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「愛は寛容にして慈悲あり、愛は妬まず、愛は誇らず高ぶらず、愛はいつまでも絶ゆることなし たとえ苦難に満ちた時代に生きようとも・・・愛は苦難に勝る。愛は全てである。」
ラディアータ教の聖書の一節を詠み上げる司祭は、黒い熊のような体躯を震わせていた。黒の体毛に覆われ、褐色の肌をした顔面だけが露わになった面構えから彼が兎面の黒兎人であることは容易に分かった。
190cm、体重も100kgは越えるであろう巨漢振りに加え、炭のように真っ黒な体毛に覆われた手足と、黒い下地に彼岸花の刺繍が施されたアルバの祭服が集結したその姿は兎というよりは、熊の亜人さながらであった。彼はこの村の村長であり、黒兎人族族長のヴィトー・J・コルレオーネである。ツィツィ・キィキィの父方の伯父で、ディオゴとその妹である新婦の父であり、新郎のゴッドファーザー(後見人)である。云わば今回の新郎新婦の結婚は、彼ヴィトーにとって実に感慨深いものであった。
新郎の名はダニィ・ファルコーネ。齢は14歳。感極まり半泣き顔の彼は、顔こそ人間面で、八重歯の尖った牙、茶髪と褐色肌に4つの兎耳を持つ黒兎人だ。だが、背中からは半身程もある蝙蝠の翼が2つ生えて.。2つある筈の人耳は、彼には無かった。
兎よりも蝙蝠の特徴が目立つ黒兎人族の少年である。音楽家マテウス・ファルコーネの息子である彼は亡き父の後を継ぐかのように音楽家の道へと歩んでいた。
ロンロコギターを奏でるその姿は、多くの黒兎人達の心を揺さぶり、
披露宴や祝事では引っ張りだこだった。故に、彼はその収入で稼いでいた。〕そんなダニィの姿に憧れ、結婚を決意した少女が居た。
新婦の名はモニーク・J・コルレオーネ。齢は10歳。褐色の肌、6つ耳、黒みがかった茶髪、人間面の典型的な黒兎人の女の子だ。幼いながら亡き母親の代わりに料理と家事をこなすしっかり者である反面、のんびりしている時は超が付く程とても穏やかで一緒に居ると釣られてこっちまでのんびりしたくなる、また風邪を引いたり、疲れてる時にはとことん甘えてくるといった男心をくすぐる可愛らしい年頃の女の子だ。
ダニィと出会ったのは5年前、彼の父マテウスがダニィを連れて遊びにきたのがきっかけだ。当時5歳だったモニークはロンロコギターを奏でる当時9歳のダニィの姿に憧れを抱き、恋仲となった。
語りつくせばキリが無い程の想い出がヴィトーの胸に去来する。
「モニーク・J・コルレオーネ
貧しく 苦しく 心折れ 大地に肘をつき 絶望に打ちひしがれた時も 夫ダニィ・ファルコーネと共に生きることを誓いますか?」
ラディアータ教の愛の契りの言葉を一つ一つ紡いでいく父ヴィトーを
優しげにモニークは見つめていた。そして心配しないでと語りかけるかのように彼女は微笑みかける。
「・・・誓います」
モニークの言葉にヴィトーは亡くした妻カルメラの面影を見た。
モニークを生むと同時にカルメラは容態が悪化し、2日後亡くなった。亡くなる寸前、カルメラはヴィトーとその息子ディオゴに懇願した。
「モニークを・・・どうかお願い・・・どうか、私の代わりにこの娘を立派に育てて・・・」
ヴィトーの腕にすがりつき、カルメラは娘の成長を見られない無念を嘆きながら、彼女は懇願した。