Neetel Inside 文芸新都
表紙

じんせいってなんですか?
エターナル・ガール

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中島 五月(なかじま・さつき)――――――20歳・大学生。
後藤 美央(ごとう・みお)――――――――20歳・大学生。
谷内 俊也(たにうち・しゅんや)―――――20歳・大学生。
佐伯 春菜(さえき・はるな)――――20歳・喫茶店の給仕。


















秋の終わり頃、昼下がりの人気が少ない、古臭い喫茶店。
店の中ではずっとラジオが流れている。
中央にテーブルと長椅子が二脚ある。
テーブルにはコーヒーとカプチーノ、食べ残されたケーキが載った皿がある。
テーブルを挟み向かい合いながら、落ち着きがなさそうに店の内装を忙しなく見る中島五月とスマホを退屈そうにいじる後藤美央が座っている。

美央、スマホをいじるのを止め、食べ残していたケーキを少しずつ頬張る。
美央、ケーキを食べ終わり一息をつき、フォークで五月を指す。
ラジオの音を次第に消していく。

美央「…でさぁー」
五月「あ。う、う、うん」

五月、少しキョロキョロと廻りを見渡し大きく呼吸をする。

美央「こんなところに呼び出して、何のつもりなのぉ。ねぇ?」
五月「あ。…ま、まぁそう怒らないで。物事には順があるでしょ」

五月、コーヒーを飲む。

美央「そう?」
五月「ま、順を追って説明をしていくと」
美央「うん」

五月、コーヒーを飲む。

五月「俺と美央はカップルじゃないんだ」
美央「は」
五月「付き合ってない」
美央「え?」
五月「だから俺らは彼氏と彼女の関係じゃない」
美央「え、え、ええ、え、えええ、え、え、え、え、え???!!!!」
五月「どーどー。そんなに動揺しない、しないの。あ、カプチーノまだ飲む?」
美央「の、の、のむう……」
五月「(下手に向かって)あのー」
春菜「はーい」

春菜、下手から入る。

五月「コーヒーとカプチーノお代わりで」
春菜「はい、かしこまりました」

春菜、コーヒーとカプチーノを運ぶ。
五月、コーヒーを飲む。
美央、カプチーノを飲む。

美央「……えっと、つまりどういうことなの?」
五月「言ったままだよ。俺らはカップルではありませんでした。チャンチャン♪」
美央「チャンチャン♪ って、馬鹿ーーー!!!!! 馬鹿!!!!! 馬鹿馬鹿!!! そしたらあの時したあの事だってあれこれそれだって、え、えええええ、さ、さささささ、さささささっさ」

美央、理解できずに立ち上がってうろうろする。
五月、美央の行動を理解が出来ずに視線でキョロキョロと美央を追う。

美央「あ、遊びだったのねーーー!!! 馬鹿ーー!!!」

美央、五月の頬を叩こうとする。
五月、間一髪で回避をする。

五月「あ、あぶない」
美央「え、いや、ま、待ってよ、待って、あ、あ、あああ、あ」
五月「おちついて、深呼吸して」
美央「……」

美央、深呼吸をし、席に座る。先程よりは落ち着いた様子。

五月「まぁ、俺だってまだ話す事あるよ、勝手に自己完結しないで」
美央「え、そ、そうなの、そ、そうだったら早く言ってよ」
五月「んー、でも、何て説明すればいいんだろう」
美央「えー、もう! じれったいなー」

五月、コーヒーを飲む。

五月「あ、うん。言っちゃえば、そう。…恋愛シチュエーションゲーム?」
美央「は?」
五月「あ、いや、いやいや。え、う、うん、まぁ、自分好みのキャラクターと恋愛できる点においては、相違はないかなって、うん、そういう意味で選んだワードなんだけど。あ、の、あの、誤解生んじゃった? まぁいいけど、うん。まぁ、まぁ、まぁ、なんていうかさぁ、美央はこの瓶(瓶を出す)から為っているんだ。何ていうか、ちょー科学的でしょ。ハイテクノロジーでしょ。こんな瓶に入ってるものから人間が出来ちゃうんだから」
美央「え? なに(瓶の封を開けて、嗅ぐ)この瓶」
五月「アルコール臭いでしょ」
美央「うん」
五月「でしょ。アルコール」
美央「しーつー、えいちしっくす、おー?」
五月「エタノール?」
美央「うん」
五月「C2H6O。エタノールの化学式だね」
美央「エタノール?」
五月「あ、そう。作製の仕方はそう、えっと、この瓶にある中身を風呂に流しこんで、まぁ待つ事三分。そしたら美央がワッと湧き出るんだ。それはもうワッと」
美央「ワッと?」
五月「んで、名称は、エターナル・ガール」
美央「永遠の少女?」
五月「そう。永遠なんて名を語ってるくせに、作製時間はインスタントラーメンってとこが、変でしょ、なんか。んで瓶からはエタノールの香り。エターナルとエタノールを……、かけてね」
美央「うん。三分で、私って作れちゃうんだ。本当に非科学的だけど、でもすごくそれ以上に魅力的」
五月「あ、そう、多分。あ、多分じゃないけど。多分。…まぁ、んで、美央は今日、お試し期間が終わるんだ。よくあるでしょ? 今お申し込みをされた初回の方のみ、1週間分をお送りします! って。まぁ、美央の場合2週間なんだけどね。まぁ、だから俺は美央の正体を言ったんだ。だって、お試し期間が終わったら、どうせ俺の事忘れちゃうんだし、それなら、言った方が面白いかなぁって。……あ、これって、楽観的って言うんだよね、いや、でも、うん。忘れちゃうんだし」
美央「忘れる?」
五月「忘れるっていうか、なんていうか」
美央「なんというか?」
五月「消える」
美央「え」
五月「あ、でも、これ、お試しのやつだけだから。消えるとか」
美央「私がお試しのやつだって、さっき、あなたが言ったよね」
五月「…………あ」
美央「でも、消えるってなに?」
五月「さぁ…。俺はあんまり分からないよ。エタノールが蒸発するみたいにエターナル・ガールも蒸発して消えるんじゃない。わかんないけど。んでさ、美央の右にある(指す)、コード。そのコードさえあれば、ガールの乗っ取りとかコンディションとか、まぁ、いっぱいできるってわけ」
美央「へー、科学的」
五月「でしょ。まぁ、何ていうかそういうの」
美央「そういうの、なの?」
五月「うん」
美央「なんとなーく分かったけど、なんとなーく」
五月「だ、だから…うーん、恋愛ゲームっていうより…、あ、ウーン、出会い系なのかな? 好みの女の子をセレクト出来るって考えたらだけど。いやぁ、…あ、でも、キャッチコピーは、あれ、〈君と私。思い通りの恋愛をしてみない?〉だったはずだけど」
美央「思い通りの恋愛?」
五月「あ、うん」
美央「フーン。…あなたにとって、この二週間は思い通りの恋愛だったの?」
五月「え、思い通り…、思い通りって言ったら、そうかもしれないけど。あ、でも、何ていうか、その」
美央「その?」
五月「あ。でも、なんていうか、普通に、楽しかった二週間だったとは思うけど…」
美央「そう。よかったね」
五月「う、うん。よかったな。すっごくよかった……」
美央「ま、あなたがよくても私は消えるんだけどね。あははー」
五月「う、うん……」

気まずい雰囲気が流れる。

美央「あははは、冗談だってば。そんなに真に受けないでよ」
五月「ほんとに?」
美央「うん」
五月「そっか……、よかったぁ」
美央「私もあなたと出会えてよかったし」
五月「美央……」

五月、コーヒーを飲む。
二人、楽しそうに駄弁る。



五月「えっと。まぁ、俺から言う事はこれで全部だと思うけど、何かある?」
美央「あ。そしたら最後に、私の事を教えてほしい」
五月「後藤美央でしょ?」
美央「それぐらい分かってるよ。なんかこう、さ」
五月「でも、その、戸籍にもちゃんと後藤美央は存在してる。後藤理央と後藤武の一人愛娘として」
美央「うん」
五月「大学生で、あ、俺と同じキャンパスだよ、美央は経済で。あ、俺は、そのぉ、法学だけど。まぁ、高校の時同じクラスだったけどそこまで話す機会が無くて、同窓会で会って、話がすごくあって、そこから付き合いだしたっていう設定。だから彼氏は俺」
美央「あぁ、うん。そうだけど。それぐらい私も分かってる」
五月「えっと、他言う事ある?」
美央「え、えぇ、そのぉ…んーと…」
五月「あ、ちなみに使っているシャンプーの銘柄だって言えるけど」
美央「なんで?」

五月、コーヒーを飲む。

五月「え。そんなの、俺が美央の所有者だからに決まってるでしょ」
美央「えー、きもー。(冗談気に)そしたらシャンプー、言ってみてよー」
五月「近所の薬局で買った540円のエッセンシャル」
美央「きも」
五月「え、えぇ、だって、所有者だからだよ……」
美央「フーン。そしたらその、ショユウシャってやつは何でも知ってるの?」
五月「まぁ、多分」
美央「そしたら言ってみてよ」
五月「……うーん」
美央「ほらほら!」
五月「…何回、俺の事を考えたとか?」
美央「わっ、ノロケだ」
五月「データ化、されて見れるの。何時にこんなこと考えてたーとかさ。一時間置きにメールとして送られてくるの」
美央「え、すご。それって見せてくれるってことは?」
五月「……うーん、それはちょっと」
美央「えー。んじゃぁ、今何考えてるか分かる?」

五月、コーヒーを飲む。

五月「え。んー、おなかへったーとか?」
美央「…………あ。うん、そうかも」
五月「ほら。んじゃ何か食べる?」
美央「いや、いい、太っちゃう」
五月「そう?」

五月、コーヒーを飲む。

五月「…まぁ、そんな感じで、俺と美央は、そんな関係っていうこと。分かった?」
美央「うん、なんとなくわかった」
五月「そう。あ、えっと、その、えっと………、エターナル・ガールって、その、いわゆる、闇商売で…、だからその、あんまり口外しない方がいいかも、っていう、そういうのなんだけど」
美央「大丈夫、私、言わないよ。私のこと、信頼してないの?」
五月「あぁ、ううん、そういうわけじゃないんだけど……、よかった」

五月、コーヒーを飲む。

美央「ずっと、コーヒー飲んでるね」
五月「あ。あ、そうかも。あはは」
美央「苦くないの?」
五月「苦くない?」
美央「何言ってるの?」
五月「あ、あ、うん、苦くないよ」
美央「ふーん、苦くないんだ」
五月「あ、うん…」
美央「そっか。(席から立つ)んじゃ、私、これから行くとこあるから」
五月「どこ?」
美央「折角街に来たんだもん、服とか見たいなーって」
五月「そう、分かったけど」
美央「けど?」
五月「……けど、あ、え、あ…、何もないけど!」
美央「あはは、ナニソレ」
五月「なにもないよ、うん」
美央「そっか。でも、大丈夫だよ。ちゃんと戻ってくるから」
五月「え、あ。うん」
美央「そしたら…、あ、そうだった」
五月「なに?」
美央「あ。えへへー、ヒミツだよ。そしたら行ってくるね」
五月「え、う、うん」

美央、上手から出る。
五月、コーヒーを飲む。

五月「…………美央、消えちゃうのになぁ」

五月、携帯をいじる。
少しの間。



俊也、上手から入る。
カランカラン、といった軽いベルの音。

春菜「(声のみ)いらっしゃいませー」
五月「え。あ、俊也!」
俊也「おーおー。誰かと思えばお前か。おー」

俊也、五月の前に腰を下ろす。

俊也「久々だなぁー、元気にしてた?」
五月「会ったの、昨日ぶりでしょ」
俊也「そうだけど。でも、それ言うのが社交辞令だろー。(下手に向かって)あ、すいませーん」

春菜、入る。

春菜「はい、ご注文はお決まりでしょうか?」
俊也「ミックスジュース」
五月「コーヒー」
春菜「はい、かしこまりました」

春菜、下手に戻る。

五月「エターナル・ガール」
俊也「えたのーる・がーる?」
五月「エタノールは、しーつー、えいちしっくす、おー」
俊也「は? なんじゃあそれ」
五月「エタノール」
俊也「エタノール?」
五月「字面、そっくり」
俊也「あーね。…あ。で、エターナル・ガールって、なんだっけ」
五月「永遠の少女」
俊也「わーお。アニメみたいな口説き文句」
五月「でも、正式名称は確かそうでしょ。エターナル・ガール、って」
俊也「ふーん。あぁ、そー」
五月「俊也、持ってたっけ」
俊也「いや、それはもちろん持ってるけどさ、でも、あれ、欠陥じゃん」
五月「欠陥?」
俊也「ずっと、老わず、死なない、なんてさー」
五月「それって、フリーザだよね?」
俊也「ついに私は永遠の命と若さを手に入れたのです! オーッホッホッホッホ!」
五月「あはは」
俊也「モノマネやらせといてその態度はマジで、ない」
五月「正直言って微妙の出来だよ」
俊也「わはは。言うなーお前ー」
五月「ていうか俺はやってと頼んだ覚えもないよ」
俊也「おーまーえーなー」

俊也、五月にじゃれながら掴みかかる。

五月「あは、あはは。ごめん、ごめんってばぁー」
俊也「ゆるさねー」

春菜、気まずそうに下手から給仕をしに来る。

春菜「……すいません、失礼します」

春菜、ミックスジュースとコーヒーを置く。
俊也、ミックスジュースを飲む。
五月、コーヒーを飲む。



俊也「んー、さっきから来てくれる給仕の子可愛いよなぁ、俺ナンパしちゃおうかなぁー」
五月「佐伯さん?」
俊也「佐伯? へー、そういうんだ。つーか何で名前知ってんの?」
五月「名札」
俊也「あぁなるほど。俺声かけちゃおうかなぁー」

春菜、再度席の前を通る。
俊也、席から立つ。

俊也「なぁ、佐伯さん」
春菜「え、あ、はい! 何のご用でしょうか」
俊也「突然なんだけど、俺と話、しない?」
春菜「ハナシ?」
俊也「ちょーっとだけでいいからさ。ね?」
春菜「すいません、仕事中なので」
俊也「ちょっとだけって、言ってんだろ」
春菜「でも」
俊也「理解、できてんの?」
春菜「でも……」
俊也「あー、ま、とりあえず腕、見せろって」

俊也、無理やり服の裾をめくる。
そこには、バーコードが表記されている。

俊也「へー。このコードって事はさー、もしかしてのもしかして捨てられたわけ?」
春菜「す…、捨てられ? え、あなた、何言ってるんですか?」
俊也「末に4と9ついたらーって、あ、これまだ公開してない情報だったっけ? あっは、ははー、言っちゃったー。内緒だぜ、これ……」
春菜「ほんとうに何言ってるんですか、あなた…」
俊也「まぁそんな事はどうでもいいや。とりあえず、俺と付き合わない?」
春菜「つきあ…、は? なに?」
俊也「フリーなんでしょ? いいじゃんいいじゃん」
春菜「え、え、え?」
俊也「オッケーって事でいい? いいよなー。どーせこのままいったら、バイバイなんだからさぁ」
春菜「え、ま、待って下さ―――」

俊也、携帯をいじる。

俊也「オッケー」
春菜「……俊也さん?」
俊也「そう。俺は谷内俊也だよー。キミの彼氏。君の名前は…、あぁ、佐伯春菜ねー」
春菜「はい、春菜。春菜っていいます。俊也さん、大好きです。チューしましょう」
俊也「へへー、何か困っちゃうなぁ」

春菜、俊也の腕に絡める。
二人、席に戻る。

俊也「まぁこんな感じ?」
五月「さいてー」
俊也「だって俺みたいなのがさぁ、拾ってあげなくちゃ蒸発エンドだぜ? それよりマシだっつーの」
春菜「何のお話しているのですか?」
俊也「春菜には関係のないことだよー」
春菜「そうですか。(五月に指差す)あなたはだれですか?」
五月「俺?」
春菜「はい。俊也さんとどんな関係ですか?」
五月「腐れ縁?」
俊也「そうそう。それ。小さい頃から大学までずっと一緒の腐れ縁」
春菜「へぇ。とっても仲がいいのですね」
俊也「そうなのか?」
五月「そうかもよ」
春菜「ふふ。面白いのですね」
俊也「あ、性格の設定してなかったわ。そりゃスタンダードな喋りになるわけだ」

俊也、携帯をいじる。

俊也「おーい春菜」
春菜「なぁに、俊也ぁ」
俊也「もー、しゅんちゃんだろ。春菜」

春菜と俊也、じゃれあう。
五月、コーヒーを飲む。



五月「なぁ、俊也」
俊也「なんだ」
五月「…あの、すんごく、野暮ったい事、聞くんだけど」
俊也「野暮な事、聞いてどうすんだよ。いいけど」
五月「その子で、エターナル・ガール所有するの、何人目?」
俊也「えーっと、1234…………あー、12?」
五月「一種の軍団だね」
俊也「俊也パーティーって呼んでほしいね。いや、12人もいると選り取り見取りちゃんだよな。いやー、見てて飽きないよ。毎日が俺を取り合っての喧嘩!」
五月「それって、いいの?」
俊也「いいに決まってんだろ。だって喧嘩の渦中には毎回俺がいるんだぜ? 俊也は私の! っていうやつのがそりゃもう。ハーレム、ってやつだなぁ。わはは。わははは」
五月「(首を傾げる)うーん……?」
春菜「12ってなんのことぉ?」
俊也「女の子の数」
春菜「春菜を合わせて?」
俊也「うん。美央、美央、美央、美央、美央、美央、美央、……んで、春菜ってわけさぁ」
春菜「へー」
五月「…」
春菜「そっか。そしたらその中の女で、俊也の一番になればいいんだねー」
俊也「そうそう。春菜はすごいなー。あはははは」
五月「はぁ…」
俊也「んだよ、その意味深なため息」
五月「いや、作り物としての性分がにじみでてるなぁって」
俊也「大らか、楽観的、一途?」
五月「大らか、楽観的、一途、じゃなくて、一括りして、バカ、でしょ」
俊也「あぁ、ソレソレ。バカ、ね。いやぁ可哀想だよなぁ」
五月「なんで可哀想?」
俊也「だって、こんなに人間そっくりでも、結局は俺とかの欲のはけ口だもん」
五月「はけ口って……」
俊也「いや、俺なんてまだマシよ。だって一応は人間として彼女として扱ってるんだからさ。だって、俺の知り合い、ストレス溜まったらエターナル・ガール殴るんだぜ? ほぼサンドバッグ」
五月「えぇ……」
俊也「そいつが言うにはいくら殴っても殴っても、好き! 好き! ってずっと言うらしくて」
五月「うん……」
俊也「まさしく、奴隷ちゃん。洗脳済みってとこかな」
五月「そうだね……」
俊也「アイツ、今何してんのかなあ」
五月「(奇妙に笑いながら)まだ、殴ってるんじゃない?」
俊也「(奇妙に笑いながら)あー、殴ってそうだ」
五月「あはははは」
俊也「わはははは」
春菜「…」
俊也「…どうかした? 春菜」
春菜「聞いてて、とても楽しい話だなって、思いまして」
俊也「ふーん…、そうか?」

春菜、立ち上がりたどたどしい足取りで歩き回る。

春菜「とっても、面白い話です。私、とっても楽しいわ。とっても、とってもとってもとーっても!!」
五月「あれ…」
俊也「……ん?」
春菜「それは、とっても、楽しいお話なのです。あの人? 違うけど、違う、違うけど、あぁ、でも、あの人は、脳が、とろけるほど楽しく遊んでくれたわ。もしかしたら本当に溶けていたのかもしれないのだけれど。毎日のように愛されていまして、黒い、くろぉい箱に映るものは私に酷く笑いかけてくれて、箱に映るのは私の顔でしたけど、あぁ、でもその笑顔をはぎ取られるほど目の前が真っ白に刻々と満ちてしまいました、恐ろしくも、曲がっていく。みみず腫れが指先を伝って、体に焼き付いてしまって。何か美しいもので体が塗り替えられていくのが分かります。痛みだけが身に染みていくのです。でも、あの人は、笑ってくれました。その笑顔が好きなのです! その笑顔が私の一番の宝物なのです。私は、私は…、愛されていたのでしょうか。酷く、酷く、酷く…、でも、好きなんです、すっごく好き。殴られても好き。好きっていう気持ちには間違いはないのです。だって、私にあるのはあの人の好きっていう気持ちだけなんです。私を殴った後の笑顔が好き! 私のよだれで汚れた手を見て笑うあの人の笑う横顔が好き! だってその笑顔は私だけのものなのですから。でも、でも、それは好きに値するのでしょうか? 本当に……それさえも疑ってしまったら、私には……、何が残るんですか?」

春菜、うずくまって泣く。

春菜「……あれ、一体、誰の話、してるの、でしょうか」
俊也「はーぁ…、だめ、だめだろー、これ、だめだ!」
五月「あぁ。ダメ、ダメ。こんな欠陥品!」
春菜「何の話ですか?」
五月「ダメ、ダメ、ダメだよ! こんなの俺らの理想のものじゃない!」

俊也、携帯を取り出す。

春菜「ねぇ、何をしてるの?」
俊也「お前には関係のない事だよ」
春菜「ウソ、だって、あなた、あの人みたいな顔をしているもの。何でそんなに笑っているの? なんでわらっているの? わらわないで! わらわないで!」
俊也「わらっている?」
春菜「わらわないで…」
俊也「……」
春菜「ねぇ、なにをしているの?」
俊也「お前は、俺の理想の物じゃない」
春菜「え?」
俊也「作り物のくせに」

静まる。

春菜「(機械音)ビー、ビーッ。データはデリートされました。データはデリーとされました……」

春菜、下手へ行く。



暫くの間。

俊也「あ、ミックスジュース無くなってた」
五月「俺もコーヒー、いつの間にかなくなってた」

俊也、メニューを手に取る。

俊也「お、丁度同じ。何する?」
五月「コーヒー」
俊也「またかよ」
五月「そういう俊也は?」
俊也「ミックスジュースとー、あとー、んー、腹減ってきたし、パンケーキ?」
五月「パンケーキって」
俊也「んだよー。お前も頼むの?」
五月「えー、そしたらチーズケーキでいいや」
俊也「へーほー、おっけ。……(下手に向かって)おーい! へーい!」

春菜、下手から来る。

春菜「…はい。お伺いします」
俊也「俺はー、ミックスジュースとパンケーキ」
五月「コーヒーとチーズケーキで」
春菜「すいません。只今ミックスジュースを切らしておりまして」
俊也「あ、そう? んじゃーそうだなーミルクセーキで」
春菜「かしこまりました。注文を繰り返させていただきます。ミルクセーキとパンケーキ、コーヒーとチーズケーキでよろしいでしょうか?」
五月「はい」
春菜「ありがとうございます。…暫くお待ちくださいませ」

春菜、下手へ戻る。

俊也「(笑いながら)そうして佐伯さんは消えちゃうのかぁー」
五月「(笑いながら)そんなこと、言ってやるなよぉー」
俊也「いやぁー本気で危なかった。前の所有者の記憶が残ってるだなんてマジで厄介」
五月「確かにね」
俊也「だろー。しかもバグった記憶しかないって、どんだけガサツに使われてたんだっていうやつ。もしかしたら俺の友達のやつだったのかも?」
五月「世間狭すぎない?」
俊也「わりとあるかもな」
五月「殴られ続けた後には記憶を消して廃棄かあ。ほんとに可哀想だね」
俊也「それな? あーあ、俺ほんと人間に生まれてよかったー。廃棄する側でよかったー。わははは」
五月「アハハハ」
俊也「お前も、そう思うだろ?」
五月「俺は廃棄したことないから分かんないや」
俊也「あぁ、そうか、お前まだ一体しか保有してないもんな」
五月「そんな俊也みたいにたくさん持ってる方がおかしいでしょ」
俊也「そういうもんか?」
五月「そーいうものですよ」

春菜、入り、商品を置く

春菜「(機械音っぽく)ピー。ギ。ピピー」
五月「ありがとうございます」
俊也「ありがと」

春菜、出る
(五月、適度にコーヒーを飲んでください)

俊也「いや、エターナル・ガールってさ、ほーんとあれってすごいよなぁ」
五月「だってアレって、言っちゃえば、人間の偽物でしょ?」
俊也「まぁそう考えるのは安直すぎだけどな」
五月「んじゃぁ、俊也はどう考えるの?」
俊也「人間の偽物?」
五月「同じじゃん(笑)」
俊也「まぁあんなにも人間そっくりに怒ったり泣いたりしたらさ、エターナル・ガールなんてヤツ知らなかったら誰だって人間と思うだろ」
五月「まぁ、そうかもね」
俊也「だろ? だって俺も美央作った時、ただの人間じゃん! どこが闇商売の暗黒ハイパーテクノロジーガールだよ! とかしか思わなかったし」
五月「ミオ?」
俊也「俺特製のエターナル・ガールの名前だよ。美央。後藤美央っていうんだ。俺は経済で、ミオは法学。高校の時の同窓会で偶然会ってそのまま意気投合して付き合ったってやつ」
五月「へー、ゴトウミオね」
俊也「そう。つーかエターナル・ガールさ、この機会にちょうどいいし廃棄し用かなって考えてんだけど、どうかな?」
五月「いいんじゃない? 丁度いい機会だし」
俊也「お。お前もそう思う? んじゃそうするか」
五月「え、だって、エターナル・ガールって俺らのためだけに、あるんだから、俺らのために廃棄されるのだって、本望じゃない?」
俊也「だよなぁー。俺もすんげーそう思う。つーかお前のエターナル・ガールってどんな子?」
五月「そういう、俊也のは?」
俊也「質問返しは卑怯だろ…、まぁ、いいけど。……えっと美央はその、20歳で、服とかが趣味で、なんつーか、まぁ、俺、美央に関しては一目ぼれだったからさぁ…」
五月「ほぉー」
俊也「キモイ声出すなよ。まぁ、なんつーか、抱きしめた時にバニラムスクの香りがして、好きだなぁ、愛してるなぁ、って強く思っちゃうわけ、うん…。……あー、湿っぽいな! はい! 俺の話はおしまい! 次はお前!」
五月「俺? えー、俺のは、サエキハルナで」
俊也「は? 何言ってんだ」
五月「あ、あぁ! 違う違う! ウソウソ。えっと、美央って言って、あ、同じ大学通っててーっていっても、お試しのやつなんだけど…」
俊也「どーせ、お前の事だからそのまま使うだろ? はい、追加料金12万えーん」
五月「まぁ、一応は、貯めてるけど」
俊也「ほぉーら。言わんこっちゃねー」
五月「だって、好きになっちゃったんだから仕方ないじゃん」
俊也「あー。それ、俺も分かるわー」
五月「なんか初めて恋をした感じがすごいんだ」
俊也「まぁ好みのまんま作られてるから可愛い! 好き! って思うのが道理だろうけど」
五月「そうだろうけど」
俊也「けど?」
五月「あ。ううん。なにもない! けど!」
俊也「なんじゃそれ」
五月「ていうか、俺ら、エターナル・ガール、同じ名前だね」
俊也「ゴトウミオ」
五月「ゴトウミオ」
俊也「本当じゃん(笑)おかしいの」
五月「おかしい」
俊也「まぁ偶然じゃねーの」
五月「そういうものなのかなぁ」
俊也「さぁ、知らねーけど(笑)」



美央、入る。
(五月、分かるように過剰にコーヒーを飲んでいってください)

春菜「(声のみ)いらっしゃいませー」
五月「あ、その。おかえり」
美央「えへへ、ただいま」
俊也「あ、美央じゃん。おかえり」
美央「俊也と五月だ。ただいま」
俊也「やっぱり俺らって腐れ縁」
五月「そう、腐れ縁だねー」
美央「あはは。そのセリフ何回聞いたと思ってるの?」
俊也「何回言ったんだろ。数えてねーや」
五月「数える価値ないし」
俊也「それな」
美央「フーン。そっか、あ、(五月の前を指す)座っていい?」
五月「うん、どうぞ」

美央、五月の前に座る。
俊也、五月の隣に移動する。

美央「ねぇ、私がいない間、何のお話してたの?」
五月「エターナル・ガール」
美央「え?」
俊也「エターナル・ガールについて話してた」
美央「へー、あ、そう…」
五月「まぁ、その話はしなくても…いいよね。あ、美央、何飲む?」
美央「ミックスジュース」
五月「あれ」
俊也「今、ミックスジュースは切れてるぞ」
美央「え、ウソ。んんんー、そしたら、そのー、ウーン」

美央、メニューを手に取って、唸る。
五月、コーヒーを飲む。
俊也、ミルクセーキを飲む。

美央「そしたら、レモンティーでいいや」
五月「うん。俊也はどうするの?」
俊也「俺? え、ウーン、水でいいや」
五月「オーケ。……あのー!」
春菜「はい、お伺いします」

春菜、来る。

春菜「はい」
五月「レモンティーと、水と、コーヒー、もらえる?」
俊也「またコーヒーかよ」
春菜「はい、かしこまりました」

春菜、去る。

美央「おかしいなあ」
五月「え?」
美央「いや、何もないよ、五月」
五月「さつき?」
美央「違う?」
俊也「落ちつけよ」
美央「はい」
五月「うん」
俊也「……」
五月「……」
美央「……」
俊也「……」
五月「……」
美央「あの」
五月「なに?」
美央「あなたたちの名前は?」
五月「いや、こっちが聞きたいけど」
美央「まず、あなたの名前って何?」
五月「俺の名前って」
美央「思い出せる?」
五月「ナカジマサツキ」
俊也「あれ?」
五月「なに」
俊也「まず、俺の名前って何だっけ?」
五月「五月、じゃない?」
俊也「あぁ、そう。五月」
五月「それがどうかしたの?」
俊也「五月、五月、さつき、さつき…」
五月「は?」
俊也「タニウチシュンヤ?」
五月「そうだよね?」
美央「あなたたちは誰?」
俊也「オレハ、ナカジマサツキデース」
五月「あれ? それ俺なんじゃないの?」
俊也「あぁ、そう、お前の名前はタニウチシュンヤだったよな?」
五月「(俊也を指す)タニウチシュンヤ?」
俊也「(五月を指す)そうだろう、俊也」
五月「ソレデイイヨー」
俊也「俊也」
五月「はい」
俊也「ハハハハ、なんか、面白いなぁ」
五月「そう」
美央「そう。ねぇ、聞いてほしいの! 俊也!」
五月 俊也「「はい」」
美央「もー、俊也は(五月を指す)こっちでしょ」
俊也「あ? あ…、あーっはっは、ごめん、俺はサツキだった」



春菜、入る。

春菜「ぎ、失礼しまままままみす、お飲み物でござざざいます」

春菜、飲み物を机の上において去る。

美央「私は、レモンティー」
五月 俊也「「俺は」」

五月と俊也、コーヒーを手に取る。

俊也「もー、だからさ、俊也は、これだろ」

俊也、五月に水を押しつける。

五月「あ、う、うん?」

五月、水を飲む。

俊也「だってミックスジュースがなかったもんな」
五月「うん、多分?」
美央「多分って。ちゃんとしてよ、俊也」
五月 俊也「「うん/おう」」
美央「(呆れ気味に笑う)もー、だからぁ…」
俊也「(呆れ気味に笑う)もー、俊也のせいだからな」
五月「あ、ごめん」
俊也「ごめんごめん、ってさ(笑)」
五月「…」
俊也「…」
美央「…」
俊也「五月?」
五月「はい」
俊也「俊也だろ」
五月「はい」
俊也「お前は俊也でーす」
五月「…」
俊也「つまらねー。まぁ、いいけど」
五月「…そう」
俊也「ところでさ」
五月「なに」
俊也「こんなの、知ってるか?」
五月「何の話なの、五月」
俊也「俺って五月だっけ?」
五月「それは、もうどうでもいいよ」
俊也「……あー、うん」
五月「で、何の話?」
俊也「コーヒーって、辛い」
五月「そうだね」
美央「味覚が、だいぶおかしくなってるんだよ」
五月「あぁ、そうかも」
美央「壊れてきちゃってるんだよ」

五月、コーヒーを飲む。

俊也「腐れ縁」
五月「そうだね。これでお見事100回目です」
俊也「あぁ、そうだ」
美央「何の話をしてるの?」
五月「コーヒーは甘いんだ」
美央「そうなのかな?」
五月「そうなんだよ」
俊也「美央、お前がおかしいんじゃないのか?」
五月「でも、その声も」
俊也「あぁ、お前も?」
五月「聞こえてこなくなってきちゃった」
俊也「街の声は?」
五月「分からない」

ラジオの音(天気予報系)

美央「今日、快晴だって」
五月「聞こえる?」
俊也「何も聞こえないや」
五月「聞こえない」
美央「何も聞こえないの?」
五月「コーヒーは?」
俊也「きっと、塩辛いんじゃないのか?」
五月「でも、それは俺の理想じゃないんでしょ?」
俊也「五月の理想はなに?」
五月「俺の理想は思い通りになることだけど」
俊也「けど?」
五月「けど。なにもないけど」
美央「なにもないけど?」
五月「なにもないことが今ここにあることだよ」
俊也「そうだな」
美央「怖い?」
五月「美央が思うなら俺も怖い」
俊也「美央が思うなら俺も怖い」
五月「ナカジマサツキ」
俊也「ナカジマサツキ」
美央「ナカジマサツキ」
五月「(壊れていく感じに)そうデス。さつき、さつき、さつ、き、さつきさつきさつきさつきさつきさつきさつきさつき……」
俊也「は?」

暫くの間。

春菜「いらっしゃいませー、さようならー、ありがとうー、ウーウーウウウウー」(歩きまわりながら)
五月「あぁ、おかえり、ハルナ」
俊也「ハルナ」
美央「ハルナ?」
五月「ごめん、紹介まだだったね。彼女、ハルナだよ」
美央「え、あ、うん」
俊也「おめでとう! 結婚式はいつになるんでしょうか」
五月「あぁ、そう、俺は、エターナル・ガールについて話してたんだっけ?」
俊也「エターナル・ガール?」
五月「シーツーエイチシックスオー。C2H6Oだよ」
俊也「シーツーエイチシックスオー。C2H6Oだよ」
五月「エタノール」
俊也「サツキ?」
五月「サツキ」
美央「五月?」
五月「サツ」

五月、急に動きが止まる。
俊也、コーヒーを飲む。



俊也「あれ? 止まったわ」
美央「え?」
俊也「…あ、あぁ、何もないよ。サツキちゃん」
美央「そうなの?」
俊也「あぁ、多分…?」
美央「でも、私の彼氏だったのにー」
俊也「俺も彼氏じゃん(笑)」
美央「あぁ。そう言えば、そういう設定だったね」
俊也「そうじゃん。なに言ってんだよ」

俊也、コーヒーを飲む。

俊也「…みお」

俊也、コーヒーを飲む。

俊也「……、いや」

俊也、コーヒーを飲み続ける。

美央「苦くないの?」
俊也「甘いんだろ?」
美央「(コーヒーを指す)それ」
俊也「これ?」
美央「苦くないの?」
俊也「にが…、にがい?」
美央「(俊也の腕を見る)……」
俊也「な、なんだよ。ハルナ」
美央「腕に、4と9って、書かれてるよ」
俊也「え? ナニソレ」
美央「それ、何の番号なんだろう?」
俊也「え、あ、だ、だって、す、すてられたときの、あの、あれ」
美央「あれ?」
俊也「ミオ? ミオ、アレ、ミオ、ミオ、ミオミオ、ミオ、ミオ、ミオ!!!」
美央「なぁに」
俊也「え、あ、ぁ、ああ、違う、違う、違う!!! あの、あの子は、あの子は、あの子は、あの子…、俺を好きで、大好きで、俺は、俺は……、あ、違う、違う!」
美央「あの子って?」
俊也「あの子は、おれを、おれ、あ、違う、ち」
美央「あぁ、そっか。俊也って」
俊也「ウソ、だって、お前、あの子みたいな顔をしてる、だって、あれ、ちがうちがうちがうちがう、ちがう、ちがう」
美央「何が違うの?」
俊也「わらうな、なにわらってんだよ、なに、あの子みたいにわらうな、あの子、あの子は、あの、あ、ぎー。ぴー、あの、あの子―」
美央「あぁ、ごめんね。あの子みたいに笑っちゃってたね」
俊也「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」
美央「俊也。人間でよかったって? でも残念だね」
俊也「あ……」
美央「お前は、人間じゃなかったんだよ」
俊也「あ」
美央「仕舞いには、4と9の数字」
俊也「やだ」
美央「それって、どういうことか、わかる?」
俊也「…」
美央「捨てられた、って」
俊也「(機械音みたいに)ギ。ピー、ピー、ピー」
美央「捨てられちゃって……」
俊也「あ」
美央「すっごく、可哀想だね」

俊也、急に動きが止まる。



美央「あーあ、旧型ってやっぱり駄目だなぁ。殴っても馬鹿みたいに好き好き言うし、こーんな感じにイカれちゃうもんなぁ…、まぁいいけど」
俊也「……」
美央「ま、俊也なんてどーでもいいや」

美央、俊也を椅子から落とす。
俊也、床に倒れ込む。

美央「だって、私には五月しかいないんだもん…」

美央、五月の手を握る。

美央「ねぇ。五月、知ってる?」
五月「…」
美央「五月は、私のエターナル・ボーイだったの」

美央、五月の腕を眺める。包帯を剥ぐ。

美央「私ね、五月の事、本当に好きなの、大好き」

美央、一呼吸

美央「五月と、ずっと、一緒にいたい」

美央、腕時計を横眼で見る

美央「ずっと、永遠にいたいの」

五月、ゆっくりと顔を上げる。
五月「あの、えいえん、ってなんですか?」
美央「わたしたち、永遠に一緒にいるの」
五月「すきです、だから、泣かないでください、なつきさん」
美央「…ねぇ、さっきから、誰の事言ってるの」
五月「なぁ。俺、マジですきだぜ、ゆきこの事。俺、そう、言ってるから、泣かないで、泣かないで、泣かないで、泣かないで、なかないでぇ」
美央「私は、美央だよ。ねぇ、五月、私は、あなたが好きなのに」
五月「俺も好きです、泣かないでください、泣かないでください、お願いです」
美央「…私、ずっと、好きだから。…だから、私の名前、も一回呼んで」
五月「(間を置いて)俺、すき、すき、だいすき。ゆうな、すき、えいえんにだいすきー」
美央「………えいえんにだいすきー」

五月、首を傾げ、また止まる。
美央、静かに泣きながら、五月の手を握りしめる。

徐々に溶暗。

       

表紙

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Neetsha