Neetel Inside ニートノベル
表紙

無職&幼女
要望

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 昼下がりのガランとした店内。
 あまり人に見られたくない俺にとっては不幸中の幸いだ。
 人目につきにくい端の方の席に向かう。

 メニューをまじまじと見ている幼女はどこにでもいる普通のJSにしか見えない。
 しかし車での出来事を考えると安心できん。
 どんな言葉でまたプッツンするかわからんしな。

「これとこれ。あとこれも」

 何々?
 ミックスグリルにフライドポテト、それとオレンジジュースか。
 意外によく食うな。そう言えば腹減ってるとか言ってたっけ。
 俺は昼飯を済ませてきたのでコーヒーだけにしておく。


 注文を済ませ、早々に来たオレンジジュースを美味そうに飲む幼女。
 さっきより機嫌も良さそうだし色々聞いてみるか。

「ねえ、家に帰りたくないの?」

 無視してジュースを飲み続ける幼女。
 まあ予想通りの反応だが。

「君の親も心配するだろうし帰ったほうがいいよ」

 ジュースを飲み干し、口からストローを離す幼女。

「あんたこそ人と会う約束はどうしたの?」
「え?あ、いや、なんか向こうが急に忙しくなったみたいでさ……」
「ふーん。携帯ないのにそんなことわかるんだ」

 ぬうう。頭いいなコイツ。俺がバカなだけか。

「ま、まあそれはおいといてさ。ずっとこうしてるわけにもいかないじゃん」
「なんで?」
「だから親が心配するでしょ?」
「あんたあたしの親知ってんの?」
「いや、知らんけど……」
「知ったふうな口きかないでくれる?」

 あどけない表情から発せられる生意気発言がムカつくと同時に心地良い。

「でも君なにも話してくんないじゃん」
「見ず知らずの誘拐犯に個人情報教えられるわけ無いでしょ」
「い、いや、誘拐じゃないよ。一緒に遊ぼうって言っただけで……」
「店員さんに言っちゃおうかな~」

 ダメだ。素直に負けを認めよう。そして丁重にお引き取り願おう。
 ていうかJSが個人情報とかナチュラルに言うか普通。


 そうこう言っているうちに頼んでいた品が来た。
 ホクホクしながらソーセージを頬張る幼女。
 先程の罵倒とのギャップが素晴らしい。
 しかしここで甘くなるわけにはいかん。
 飯食って気分が良くなってる今こそ説得のチャンスだ。

「ごめん。確かに俺は君を誘拐しようと思った。でも携帯も持ってないし住所もわからないって言うんじゃ……」
「携帯持ってるけど」

 鞄からスマホを取り出す幼女。

「どうせあんたも持ってんでしょ?」

 ……これ以上ウソを付くのはやめよう。どうやら墓穴を掘るだけのようだ。

「言っとくけど貸さないよ。力ずくで奪おうとしたら大声出すから」

 へえへえわかりましたよ。あいにくこっちもそんな行動力は残ってないしな。
 大胆にチキンを頬張る幼女は恍惚とした表情を浮かべている。


「……それで、君はこれからどうしたいの?」

 カチャンとフォークを置く幼女。
 先程肉にかぶりついていた時と違い真剣な表情である。

「……どっか連れてってよ」
「え?ごめん、もう一回言って」
「どっか楽しいとこ連れてってって言ったの!」

 そう言うと幼女は再び勢い良く肉を頬張り始める。
 よく見ると耳が少し赤くなっている。
 照れ隠しなのか。可愛いなチクショウ。

 しかしそれとこれとは話が別だ。今日中に帰ってもらわねば親に警察を呼ばれて取り返しの付かないことになるだろう。

「親に連れてってもらえばいいじゃん」

ミックスグリルを平らげた少女は水を飲んでポテトをつまみ始める。

「そういう家じゃないから」
「どういうこと?」
「勉強と習い事ばっかでどこにも連れてってくんない」
「じゃ友達と行けばいいじゃん」
「……そんなのつまんないし」

 ふと公園で一人読書をしていた幼女を思い出し、俺は悟った。
 言わないほうがいいか。いやでも生意気な幼女のリアクションが見たい。

「……もしかして友達いないの?」

 幼女はキッと俺を睨みすかさず通りがかった店員に話しかける。

「ねえこの人あたしのこと誘拐――」
「ちょっと待てえええい!!わかった!楽しいとこ連れてくから!」

 訝しげにこちらを見る店員。
 なんとか愛想笑いで誤魔化そうとするが、奥の方で店長らしきオッサンとヒソヒソ話をしている。

 おいおいおい。まずいぞこれは。
 そう思った俺は我関せずとポテトをつまんでいる幼女を引っ張り光速で会計を済ませる。
 そして店を出ると同時に、この先幼女に振り回されるであろう自分の運命を呪った。

       

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