Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
2 ダニィとモニーク

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洞窟の中に湖がある……
深海のような暗い蒼い湖が
それを照らすエメラルドの光を反射し、その反射が幾千・幾万と繰り返されて
まるで青と緑の宝石を散りばめたように輝いていた。
その光に照らされ、洞窟の壁を削って作られた
コウモリとウサギと人と仏が融合した姿をしたラディアータ教の仏像が
まばらに整列しているのが見て取れた。

湖のほとりに2人の少年・少女がいた。
両者とも髪の色こそ茶色味がかった金色の髪・熟した栗のような茶色の髪と
異なれど、共通しているのは褐色の肌と、頭部から4つの黒い長耳が生えていることだった。
両者ともきっと同じ種族なのだろうが、
少年の背中からはコウモリのような黒い翼が生えており、
少女の頭部には先ほどの4つの耳以外にももう2つの耳があることから、
両者がまるっきり同じでは無いことが見て取れた。2人は黒兎人族の亜人だ。
コウモリ人と白兎人とのハーフ亜人で知られる黒兎人は、
同じ種族間でも全く異なる姿形をしていることが多い。
その中でも2人は、人間をベースとした姿形をしていた。
だが、そんな2人ですら片やコウモリ、片や兎の特徴とそれぞれ異なる特性を持っていた。

少年は震える少女の手を初々しくも力強く握り締めていた。
「ひっ……!」

震える手を握られ思わず、声を漏らす少女……
触れられた手はまるで電気を受けた魚のように大きく痙攣し、
今にもその手を振りほどこうとしたいのを堪えているようだった。
4つの両耳はしぼんだ花のように丸く縮こまり、頭部の2つの耳からは
見る見る血の気が引いていった。

「…怖い?」
少年が悲しく尋ねた。
振りほどかれそうになった彼の手からは拒絶されたことへの悲しみが伝わってきたが、
それを必死に隠すように少女のことを心配する優しさも伝わってきた。

「…っ!ごめんなさい……!!」
彼のその優しさが辛く、涙を流しながら少女は
その手を握り返した。少年の優しさに応えたいのに、
身体が言うことを聞いてくれない むしろ、その優しさを撥ね除けてしまう
自分の心と身体のギャップに 少女は本当に辛そうに涙を噛み締めていた。

「……ぉっ……俺も……ごめんなぁ…っ!
 おまえが……つらいって分かってるのに……」

そういう少年の方も目を潤ませ、顔を赤面させながら、
心からこみ上げてくる自分勝手な感情を彼女のために必死に必死に
抑えようとしているのが伝わってきた。

「自分勝手だなって……分かってる……
 俺じゃ力不足かもしれないけど……モニークが……
 幸せになれるように……俺も……頑張るから……っ」

堪えきれず だけど言い切るには勇気が足りなさ過ぎて
ただ ひたすら必死に紡いだ言葉には愛があった。
少女モニークは、少年の紡いだ愛の言葉で
自分自身の無力さを思い知らされた。

「ダニィ……ごめんね……こんな私なのに……
 ほんとごめんね……」

少年ダニィは震えるモニークの手を優しく握り返した…
辛いのに必死に必死に自分の愛に応えようとしてくれている彼女を
心の底から大好きな彼女の心の傷を癒してやるどころか
逆に広げているかもしれないと思うと、自分自身の無力さを思い知らされた。

「……俺こそごめんなぁ……モニーク
 こんな俺なのに……どうか俺を……許してくれ」


       

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