Neetel Inside 文芸新都
表紙

倒錯姉弟
姉の手

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「ただいま…と」
誰に言うともなく、僕は呟いた。
少し汚れた革靴を玄関に放ったままに、通学バッグを肩からおろす。
そして溜め息をつきながらリビングに入ったところで、ソファに座る姉の後頭部が窺えた。
「なんだよ、いたのか」
「おう、おかえり」
姉弟の会話と言っても、こんなもの。
姉のゆかりはこちらには目もくれず、テレビに視線を向けたままだ。
実に素っ気無い。

僕は冷蔵庫から麦茶を取り出し、それをグラスに注ぎ込む。
学校から帰ってきて最初の一杯が美味いのだ。
「あたしにもー」
リビングから声が飛んでくる。
僕は返事もせずグラスをもう一つ用意すると、同じような動作でそれを満たした。


「おら」
ソファの前のテーブルに、グラスをゴトッと叩き置いた。
「さんきゅ」
そう言うと彼女は僕の方を初めて向いた。
少し茶色掛かった彼女の髪が揺れた。

一瞬、僕の中で時が止まる。

何故か無意識的に顔を逸らしてしまった。
いや、正確には「何故か」ではない。理由は分かっているつもりだ。

僕は…姉のことが好きなんだ。


素っ気無い会話も、ぶっきらぼうな態度も、全部自分を押し殺すための芝居に過ぎない。
そうやって僕は姉と点で重なろうとせず、線で交差してきた。
しかし。
「なんだよ、目ぇ逸らすことないじゃんよ」
そう言いながらマジマジと見つめてくる姉に対し、僕は戸惑い、逃げ場を失った。

このまま逸らし続けるのも変だし、かと言って見つめ返すのも無理ってもんだ。
耐え切れずその場を去ろうとする僕の制服を、彼女の指がしっかりと掴んで離さない。
「逃げるな逃げるな」
笑いを含んだような言い方が、いちいち僕を苦しめる。
言い逃れする理由が見つからない。
「あんた、最近反抗期~?」
茶化すような喋り方を続ける姉。
そうじゃないんだ。けど…もう限界だ。

僕は彼女の手首をグイッと掴むと、そのまま覆いかぶさるように抱き込んだ。
細く、柔らかい感触が伝わる。
このとき僕は、ひどく強張った表情を浮かべていた事だろう。

     

数秒の空白が熱を冷まし、やがて冷静という現実世界へと連れ戻す。
僕はとっさに彼女の手首を離し、驚いて声も出ないのであろうその顔を、怯えた目で見つめた。
「ごめん、いや、その…」
姉とのマトモな関係を崩したくないが故に適当な言葉を頭の中で探っては、見つからずどもってしまう。
たった今犯した愚行を清算するような言葉が欲しい。
なんとか言ってくれよ。
そう願いながら、姉の唇に視線を落としていた。

「ちょっと、びっくりしちゃった」
答えようのない言葉が飛んできた。言われなくても、見てれば分かる。
気づけば僕らは、互いに顔を向け合ったまま。
「ちょっと、ドキッとしちゃった」
彼女はそう続け、ふふっと笑った。イタズラっぽく、そして少し嬉しそうに。
そんな風に感じたのは、僕がおかしくなっているせいなのだろうか。


少しの後、今度は小声で囁くように、彼女が口を開いた。
「ねぇ、どっちなの?」
「どっち…って?」
「お姉ちゃんの事嫌いなの?好きなの?」
からかっているのか、どうなのか。
しかし僕は、導かれるように声を絞り出す。
「嫌いじゃ…ないよ…」
「じゃあ好きって事?」
「そりゃ家族なんだから―」
その瞬間、言いかけた僕の唇を、彼女のそれが塞いだ。

ただ唇を重ねているだけの、しかし長い長い、長すぎる接吻。
やがて息の続かなくなった僕はプフッと唇を離し、高鳴る鼓動を抑えようと呼吸を繰り返した。
そうしている間にも、姉は再び顔を近づけてくる。
「そうじゃなくて」
鋭い、若干にらむ様な目つき。
「家族とかじゃなくて、あたしの事。好き?嫌い?」
今度は"お姉ちゃん"ではなく、"あたし"と言った。

「…好き、好きだよ」
僕は震える声を悟られまいと、必死に喋る。
「誰のことが?」
それを知ってか知らずか、姉は意地悪にさらに僕を追い詰める。
「…ねえちゃん」
「じゃなくて、ちゃんと名前で言って」
「……ゆ、ゆかり」
「はい、じゃ最初から続けて」
「…好きだよ…ゆかり」
誘導尋問のようなやり取り。しかしこの言葉は、決して言わされたものではない。
今まで思いつつも言えなかった、僕の本心そのものだ。

「よろしい」
満足そうに微笑む彼女の顔が可愛くて、愛しくて。そんな中でも姉は僕の頭を優しく撫でてくれる。
そして無言の合図の上で、僕はゆっくりと…彼女を押し倒した。

     

「ねえ、気持ち悪くないの?」
「何が?」
「弟が姉に好きとか言っちゃって…」
見上げる姉を僕が見下ろしていた。重なり合う視線は同じ、互いの瞳。
「別に気持ち悪くないよ。だって…」
そこで言葉に詰まらせた姉。
初めて恥ずかしそうな、緊張したような表情を見せた。

彼女が言わんとしている事は何となく分かる。恐らくは僕と同じ感情を抱いているに違いない。
でも、それが信じられなくて。
思ったことが口をつき、僕はうそだぁと呟いた。まだ姉は何も言っていないというのに。
「ウソじゃないよ…試してみる?」
そう言うと彼女は僕の頭を優しく無造作につかみ、そのまま引き寄せた。

今度は重ねるだけじゃない。正真正銘のキス。
絡まる舌が痺れるほど甘美で、僕は息をするのも忘れて必死にそれを求めた。
彼女もまた、同じように。
生暖かい温もりが全身をかけめぐり、漏れる互いの吐息がより興奮をかき立てる。
「ねえちゃん…俺もう…」
胸が重なり合っている状態。
体勢が体勢だけに必死に腰を浮かして耐えてきたが、それももう長くは続きそうに無い。
何より、理性が飛びそうだ。

彼女もそれを汲み取ったのか、手を僕の頭から離すと、それをスルスルと僕の下半身の方へ持っていった。
ゆっくりゆっくりと這う指先は、やがて一つの頂にたどり着く。
そして一瞬引きつったように微笑みながら、彼女は「すごいね」と囁いた。
こんな艶っぽい姉の声は初めてだ。
「ねえちゃん…」
「もう、ムード無いなぁ。名前で呼んで欲しいのに」
「あ…」
苦笑いを浮かべながら、残念そうに呟く姉。

僕に余裕が無いのは明らかだ。
逆に姉は徐々に強気になってきたように窺える。
その瞳はまるで獲物をいたぶる時のような、好奇心と興奮の色を浮かべていた。

「これはお仕置き」
強く、弱く、彼女の柔らかい手が僕の下半身をまさぐる。
そして彼女は僕のチャックを下ろすと、今にも暴れだしそうな陰茎を露わにした。
「…温かいね」
ゆっくりと優しく扱うその手とは正反対に、彼女の表情は攻撃的なままだ。
それは視覚から、聴覚から、そして触覚から存分に伝わってくる。
「ゆかり…気持ちいいよ…」
「うん…」
そんなやり取りの一つ一つに、嬉しそうな笑みを浮かべる姉。
優しく、ときに激しく責めあげる手。5本の指の先。
本当はもっと先まで知りたいのに、僕の体は正直に、今の快感をむさぼっていた。


そして訪れる、絶頂。
静かなリビングの中で、こすりあげる音だけが響いている。
「も、もうダメ…」
「いいよ、手で受け止めてあげる」
僕はそれまで必死に堰きとめていた性欲の堤防を決壊し、存分に精液を放出した。
精液を噴き出している最中にも、彼女の指はそれを搾り取るようにしごき続けてくる。
優しく包まれている感覚。何度も腰が抜けそうになりながら、僕は射精の余韻に浸っていた。

「いっぱい…出たね…」
その瞳は僕を見つめたまま。
彼女は満足そうにそう呟くと、僕の頬にキスをした。

       

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