「あれは何だろう」
目の前に座るアカネは言った。彼女は窓の外を指差している。
「人かな?」
人だろうか。指の先を辿ると、何かが歩道の片隅に落ちているのは確認できる。
「まさかあ」
「分からないよ」
深夜帯であるために、人通りは無く、落ちている物に対する反応が見られない。ファミレスの店内も他に客は居なかった。
しかし、二人とも本当に人が倒れているなどとは思っておらず、大して関心も抱いていない。そのため、二人の注意は直ぐに食事へ戻った。
「いやあ、やっぱり一日の終わりに食べるアボカドは格別だねえ」
なんだそれは。
「一口食べる?」
「いや、いいよ」
「恥ずかしがってるの?別に誰も見てないよ」
誰も見てないってことは無いだろう。
「あれ、さっきのが無くなってる」
アカネは再び外を眺めている。
「本当だ」
俺も先程の歩道に目を向けるが、彼女の言う通り、歩道の上に落ちていた何かは姿を消していた。やはり、人だったのだろうか?
まあ、仮に人間だったとして、騒ぎになることなく居なくなったのなら、無事だったのだろう。
「さて」
空になった皿を前に、彼女は座席の上に片膝を立てる。
「はしたないぞ」
「別に。視られて困る人はいないしね」
俺は良いのか。何だか失礼である。
彼女の空けた皿を店員が片づけに来ることはなく、それよりずっと前に食べ終えた俺の皿を取りにもこない。
深夜だからといって気を抜きすぎではないだろうか。
その時、アカネがポンと手を叩く。
「じゃあ帰ろうか。タカシ。今日は私の奢りだからね」
「ああ。でも最近アカネには御馳走になってばかりだ」
そう言って、俺の前の席に座るカップルが立ち上がった。
丁度、柱に隠れて俺の位置からは見えなかった。彼氏も姿を現した。
二人組はゆっくりとカウンターへ向かい、会計を済ませる。
ファミレスの店内に再び静寂が訪れる。
アカネとタカシ。漢字で書けば、茜と隆だろうか?