ガザミに見下ろされ改めて実感した。
「・・・そうか 俺こそがクソだったのか。」
ディオゴはうなだれる。こうなったのも全ては
己が招いた罪の証なのだと。
仲間に見放され、部下に見放され、ようやく気付いたのかと。
「・・・ 俺はどうしようもねぇクソだ・・・生きてる価値なんざァ更々無ぇ・・・だけどよォ、そんな俺でもまだ死ぬわけにゃァいかねェんだ・・・モニークを死に追いやり、故郷を滅ぼした元凶をこの手で始末するまでは・・・!!」
ディオゴは頭頂部の短い兎耳を引き干切らんばかりの勢いで鷲掴みにし、懇願するかのようにか細い声で言う。
「・・・頼む・・・・償いなら幾らでもする・・・・・どうか復讐を・・・遂げさせてくれ・・・」
もはやディオゴの精神は廃人寸前まで追い込まれていた。常人なら自殺か、発作かでとっくに死んでいてもおかしくはない。そんな彼の精神を支えているのは 最早モニークの仇を取る・・・ただそれだけのためだった。流石のこの姿に彼を見限っていた者達も同情を隠し切れなかった。
「……我が友、ディオゴ・J・コルレオーネよ。」ゲオルクは重い口を開く。誰もが見下げ果てたやつ、麻薬に溺れた凶暴な男と恐れていてもなお、ゲオルクはディオゴを友と呼ぶ。
「君の妹を殺し、黒兎人族の里を滅ぼした白兎人族の離反。その黒幕を暴くために・・・」
ゲオルクの声ではない 先程までこの場に居なかった男の声がした。ディオゴにとってその男の声は聞き覚えがあった。耳を引き干切らん勢いで下を俯いていたディオゴは目をかっと見開きゲオルクを見つめた。その顔には射殺す勢いで、眉間に皺が寄せられ、血走った目が吊り上がる。その怨嗟に満ちた禍々しい視線は、ゲオルクの背後に吸い寄せられていた。
「敢えて言おう。クソを食え・・・それが君の償いだと言うのなら・・・」
告げたのはゲオルクではなかった。
ディオゴだけでなく、多くの者達がその者の声のする方向を見つめた。
「まさか・・・嘘だろ?」
アナサスが漏らした一言も吸い寄せられる程の驚きが立ち込める。ゲオルクの背後に、毛艶の良い貴公子然とした白い兎面がそこにはあった。
・・・白兎人族王子セキーネ・ピーターシルヴァニアン・・・立っていたのは彼その人であった。
黒兎物語
79 再会と決別・・・そして償い
ディオゴは飛びかかる・・・不倶戴天の敵であるセキーネ。一度は取り逃がした男が今、ここに居る。
その瞬間、感情より先にディオゴの身体は動いていた。ただ一つ怨念を晴らすためだけに・・・
だが、それも既に見透かされていたようだ。
飛び出そうとした瞬間、ディオゴは仰向けに倒れる。
「ぐッおッ!!」
転倒するディオゴ・・・彼の足には見えない糸がかけられていた。
「クッ・・・ソッ! んだッ!!コリャあ!」
その糸をたぐりよせる者が居た。ネロだ。ネロはディオゴの右足にワイヤーを結びつけていたのである。
「殿下の身体には触れさせはしない。」
「やめろッ!」
ヌメロが飛び出そうとしたが武僧達に取り押さえられてしまう。
「くそッ! 離せッ!!」
武僧の一人がヌメロの延髄に手刀を喰らわせると、ヌメロは首をうなだれて意識を失う。
「ヌメロ!! ちくしょう!!クッソ!こんなもの!」部下のヌメロがやられたのに一瞬気を取られたが、すぐさまディオゴは立ち上がりワイヤーを切断しようとした。だが、それをネロは見透かしていたのかもう一本のワイヤーを引っ張る。
「うおッ!」
今度はうつ伏せに倒れ込む。右足のワイヤーと違って左足のワイヤーが後方の柱に引っ掛けてあったためだ。ディオゴにとって完全な死角である。
(クソッ! 二重に罠を・・・!!)
転倒した時には既にネロは視界から消え去っており、その瞬間に背中に凄まじい衝撃を受け、ディオゴは倒れ込む。
「がっ・・・!!」
ネロはディオゴの背中に文字通り馬乗りになると、肩甲骨に肘打ちを喰らわせ、そのまま全体重をかけてのしかかる。
「か・・・っ!」
倒れ込んだ拍子に顎を地面に叩きつけてしまい、
そこでディオゴの意識は途絶えた。
朦朧とした意識の中なのか、夢なのかディオゴは曖昧な意識の境界線を漂っていた。
「……ディオゴ、聞いているならば」
ゲオルクの声が聞こえる。
「気絶してるだろ? こいつ」
「構わん」
ガザミとゲオルクの声が聞こえてくる。
「・・・貴様のゲオルク軍での軍籍を剥奪しよう。どこへなりと行くがいい・・・そして貴様の仇は、恐らくアルフヘイム中枢にいる・・・・セキーネ殿下に協力しろとは言わんが、好きに動くがいい。誰も貴様を止められはしない……私もな」
(・・・そうか クビってことか・・・ハハハ)
目が熱く濡れていくのをディオゴは感じていた。
(煩わしいと思っていた ここでの暮らしももう終わりか・・・)
思い出されるのはゲオルク軍で過ごした日々だった。
(懺悔や悩みを聞いてくれたゲオルクのおっさん・・・獣人仲間の戦友で飲み友だったガザミ、ムザファール、白兎人族で唯一信頼していた元上官のノースハウザー・・・クソ生意気で一度ガン掘りしてやったアナサス・・・なんだかんだ言ってイマイチ好きになれなかったクルトガ・・・ ちきしょう。鬱陶しいって思っていたのに・・・お別れってなると寂しいもんだ・・・)
「ではさらばだ……友よ」
ゲオルクの背中が遠くへと小さくなっていくのを見送り、ディオゴの意識は途絶えた。
その瞬間、感情より先にディオゴの身体は動いていた。ただ一つ怨念を晴らすためだけに・・・
だが、それも既に見透かされていたようだ。
飛び出そうとした瞬間、ディオゴは仰向けに倒れる。
「ぐッおッ!!」
転倒するディオゴ・・・彼の足には見えない糸がかけられていた。
「クッ・・・ソッ! んだッ!!コリャあ!」
その糸をたぐりよせる者が居た。ネロだ。ネロはディオゴの右足にワイヤーを結びつけていたのである。
「殿下の身体には触れさせはしない。」
「やめろッ!」
ヌメロが飛び出そうとしたが武僧達に取り押さえられてしまう。
「くそッ! 離せッ!!」
武僧の一人がヌメロの延髄に手刀を喰らわせると、ヌメロは首をうなだれて意識を失う。
「ヌメロ!! ちくしょう!!クッソ!こんなもの!」部下のヌメロがやられたのに一瞬気を取られたが、すぐさまディオゴは立ち上がりワイヤーを切断しようとした。だが、それをネロは見透かしていたのかもう一本のワイヤーを引っ張る。
「うおッ!」
今度はうつ伏せに倒れ込む。右足のワイヤーと違って左足のワイヤーが後方の柱に引っ掛けてあったためだ。ディオゴにとって完全な死角である。
(クソッ! 二重に罠を・・・!!)
転倒した時には既にネロは視界から消え去っており、その瞬間に背中に凄まじい衝撃を受け、ディオゴは倒れ込む。
「がっ・・・!!」
ネロはディオゴの背中に文字通り馬乗りになると、肩甲骨に肘打ちを喰らわせ、そのまま全体重をかけてのしかかる。
「か・・・っ!」
倒れ込んだ拍子に顎を地面に叩きつけてしまい、
そこでディオゴの意識は途絶えた。
朦朧とした意識の中なのか、夢なのかディオゴは曖昧な意識の境界線を漂っていた。
「……ディオゴ、聞いているならば」
ゲオルクの声が聞こえる。
「気絶してるだろ? こいつ」
「構わん」
ガザミとゲオルクの声が聞こえてくる。
「・・・貴様のゲオルク軍での軍籍を剥奪しよう。どこへなりと行くがいい・・・そして貴様の仇は、恐らくアルフヘイム中枢にいる・・・・セキーネ殿下に協力しろとは言わんが、好きに動くがいい。誰も貴様を止められはしない……私もな」
(・・・そうか クビってことか・・・ハハハ)
目が熱く濡れていくのをディオゴは感じていた。
(煩わしいと思っていた ここでの暮らしももう終わりか・・・)
思い出されるのはゲオルク軍で過ごした日々だった。
(懺悔や悩みを聞いてくれたゲオルクのおっさん・・・獣人仲間の戦友で飲み友だったガザミ、ムザファール、白兎人族で唯一信頼していた元上官のノースハウザー・・・クソ生意気で一度ガン掘りしてやったアナサス・・・なんだかんだ言ってイマイチ好きになれなかったクルトガ・・・ ちきしょう。鬱陶しいって思っていたのに・・・お別れってなると寂しいもんだ・・・)
「ではさらばだ……友よ」
ゲオルクの背中が遠くへと小さくなっていくのを見送り、ディオゴの意識は途絶えた。