あたしがこの子を見つけたのは五日前のことだった。
この子はダンボール箱の中で泣いていた、気がする。よくおぼえてない。でもあたしが見つけたときは、あたしとあなたが今見えてるぐらいの大きさじゃなくて、もっともっと小さかったんだよ。頭のない子猫ぐらいだったかな、こんなに触手も多くなかったし、太くもなかったし、腕も生えてなかった。二、三本ぐらいのもやしを毛玉にくっつけたら、多分同じになると思う。そのぐらい小さかった。
それでね、お父さんとお母さんに飼ってもいい? って聞こうとしたんだけど、大人はこの子のこと見えないみたいだったの。だって里見おじさんも涼子おばさんもちっとも見えてなかったみたいだから。あ、でもコロは吠えてたから、見えてたんじゃないかな。――あっ、こらっ! 勝手に食べちゃだめ!
……ごめんね。もっと躾けてから連れてこればよかったね。でも悪い子じゃないんだよ。あたしが泣いてたら慰めてくれるし、コロのおさんぽにだって行ってくれるんだよ? ほんとだよ?
でね、この子を飼い始めていちばん大変だったのは、餌なんだよね。この子、お肉しか食べないから。それでずっと冷蔵庫のお肉とかおさかなとかあげてたんだけど、それだけじゃ足りなくなっちゃってね、ずうっとうるさいから、だからね、あたし、同じクラスのマリコちゃんを持ってきてあげたの。そしたら一週間ぐらいは文句言わなくなったの。それまでは一日たてばすぐにお腹減らしてたのにね。最近、クラスのみんな休んでばっかでしょ?
あれぜんぶこの子が食べたからなんだ。
……でね、あなたに言いたいのはね。……こらっ! ダメだってば! ……なんだっけ。あっ、そうだそうだ。そう、このことをできるだけ秘密にしておいてほしいの。だって、マリコちゃんのお父さんもタカシくんのお母さんも、いなくなってからずうっと悲しい顔してるんだもん。でもね、たぶんこの子にあたしがみんなを食べさせてるってバレたら、あたしけーさつってところに入れられて、そしたらこの子に餌上げれなくて、もしかしたらこの子も死んじゃうかもしんないから、だからね、これは、あたしとあなたと……この子の、秘密にしておいてほしいんだけど……。
あ。
もう、だから食べないでって言ったのに。
アサコちゃん死んじゃったじゃん。
せっかくわかってくれたかもしれなかったのに。