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父ヴィトーへと、兄である自分への感謝の言葉を涙ながらに語るモニークを見つめながら、ディオゴは自分のこの卑しい劣情に苦しんでいた。だが、妹の晴れ舞台だ。コルレオーネ家からファルコーネ家へと笑って送り出してやらねばならぬ。一生に一度の門出なのだ、妹モニークにとって、兄である自分に祝福してもらいたい筈だ。必死になって作り笑顔を振り撒いた。だが、いつの間にか地を見つめて劣情の渦にいる自分に気付く。その度に、蟻地獄の流砂の上を必死にもがく蟻のように、ディオゴは渦から抜け出そうと必死だった。己の欲望へと吸い寄せられるのを無理矢理 拒絶する行為は苦痛でしかない。
「ディオゴっ!ディオゴっ!」
従姉のツィツィに引き戻され、ハッと我に返るディオゴ。その視線の先には美しいウェディングドレスに身を包んだモニークが居た。
「・・・・・・」
ディオゴは未だにあの時のモニークの眼差しが忘れられない。
モニークの目は兄への感謝の念というにしては、あまりにも思いつめたように、悲しげな目をしていた。
まるで何か謝りたいことでもあるかのように、辛そうな光を放っていた。
「・・・モニーク?」
兄が自分へと抱く劣情を少なからず
この娘は察知していたのだろう。
だが、実の妹ゆえに応えることの出来ない劣等感に少なからず悩んでいたのだろう。
兄に向かって微笑みかけると、モニークはブーケを手に取り、空中へと投げた。多くの黒兎人の娘達が自分も結婚出来るようにと、ブーケをキャッチしようとするのを余所に、
ディオゴは妹からの手向けのブーケを受け取っていた。
モニークはディオゴがブーケを受け取るのを見ると、心の底から安堵したかのように優しく微笑み、馬車へと乗り込んだ。
「モニーク・・・っ」
兄の愛に応えられないのなら、
せめて兄の幸せを願おうと、
兄の心を癒やしてくれる女性が現れてくれることを精一杯祈ろうと。ブーケを握り、ディオゴは妺モニークの精一杯の愛を噛み締めた。ディオゴは劣情を抱いていた自身を大いに恥じ、堪らず溢れる涙を必死に堪えながら、近くにいた従姉のツィツィにブーケを手渡し、何処かへと歩いていった。