秋の深まる満月の夜、サムライの家では団子を食べながら月見をするのが習わしである。三味線をBGMに、カブキをダンスし、ハイクを詠むのだ。
小さな下僕妖精ブラウニーどもがタタミを掃き清め、ビョウブをトコノマに飾る。いざ準備は終わり、妖怪屋敷の家人は月見を楽しまんとした。
だが、そこへ到来する一大事!
「団子がねえだと!?」
双頭のオーガの左首が怒鳴る。右首は青ざめ失神する。
「しかり」
サイクロプスが頷き、単眼を細めた。
「老舗団子屋のヨシミツは、不況の煽りを受けて倒産してしまった」
「てやんでえ、そんな方便あるか! 幼女御前にどう言い訳すんだ!」
家の妖怪どもは、身を落としたとはいえ、心はサムライであった。
そして、サムライはレディ・ファーストを信条としている。サムライは、そこらのニンジャ・ゲイシャ・オタクとは格が違うのである。
月見に団子が無いなどと抜かすは、奥に控える屋敷の女主人、幼女御前の顔に泥塗る行為であった。
「スケルトンよ、貴殿の助言を乞いたい。この困難、どう乗り越えよう?」
サイクロプスが問うと、ジャパニーズ・ガーデンに面した縁側で寝そべるスケルトンが気だるそうに応じた。
「ボクは庭奉行でね。団子に関しては感知しかねるよ」
スケルトンはそう言い、ここで一句ハイクを詠んだ。
「『古池や スライム飛び込む 水の音』。……早く団子を用意してくれたまえ。ボクはお腹ぺこぺこだよ」
「てめえのどこに腹があるってんだ!」
オーガが呻く。
いよいよ進退窮まった。
幼女御前の楽しみにしている月見で団子を出せないとは、甚大なるソソウであり、サムライとしての名折れである。ドゲザで済まされることではない。
面目を保つにはハラキリ・スウドクするしかないのであろうか!?
そのとき、部屋の隅で瞑目していたビッグフェイスが口を開いた。
「やれやれ、四季を楽しむイベントにも関わらず、ダンドリが悪くてこの狼狽えよう。嘆かわしいことだな」
その泰然自若とした様に苛立ちオーガが立ち上がる。
「てめえはデカい面しているばかりで、何の役にも立ってねえじゃねえか!」
「手なら既に打った。月見は問題なく決行される」
ビッグフェイスが言うと同時に、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
「すいませーん、ペッパー・ピザです!」
玄関からの声。
瞬時に、この場の妖怪どもは、ビッグフェイスが禁じ手を用いて問題を解決したことを悟った。
玄関にてピザ配達の飛脚が続けて言った。
「ご注文いただいたアンチョビ・チーズコンボの団子トッピング・ピザ、ラージサイズ六人前、お届けにあがりました!」