Neetel Inside ニートノベル
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社畜山田のXファイル
エレベーター(社内)

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 時計に目をやると23時を回ったところ。やっと会社のビル前に到着するも気分は最悪。
 会社から自宅へ電車で1時間弱。車内で残業を終え、22時くらいだったろうか、片付かない仕事に見切りを付けて家路を目指すことにした。30分ほどで乗り換えの新宿駅で電車を待っている時ある事に気づいた。上着、鞄、ズボンを3往復程。家の鍵が無い。
 そりゃあそうだった。 
 開かない工具箱に押し挟めてテコ代わりに踏ん張っていた昼間の俺を殺してやりたい。

 エレベーターに乗ると2Fを押す。が、押せない。正確には押せるが反応が無い。故障ではないのはすぐに分かった。俺はこれを経験する機会が良くある。忘れ物の常習という訳じゃなく、朝とかね。

 ビル自体は比較的古いが、オフィスビルというだけあってセキュリティはしっかりしている。
 入口は正面玄関のみ。入るとすぐ左手に各フロアのカード挿入口がある。ここにカードを差し込んでセキュリティ解除の緑ボタンを押すと1基しかないエレベーターで該当するフロアを選択出来る仕組みになっている。1フロア1社貸しなので、1階のフロント共有部を除いて7社がここに籍を置いていることになる。
 
 手順通り行うと今度は2Fのボタンを押すことが出来た。
 自分で解除している以上、社内に誰もいないことは分かっていたが、静まり返る空間はあまり気持ちの良いものではなかった。作業に終わりが見出せず、一人、また一人と見送って最後になるのと、入ってみると暗闇に一人ではどうも気分が違う。

 鍵はすぐに見つかった。帰宅前に整理していた自分を殺してやりたい。普通にデスクの上に置いてある。椅子に腰掛け、昼間飲みきれず蓋をした缶コーヒーを手に取り小休止。なんだか気が抜けた。
 
 しかし、わずかでも自宅のベットで睡眠が約束された訳だからこれで一安心。あまり長い事ボーっともしていられない。今度は終電に間に合うよう急がねば。

 エレベーターの下降ボタンを押すと1Fで停まっていたエレベーターが動き出す。周囲で物音一つないと上昇音までしっかり聞こえる。扉が開くと1Fを押す。ランプは付いたが上に進みだす。終電まで時間が無いのに面倒だ。とは同乗する人に言えるわけもなく、笑顔で迎える準備を整える。
 最上階の7Fまでエレベーターは上がり扉が開く。しかし、目の前には会社受付が緑の非常灯に照らされた薄暗い空間が広がるだけ。一応、開延長のボタンを押しながら周囲を覗くが誰もいない。延長ボタンを離すとすぐに扉は閉まりそのまま1Fまで下った。
 
 カードを差し込むと、今度はセキュリティ開始の赤ボタンを押す。すると録音された女性のアナウンスが流れる。

『当ビルフロア最後のセキュリティが開始されました。退出後、扉が自動でロックされます』
 
 へえ、これは初めて聞いた。
 普段遅くまで残業して戸締りすることはあったが、誰かしらビル内にはいたんだろう。

 外へ出て後ずさりながらビルを見る。玄関も非常灯に変わり益々不気味だ。このまま明日の朝まで無人だろうこの人工物にも意識があったら、何か特別な体験をすることはあるんだろうか。

 俺自身感じる違和感は思い返さないでおこう。
 そうだ、帰りにバスクリンを買って風呂に入ろう。睡眠は量よりも質だと偉そうな人がテレビで言っていた。今週始まったばかり。疲れてなどいられない。
 

       

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Neetsha