Neetel Inside ニートノベル
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ミシュガルドを救う22の方法
最終章 世界を救う9つめの方法

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 ダートとラビット、森を歩くのに慣れたエルフのふたりがいないだけで一行の足取りは重い。スティームシティにつく頃にはすっかり夜は更けていた。

 
 髪が焼けるいやな匂いがする。それが何かはあまり考えたくない。わずかだが硝煙の匂いもする。スチームシティは最期まで抵抗したのだろう。
 動いているローパーの姿は見えない。城壁に激突したまま息絶えているローパーの横をすり抜け街の中へと入ると、そこは地獄だ。
 兵舎は倒され、戦旗は引きちぎられ、ぺんぺん草1本残っていやしない。ただ裸にむかれた兵たちの亡骸だけが残されていた。生気を吸いつくされ、働き盛りの兵の顔は病床の老人のように朽ちている。
 メゼツ一行が駆け付けたときにはすでに死体の山が出来上がっていた。ローパーや女型のローパーのローペリアと人間の遺体が混然一体となって街道の石畳を埋めている。
「くそっ、間に合わなかったのか」
 口を真一文字結んで絶句するメゼツを冷静なスズカが促す。
「生存者を捜索しましょう」
 メゼツは力なくうなづくと、叫んだ。
「誰か生きている奴はいねえのかーーーーーーーー!!!」


 メゼツたちは手分けして生存者を探すも結果は思わしくない。
 だんごになって玉突き事故を起こしているローパー。中央広場の時計台にモズの速贄の如く突き刺さったフライングローパー。どちらを向いてもローパーの死骸か遺体しか見当たらない。
 弁解するようにケイトがつぶやく。
「そんな、ローパーは大人しくて優しい生き物なのだ。戯れに人を襲っても殺してしまうことはないのだ」
「ローパーの生態は完全に解明されてねえが、男女問わず襲いかかり獲物が死ぬまで生気を吸い取るのは変だ。確かに何かおかしい」
 あの魔触王事変ですら死傷者は出していない。しかしスティームシティがゆっくりゆっくりとローパーの群れに蹂躙されたであろうことは、目の見えぬメゼツにさえまぎれもない事実であると理解できた。


「生き残りがいる!」
 城壁跡地を捜索していたスズカが応援を求めたため、いったん合流したメゼツたちはすぐに急行した。
 スズカは裸の少女を助け起こす。ラビットが応急処置を施すが、少女は虫の息で長くは持たなそうだった。
「遅かったわね」
 うつろな目をした少女がかさつく唇からしゃがれ声をひねり出す。
 仲間たちがかけより、少女に話しかける。
「おい、しっかりしろ。何があった」
「あたしはアイリス・ドープ。痛覚干渉魔法でローパーを操って、この街を襲わせた。みな快楽に溺れれば争う気なんてなくなると思ってね。でも急にローパーがいうことを聞かなくなって暴走し始めた」
「お前かーーーー!!!」
 アイリスに詰め寄るメゼツをロメオが首を振っていさめた。命の尽きようとしているアイリスに好きに話させてやろうと言うのである。
 アイリスが痛覚干渉魔法の力に目覚めたのは戦争中、目の前で両親とふたりの弟が生きたまま燃やされたときだった。家族を殺した甲皇国兵が目の前にせまり、いやらしい顔で幼いアイリスに嗜虐心をぶつける。アイリスの細く白い首にかけた手に力をこめる皇国兵の顔は愉悦に満ちていた。悔しさと苦しみの混沌の中で、なにかが生まれ出る。首を絞めていた兵士のほうが白目をむき、泡を吐いて転倒し死んだ。
 初めは何が起きているかわからなかった。
 生き残るためだけに力を使い続け、自分のトラウマと引き換えに相手に痛みを与えていることを理解していく。
 機械兵にはまったく効かず意志の強い人間に対しても効きにくい力ではあったが、ほとんどの者が痛みにひれ伏した。
 やがて戦争は終わり、アイリスはなぜ自分にこんな力が与えられたのか考える余裕を得る。自分の家族の命と引き換えに得た力。この力は戦争をなくすために使われるべきだ。
 甲皇国とアルフヘイムの和平が進み、獣神帝という脅威に対して三大国は協力しあっているといううたい文句を信じ、新たに発見されたミシュガルド大陸にアイリスはやって来た。
 しかし現実は水面下での暗闘のすえ、甲皇国はアルフヘイムのアーミーキャンプを襲い、再び禁断魔法は放たれている。
 アイリスは自分の力が何のために与えられたのか確信した。
 自身が獣神帝のように人類共通の脅威となれば、三大国は再び協力するに違いない。自分にはその力があると。
「なんでそんな回りくどいことをするんだよ。アルフヘイムの中に三大国で協力することに賛成の奴はいなかったのか?」
 アイリスは笑う。自嘲するように。例え正しいことでも万人に受け入れられるとは限らない。
「耳は削いだ。誇りも捨てた。まさか人間になりたかったわけじゃない。もうあたしに帰る場所は要らなかったんだ」
 空が白む。アイリスの願いもむなしく、今もどこかで戦争は形を変え続いている。それでもまた日は昇り、世界を黄金に輝かせるだろう。
 ローパーの亡骸を苗床にして、精霊樹の芽が鎌首をもたげている。

(終) 

       

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