこちで住民が化物になってる・・・化物になった奴等が住民に種を植え付けて」
男は何かを思い出したのか目を見開らき、胸を掴み出した
「・・・そうだ 思い出した
俺も種を植え付けられたんだ・・・い 嫌だ 俺は・・・! ああんな化物にはなりた」
次の瞬間、男のロから触手状の物体が歯を蹴り飛ばし、内側から飛び出してきた。
「マルネ!!離れろ!」
ダニィがマルネの首を後方から掴み、後ろへと退げさせた。
男の身体が触手状や、蜘蛛状の手足らしきもので内側から串刺しにされていった。ホビット族だった筈の男の身体は内側から飛び出してきた化物の手足のせいで、180cmぐらいの長身へと変化していた。
「ぁ」
マルネは同胞の変わり果てた姿を目の当たりにし、絶句するしかなかった。ロを押さえ、ぶるぶると震え、
脅えていた。
「ウシャアアあァ~ ホビット族~~~見イ~ツケタァア~~」
マルネは確かに聞いた。変わり果てた同胞が自分を指差し、明らかに自分を狙っていると宣言したのを・・・

「ウシィアァあァア!」 
異形の化物と化した男はマルネを見つめ、走り出した。

「クワァンタム・オブ・ソラス!!」
ダニィの声だった・・・ダニィはギターを鳴らし、大声で何やら叫んだのだ。こんな状況でギターを弾く行為にマルネは思わず面食らってしまった。
だが、次の瞬間
異形の化物と化した男は突如何者から首を掴まれたかのように大きく顎を引き、苦しみ出した。
「ぐギャアあァアオ」


男を見つめるダニィには何かが見えているようだった。ダニィにしか見えないクワァンタムという名の何かが・・・

「クワァンタム・・・一撃で頼む」
ダニィがまるで鎮魂歌の如くギターの弦を親指で弾いた次の瞬間、男の首は天地を逆にして音を立ててゴキリと折れた。12時を差す時計の針が、突如6時を差し示すかの如く。
男は膝をつき、そして倒れた。

「はぁっ はぁっ」
マルネは目の前で繰り広げられた
出来事を前におびえていた。同胞だった筈の男が僅か一瞬で化物と化し、死んだ。
「うゎああぁ~~~~~!!」
マルネは額を抱え、泣き叫んだ。
自分もこうなるのではないか、嫌だこんな死に方は嫌だと。

「マルネ、マルネ 僕だ!」

怯え泣き叫ぶマルネを抱きしめると、優しく頭を撫で、背中をさすってやった。

「僕だ 落ち着いて」
マルネはダニィのケロイド傷のある胸に顔をうずめ、泣いた。
ダニィの胸に顔をうずめている内に、マルネは落ち着きを取り戻していった。


~地下遺跡最深部~

魔の都市ガイシの地を支える
地下遺跡の更に奥へ奥へと潜っていった奈落の果て・・・人職人人が居た場所よりも、きっと更に深い場所・・・
そこは地下とは思えない程、明るい。明かりが暗闇の空間を照らしているから明るいのではない、元よりその空間自体が明るい。まるで、外の世界かと見間違える程、明るい
空間にはミルクの如く真っ白な神殿が立ち並んでいた。

その神殿の玉座に全ての元兇は居た。・・・そう、ガイシを阿鼻叫喚の生き地獄へと変えた化物達の女王陛下が・・・

「可愛い可愛い 私の赤ちゃん・・・赤ちゃん可愛いねぇ~~~」
女王陛下は尖った八重歯を覗かせながら地上で猛威を奮うあの化物達の一匹を手にとり、無邪気に笑った。
女は全裸だった。紫色のロングヘアーをなびかせ、ミルクのように白い透き通った肌をしている。タコやイカの足のようにしなやかにしなる尻尾と、人間の美女の如き姿が同棲したその姿から何らかの生物との亜人というのは見て取れた。
「・・・もう宙に帰れないのなら、此処で暮らすしかないじゃない。だったら、此処で繁殖♪繁殖♪」

帰郷の望みを絶たれ、半ばヤケクソ気味な彼女が呟く傍には無数の卵と化物達がチェスの駒の如く並んでいた。


後に彼女は甲皇国軍兵士達から
エイリアと呼ばれることとなる。

       

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