黒兎物語 ~ラディアータ~
絶望の再会
ミルトン・クレスト商会からアーネストがダニィとモニークのハネムーン先を嗅ぎ回っているという知らせを受けたのは、奴が出発してから1時間後のことだった。奴は金をバラ撒いて雇ったチンピラ達と共に商会に押し入り、会員達を監禁。会長を拷問して2人のハネムーン先を自白させた。この際に、嘘をつけば家族を殺すと脅迫する程の念の入れようである。去り際にチンピラ共を商会員達の目の前で殺し、自分が去ってから1時間も経たない内にコルレオーネ家か総督に通報したら商会を粉々に吹き飛ばすと脅迫した。(もちろん、ハッタリであるが彼が日頃から行なっていた犯罪旅行という前歴が奴のハッタリを真実と錯覚させてしまった。)奴は商会の馬小屋に居た一番足の速いカヴァーリョ・デル・コリーリョ(兎馬、ロバという意味ではない。兎と馬を掛け合わせハーフ獣、馬の4倍のスピードで走れる生物であることから重宝されている)を強奪すると残りのカヴァーリョを鏖(みなごろし)にし、追っ手を遅らせようと企んだ。全ては順調に進み、商会員が事の真相をコルレオーネ家に伝えた時には奴は既に黒兎人族の里から逃げおおせた後だった。
急いでカヴァーリョを使って奴を追跡しようとするも、肝心のカヴァーリョは奴に始末された後だった。やむなくディオゴは馬を使って、アーネストを追おうとする。だが、男の4倍のスピードを誇る兎馬に追いつける筈などなく、ディオゴよりも4時間早く現場に着いたアーネストは2時間に渡り、モニークに激しい性的暴行を加える。事を済ませたアーネストは自分の指を切断し、そこから出血する血で馬車にディオゴへのメッセージを残すと、余った2時間を使ってゆっくりと険しい兎ヶ谷を下り、ディオゴを回避。その足で駐屯地に向かった。復讐にやってくるディオゴを待ち受けるために。
ディオゴとその仲間達が道中、絞殺され投げ棄てられた御者の遺体を発見する、それは最早全てが手遅れであるという何よりの証であった。
「嘘だ!嘘だっ!!」
残酷な現実を受け止められず、ディオゴは目に涙を浮かべながら馬の尻を叩きあげ、馬車の許へと向かう。
(無事で居てくれ!! モニーク!!)
馬車の陰が見えるなり、ディオゴは咆哮のように大きく悲痛な声で、モニークの名を叫んだ。
この目で見るまでは決っして諦める訳にはいかなかった。だが、そんな彼の切実な希望も直ぐにうち砕かれた。
「モニーク・・・」
彼の目に飛び込んできたのは、血塗れで倒れるモニークの姿であった。
動揺する彼の目に同じく血塗れで昏倒するダニィが目に入る筈もなかった。
「あっ ああっ!!」
慌てて馬から飛び降りたが故に、足首を骨折したことに全く気が付かぬ程、ディオゴは大きく取り乱した。まるで、肉風船のように腫れあがった顔をしたモニークの許へと駆け寄った。
「うぁああっ! モニーク・・・っ!
モニークっ!!」
最早 発狂などという言葉では生ぬるかった。ディオゴは絶望のどん底に叩きのめされ、ディオゴは窒息寸前まで泣き叫んだ。その姿を見た仲間をの一人は、禁断魔法の爆心地で亡くなった我が子を抱きかかえて狂乱する親のごとしだったと語る。
「うあァああァアア! いやだ!!
こんなの いやだああっ!! モニークぅっ・・・・・・モニーク!!・・・・・・ぅああァあっ!」
血塗れの肉人形に変わり果ててしまった最愛の妹モニークの頭を抱き締め、阿鼻叫喚の慟哭をディオゴは挙げた。
取り乱すディオゴに誰も声をかけることなど出来なかった。30分泣き叫んだ後、妹を抱き締めたまま、ディオゴは気絶していた。気絶しても決して最愛の妺を放すことなく抱き締める兄ディオゴの姿に仲間達も心打たれ、溢れる涙を止めることが出来なかった。だが、このままではまだ息があるモニークを救ってやることができない。泣く泣く仲間達もモニークをディオゴから引き離し、容態を同じくするダニィと共に先行してコルレオーネ村へと2人を搬送することにした。
目を覚ましたディオゴは気絶していたことを知り、残された馬車と共に村へと帰還する。そして、その馬車に残されたメッセージからアーネストの居場所を知った。
「駐屯地で待ってる」
そう記されたメッセージの通り、ディオゴは奴を血祭りにあげるために駐屯地へと向かった。
全てを終わらせるために