「っ!?」
ダニエルは目覚める。既に胸の傷は過去のものと化し、ケロイドの如くカチカチに盛り上がっていた。その傷は生えぬ胸毛の代わりに、雄々しさを醸し出していた。
(・・・夢か)
ダニエルは暫し過去を振り返る夢を見ていたことに気付いた。そして、自身が置かれている状況にも気付く。仏教の面影を大きく残すキリスト教あるいはギリシャ・ローマ神話風味の巨大な神像が見下ろす祭壇。
その前に敷かれた巨大な獅子の毛皮の絨毯の上で一人の黒髪の女と寝そべっていた。女は四つ角にそれぞれ余った髪を束ねている。上の二つ角は団子状で、下の二つ角は10cm程の三つ編みを2つの数珠付きの髪留めで縛っていた。ダニエルもその女も互いに全裸であることから 両者との間に肉体関係があるのは明らかである。ただ女の身体には激しい暴行の跡があった。滲んだ青痣にはひたすら 平手打ちから拳による殴打が刻まれたことを物語っていた。果実のように撓わに実った乳房とお尻には鷲掴みにされて握りしめられた手形がついている。乳房に至っては散々舐め回されたのか、涎の跡があった。よくよく見れば、髪の毛も少し乱れている。髪を引っ張られたのだろう。
こんなにも暴力の跡を刻みながらも、太股に挟み込まれた女の膣からはダニエルの精液がグツグツと煮えたぎったシチューのように零れていた。顔は全身よりも暴行の跡は少ないものの、口元には明らかに御奉仕の跡があった。幼な子の口元にこびり付くシチューの様にダニエルの精液がこびり付いていたのだ。
肉体的にも性的にも暴行を受け、女性というよりも性奴隷の如く扱われていた痕跡を残している筈なのに
その女の寝顔は何処か安らかだった。まるで、赤子のようにすやすやと眠りについている。
(なんてツラしてやがる)
自分でこんな非道いことをしておいて何だとは思うが これ程の激しい暴行を受けて少しは辛い表情をしろよとダニエルは思った。いつもいつもこの女は暴行混じりの激しいセックスの最中、歓喜の喘ぎ声をあげている。正真正銘のドMのマゾ女なのだ。この女は同性の女からも理解されない性癖を抱え、その苦しみから解放されたいと願っていた。名はカタリーナ・モンテネグロと言った。
イタリア系のサンタカタリーナ州育ちの箱入り娘だったこの女は 父親の単身赴任先のリオデジャネイロを訪れた際に、カーニヴァル真っ只中で全裸で踊り狂う女達を羨望の眼差しで見つめ、とうとう露出に目覚めた。路地裏での露出はやがて公開オナニーへとエスカレートし、彼は成り行きで行きずりの男にセックスを求めることになった。ただ、行為に及んだものの、満たされずレイプのように激しくしてくれとリクエストし、ようやく彼女は果てることができた。それまで勉強尽くしで男遊びをすることも許されなかった彼女の精神はその抑圧の捌け口として、性奴隷の如く扱われることを選んだ。
当然の如く、実家からは勘当され喰うに困ったこの女は売春婦という道を間に狭みつつも、最終的にこのダニエルの許へと漂着したのである。
(・・・ムカツく女 此処まで来るとバカにされてンのかって思うぐらいだよ)
ダニエルは呆れながら、この暴力を目前で静観していた神々の石像に中指を立てた。