Neetel Inside 文芸新都
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黒兎物語
49 城内の逃亡劇

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 ヴェリア城は騒然としていた
ヤーヒム・モツェピ大尉率いる警備部隊は、帰路へとつこうとする
ジィータ・リブロースと、クルトガ・パイロットを拘束すべく2人を探し回っていたのだ。
大尉の率いる警備部隊の優秀さからか、それともミハイル4世の怒号による恐怖心からか、
いずれにせよ2人が見つかるのに3分も掛からなかった。

「リブロース殿下……ミハイル陛下がお呼びです。
ご同行願えますか?」

眉間に皺を寄せたヤーヒムの表情に、リブロースは事態の深刻さを察知した。

「……和解しようって雰囲気でもなさそうね…」
リブロースはクルトガに語りかけるかのように、呟いた。
だが、それをなぎ払うかの如くヤーヒムは再度告げる。

「……ご同行を」

黙って付いてこいと言わんばかりの高圧的な態度から、
このまま付いて行けば処刑されるであろうことは どんな阿呆でも分かるだろう。
先ほどの騒動のほとぼりの冷めやらぬ内に謁見を要求してくるとは、
これは最早ミハイルの怒りが最高潮に達していることは想像に難くなかった。
だが、そうまでしてヤーヒムが露骨にミハイルへの謁見を要求したのは
彼が愚かだからではない。リブロースへの威嚇である。

お前は取り返しのつかないことをしたのだ、ここまで
あからさまに敵意があると見せても余裕な程の絶対的強者にお前は喧嘩を売ってしまったのだと
言うメッセージであった。

リブロースとクルトガは互いに顔を見合わせ、ここはおとなしくヤーヒムの申し出に従おうと言う素振りを見せた。
分かればよろしいとヤーヒムが背中を向けようと身体を右に向けようとしたその刹那だった。
クルトガが後方の警備兵の鳩尾に強烈な後ろ蹴りを食らわしたのだ

「げあ!!!」
とっさに内臓を蹴られ、悶絶する警備兵。
その一連の動作と並行してリブロースは右手に居た警備兵の剣を引き抜き、正面にいたヤーヒムの背中に斬りかかった。

「くっ!!」
咄嗟にリブロースの殺意を感じ、ヤーヒムは背後のリブロースを正面に捉えるべく
身体をそのまま瞬時に更に右へと向ける。
リブロースが振った剣は、そのままヤーヒムの腹を切り裂こうとしていた。
ヤーヒムは咄嗟に上半身から倒れこんで、リブロースの剣を回避した。
あと一秒遅ければ、腹を切られ臓物を撒き散らしていただろう……
代わりに自身の右方向(リブロースから見て左方向)の兵士たちの胸が切り裂かれた。

「クッ!!」

ヤーヒムは倒れ込んだ勢いを利用して、そのまま両手を地面につけると、
起き上がる勢いを利用してリブロースの顔面に蹴り込んだ。
だが、その蹴りを彼女は両手を交差させて防御する。

「ぐあッ…!!」

蹴られた勢いを利用してリブロースはそのまま大きく後方へと仰け反り、
後ろ蹴りのために身を屈めていたクルトガの頭上を飛ばされていった。

「ジィータ様!!」
だが、リブロースはただ飛ばされただけではなかった。
その蹴られた勢いを利用して、それを退却へと生かすべく空中でまた回転をすると、
すぐさま後方回転受身を取り、着地した。

「クルトガ!!!」
クルトガの名を叫ぶと、リブロースはすぐさま後ろを振り向き出口へと向けて逃亡した。
クルトガもそのままリブロースを追うべくその場から退却する。


「逃がすか!!」
咄嗟の出来事に驚きつつも、瞬時に立ち直ったヤーヒムは
無事な部下を数名連れて、そのまま2人を追う。
中庭を駆け抜け、リブロースとクルトガはヤーヒムの追跡を交わすべく疾走した。
負けじとミハイル4世もニッツェを含む自身のプラエトリアン達を連れ、2人を追うべく城中を歩き回っていた。

「居たぞ!!あそこだ!!」

怒りで瞳孔の開ききったミハイル4世が屋根伝いに逃げ回る2人を見つけ、
指で突き殺さんばかりの勢いで2人を指差した。
ニッツェ達エンジェルエルフ族のプラエトリアン達は
ハート型の弓矢を2人に向けて向けると、一斉にそれらを豪雨の如き勢いで発射した。
「っ!!」

前方へ進みながら弓矢を回避するリブロースとクルトガの2人……
後方では2人に当たることの叶わなかった、弓矢の豪雨が粉塵をあげて屋根を激しく叩いていた。
当たれば瞬時に心臓麻痺・心筋梗塞を起こし、強烈な胸の痛みを訴えて死亡する天使の猛毒を仕込んだ
弓矢が不気味に2人の目の前を通り過ぎる……

「くっ……ぁあっ!!」

弓矢を回避しようと剣を振った勢いでリブロースは、屋根瓦を勢い余って強く踏みつけてしまった。
その結果、砕けた屋根瓦ごとその下にあった屋根瓦を踏んでしまい、彼女は滑り落ちてしまった。
このまま行けばミハイル達のいる広場に真っ逆さまに転落してしまう。

もう滑り落ちることは確定している、ならばその勢いを利用してやろうと言わんばかりに
リブロースはバルコニーへと飛び移った。

「んぁッ!!」

飛び移った勢いで、バルコニーに装飾されていた大理石の女神像や、
植物の花壇を粉々に砕きながら、前のめりに着地し、そのままリブロースは倒れこんだ。
だが、すぐに立ち直り、次のバルコニーへと飛び移る。

そして、飛び移った先のバルコニーから部屋へと飛び込み、
城内を駆け抜けていく。

「城内に逃げ込んだぞ!!逃がすな!!!」
ミハイル4世は部下たちを引き連れ、一階から城内から内部へと侵入する。
クルトガはそれを見ると、城内に逃げ込んだ主のリブロースと合流すべく近くのバルコニーに着地し、
内部へと侵入した……

       

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