「先生ー!桜来ちゃんがにらんできたー!」
「こら!桜来ちゃんは睨んでるわけじゃないのよ!
ねっ?桜来ちゃん?」
いつも、いつもおんなじだ。
大人達は私を護ってくれる。
かばってくれる、助けてくれる。
でも、頭のいい私は知っている。
長いものに巻かれたくて、私を守る大人達はみんな真っ黒に見えた。
大人は私を見てくれない。見てるのは私のバックの人達。
汚い。汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い
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「おえぇええぇえ…」
汚い夢。
中学生になった今でもこんな夢を見るなんてアホらしい。
ネグリジェが汗で湿っていて気持ち悪い。
まだ半分寝ている頭を起こすように、上半身を起こした。
相変わらず気分は優れない。
また1日が始まることを思うと、さらに優れない。
時刻は7時過ぎ。まだ天外のヴェールを捲ろうとするうるさい召使いは来ないだろう。
動きたくなかったが、音楽を聴くことにした。
ベッドから降りて、オーディオでトロイメライをかける。
天才ピアニストの母が、私のためだけに弾いてくれたものだ。
母の旋律を聞いている時だけ、汚い両親を許すことができた。
曲が終わり、次のトラックの曲になる。
世界的な指揮者の父が指揮を振る曲だ。
名前が長くて、難しくて覚えていない。
だが、この曲を聴くと体が震えた。
二人の汚さを思い出してしまったからだ。
涙がとまらない。誰か助けて。
お金なんかいらない。大きい家も、地位も名誉もいらないから。
ただ、愛されたかっただけなのに。